第30話:参入
「夜襲に関して考える前に、君たちの生徒会参入の意向だけ聞いておこう。今までの話を聞いて参入を拒否する者はいるかい?」
夜襲の件を聞いた今、生徒会に入った方が得策だ。彼らが夜に出歩いていた者に対して攻撃を仕掛けたのか、あるいは俺と伊井予に狙いを定めて攻撃を仕掛けてきたのか。後者だった場合、また襲われる可能性がある。自分の身を守る方法として学内で権力のある人間の配下につくのは悪いことではない。
久世さんの問いに返事する者はいなかった。全員が参入を決めたらしい。
「よろしい。なら、夜襲の件について話を進めていくとしよう。久遠くんと伊井予くんが被害に遭ったわけだが、襲撃者は元から二人のうちどちらかに狙いを定めていたのか。それとも、夜に出歩いていた生徒に狙いを定めていたかが分からない。他に夜襲を受けた生徒を知っている者はいるかい?」
しばらくの静寂があった末に伊井予が手を挙げた。久世さんは話を促す。
「夜襲を受けた生徒は知りません。ただ、私の隣にいる我妻さんもまた私たちが夜襲を受けた際に出歩いていたと思います。エレベーターで一緒になったので」
そういえば、夜襲に遭った日、伊井予と二人でエレベータに乗っていたところに我妻がやって来たんだっけ。もし、我妻も被害に遭っているとするならば襲撃者は夜に出歩いていた生徒を狙ったと見て良さそうだ。
「今年の非戦闘特化の優秀者は揃いも揃って戦闘能力以外はだらしがないみたいですね」
久世さんの後ろにいた女性が初めて口を開いた。
冷徹な声に冷ややかな視線を送ってくる。俺は困ったように頭に手を乗せた。伊井予も同じ動作をし、我妻はいつもどおり平然としている。
「まあまあ。彼らが下手な行動を取ってくれたおかげで危険な存在を感知できたんだ。今回は喜ばしいことだと思っておこう。それで、我妻くんは被害に遭ったのかな?」
「いえ。出歩いている際に私に攻撃を仕掛けてきた者はいませんでした。遠くで戦闘を行っている様子が伺えましたが、おそらく隣にいる彼らでしょう」
「つまり、敵は伊井予くんと久遠くんのどちらか、あるいは二人をターゲットに強襲を仕掛けてきた可能性があると言うことか。二人は何か恨みを買われるようなことをしたかな?」
「正直わかりません」
「私もです」
俺も伊井予も考える暇なく答えを口にした。
「心当たりなしか。であれば、彼らから直接聞くのが一番手っ取り早いね。本日より夜間に警備を当てよう。美陽、警備の当番を見繕ってくれる」
「分かりました。当番の編成はいかがいたしましょう」
「2人1ペアとし、伊井予くんと久遠くんはペアを固定。その他は1、2年を混ぜる形でいこう。2人には申し訳ないけど、君たちの警備頻度は高めにさせてもらうよ」
襲撃者を素早く掴めるためなら仕方のないことだろう。
俺は「分かりました」と返事をする。伊井予も大きく頷いた。
「では、今聞いた情報を元に当番を編成いたします。当番は昼頃にはメッセージでお送りしますので、見ておいてください。本日から警備は始まりますので、気を引き締めて業務に勤めてください」
「進級してすぐに仕事か。先が思いやられるな」
右側の手前に座る男が両手を後ろにやり、座っている椅子を一つの支柱だけで立たせ、だらしない格好になりながらため息を漏らす。俺の迂闊な発言によって大事になってしまったので、なんだか申し訳ない気持ちになる。
「悪いことではない。いずれは浮き上がる問題が仕事のない今に姿を表したのだ。むしろ喜ばしいことだろう」
彼の横に座る堅物の男が姿勢を正した状態で励ます。俺を庇うような言い方に好感を持たざるを得なかった。
「ただ……小春、警備のペア決めは今行ってはどうだろう?」
