第25話:上位リーグ戦6【クラスカースト決め】

「私の【多様剣聖】の能力を模倣するとは。私への挑戦か。使い始めの素人に、十数年使ってきた玄人が負けるはずがなかろう」


「承知しているよ。でも、物は試しってやつだ」


「ふっ。自分が有利だからといって調子に乗ると痛い目を見るぞ!」


 我妻は俺の元に颯爽と駆けてくる。

 彼女の言うとおり、今まさに【多様剣聖】の能力を使い始めた素人が長年【多様剣聖】の能力を使い続けてきた玄人に敵うとは思っていない。


 でも、俺には能力の組み合わせがある。

 迫り来る我妻に対して剣を振るう。俺と彼女の距離は未だ十分離れていたので剣は空を切った。我妻は「何のつもりだ?」とでも言うように表情を曇らせる。


 ミスではない。

 最初から彼女と剣でタイマンしようなんて気は毛頭ないのだから。


 空を切った部分を起点に強風が吹き荒れる。我妻は迫り来る風に押されてスピードを落とす。

 先日の夜襲の際、井伊予が使った技を模倣した。【波動支配】の力によって強風を巻き起こしたのだ。


 それだけでは終わらない。


【氷雪遊戯】の能力を発動する。

 目の前に氷柱を生成し、我妻に向けて発射する。夜襲の時は向かい風だったので氷柱は勢いを失って地面に落ちた。しかし、今回は向かい風。氷柱は発射時よりもスピードを上げて我妻を襲う。


 我妻は持っていた剣をクロスさせて構える。下手に剣を振ろうものなら強風に手を取られて体制を崩すと思ったのだろう。ただ、クロスさせただけでは氷柱の攻撃を全て防ぐことはできない。幾らかの氷柱は体に突き刺さり、ダメージを受けた。


 とはいえ、ダメージを受けるだけでは終わらないのが我妻だ。

 クロスさせた剣を俺に向ける。すると、視界に波の筋が発生した。俺は横に体を投げ、後ろからやってきた剣を交わす。


 前転して体制を整える。

 すると、目の前に我妻の姿があった。俺が避けるのに夢中になっている間に、強風から逃れてこちらにやってきたみたいだ。


「はっ!」


 剣を振るう。俺はすかさず持っていた日本刀で攻撃を受け止めた。

 すぐに二本目の剣が猛威を振るう。受け止める術がないので、【瞬間移動】を使って我妻からの距離を取る。


 移動した瞬間、俺に一本の剣が飛んできた。

 日本刀で弾くが、強烈な力に体制を崩す。隙を突くように三本の波の筋が描かれる。すぐさま【瞬間移動】の能力で難を逃れる。


「面倒な能力をたくさん持っているな。だが、一度食らえば次は避けられる」


 大言壮語に聞こえるが、我妻ならばそうだろうと思えてしまうところが怖い。長引かせるのは自分の首を絞め続けることに繋がるのだろう。


「次で決める」


「大きく出たな。なら、私も全身全霊を持って君の攻撃に受けて立とう」


 我妻は持っていた二本の剣を俺に向けた。

 剣の存在を強調する我妻とは裏腹に、俺は持っていた日本刀を消し去った。


 そして、【透明成化】によって自身の姿をも消し去る。


 俺が姿を消したことで我妻の目に鋭さが増した。視界が当てにならない今、神経を研ぎ澄ませることで俺の存在を感知しようとしているみたいだ。


【透明成化】単体においては足音によって居場所を特定されるという弱点がある。今この場ですぐに動こうものなら神経を研ぎ澄ませた我妻にすぐに居場所をばらすことになるだろう。


 だからこそ、能力を組み合わせる必要がある。

【氷雪遊戯】の能力をイメージ。周りに氷柱を展開させる。発射された氷柱を我妻は剣で悉く弾いていく。


 彼女に攻撃を食らわせることは叶わない。

 しかし、氷柱に気を取られ、俺の居場所特定がしにくくなっているはずだ。

【瞬間移動】の能力をイメージ。我妻の目の前にいたところから、一転して我妻の右へと遷移する。


 そこでもさらに氷柱を生成し、我妻に向けて解き放った。

 本当なら炎のレーザー光線を放ったり、剣を使って強風を靡かせたりしたかったのだが、俺の使える【透明成化】の能力は自身に対してのみで、剣や炎を透明にする事はできない。


 だから場所の特定が困難な氷柱の攻撃によって我妻の体力を消費させる。


「私の体力を奪い、弱ったところを狙おうという魂胆か。これまで真っ向から驚かせてくれたのに、最後は小賢しい真似をするんだな」


 我妻は四方八方から迫り来る氷柱を自身に当てることなく剣で防いでいく。


「この程度の攻撃で私にとどめを刺そうと思っていたとは。随分と舐められたものだな」


 生成して発射を繰り返す氷柱には攻撃の時差が出る。

 時差を利用して我妻は自身の体に剣を寄せた。それを解き放つようにして自身の体を回転させる。二本の剣による風圧で氷柱は我妻に辿り着く前にこぼれ落ちる。


 能力を使わずに風を発生させるとは。恐るべき芸当だな。


「この空間は私の剣が支配した。氷柱で攻撃した分のお礼はさせてもらうぞ」


 我妻はどこにいるか分からない俺に向けて言葉を発すると、戦闘スペースの端に寄っていく。俺のいる場所とは逆方向だ。


「【多様剣聖】:裁きの剣<ジャッジメント・ソード>」


 我妻が剣を振るった瞬間、俺の視界に幾数もの波が疼く。


 彼女の左右に点在する百はくだらない波紋。それらはレーザー光線のように一直線の波の筋を描いていく。ポインターのようにこちらに向けられる波は細かい感覚を刻んでおり、人の入れるスペースはない。


 通り過ぎる波の筋が全て剣の軌道だとするならば逃げ場はない。これが彼女の全身全霊か。


 逃げることが叶わないならば、受け止めるしかない。


【能力無効】を使うことで防ぐ事はできる。しかし、その場合、俺の【透明成化】の能力は消え、我妻に可視化される。すぐさま彼女がやってきて対満となれば敗北の可能性は否めない。


 仮に能力を解いて【瞬間移動】で間合いをとったとしても、視覚から剣を飛ばしてくる可能性がある。一度食らった攻撃は通じないことを信じるなら、能力を有効にした瞬間に、反撃してくる可能性は大いにあり得る。


 なら、我妻の言うとおり真っ向から彼女をあっと言わせるしかない