堅物の男は少し考える仕草を見せた後、久世さんに顔を向ける。彼の下の名前は小春と言うらしい。見かけによらず可愛い名前だ。
「その心は?」
「我々の中で四人は新参者の1年生とペアを組む必要がある。クラスカースト決めの戦いは動画で見させてもらったが、実際に目にすると自分が思い描いていたのと違うかもしれない。自分のペアの実力を把握しないまま、敵と戦うのはリスクだ。だから今ここでペアを決め、生徒会歓迎試合としてぺアの実力を測るのはどうだろう?」
「重信のアイデアは悪くないね。確かに、実力の分からない相手に自分の背中を預けるのは得策じゃない。ペアの実力がわかってこそ、気にかける範囲を選定することができるからね。では、ペアは今ここで決めてしまおうか」
久世さんは後ろにいる女性に目配せをする。ペア決めを彼女に委ねようとしたのだろう。
「では、先にペアから決めたいと思います。まず、戦闘特化のうち同じ属性を有している者はペアにしましょう。1年生の
「よろしくな」
重信さんの横にいるだらしない格好をした男性が一番右にいる男性を見る。おそらく彼が明徳さんであろう。
「こちらこそよろしくお願いします」
一番右側にいる雷文は礼儀正しくお辞儀をした。
その二つ手前にいた宵越と呼ばれた女性が右拳を左掌にぶつけて前に出る。
「睦美ってやろうは誰だ?」
「私よ」
左側奥にいる色っぽい女性が肘をつきながら名乗りを上げた。
「てめえは強いのか?」
「先輩には敬語を使いなさい。そうね。あなたを調教させられるくらいには強いかしら」
「へっ。おもしれぇこと言いやがるお姉さんだぜ」
前のペアとは裏腹に二つ目のペアはすでに先が思いやられるほどバチバチの状態だ。重信さんや雷文が同級生を注意しているが、それ以外の人間は微笑ましく見ていたり、興味がなかったりといった感じだ。
「井伊予さんと久遠くんはペアが決定しているので残りは二ペアですね。女子二人での警備は危険かとは思いますが、宵越さんと睦美さんの二人がペアを組んだ以上、考慮する必要はないと見ていいでしょう。生徒会の属している以上、男子をも跳ね除ける実力はあると思いますし」
「あの〜」
女性が決めかねていると、1年側にいる気の弱そうな男性が手を上げる。
「どうしましたか?」
「僕はそちらにいる女子の方とペアを組みたいです」
男性は左側手前にいる女性を指さした。
「あら、異性を指名するなんて。大胆な子ね」
睦美さんは面白いおもちゃを見つけたようで興味津々の目を向ける。
「いっ、いえ! その……なんていうか……下心とかはなく、彼女が一番相性がいい気がしたので」
「あら、相性だなんて! 下心全開じゃない!?」
「ち、違います!」
「杏奈」
2人の茶番に水を差すように左側手前の女性が睦美さんの名前を呼ぶ。
「多分、彼は他の3人は怖いからペアになりたくないんだと思う」
女性の発言によって、久世さんと彼の後ろの女性、それから重信さんが男性に顔を向けた。彼は慌てふためいた様子で「そ、そうですけど。言わないでいただけるとありがたかったです」と2年生から顔を背けながらボソッと口にした。
「灰山さんは彼がペアで問題ありませんか?」
「問題なし。砂山くんの言うとおり、私と彼は案外相性がいいかもしれないから」
「分かりました。では、1年生の
重信さん改め堂前さんが「よろしく頼む」と口にすると、我妻はそっけなく「こちらこそ」と呟いた。
「では、ペアも決まったところだし、歓迎試合と行こうぜ!」
戦いたくてうずうずしているのか、宵越が先頭を切って話す。拳には【火炎遊戯】による炎が灯されていた。
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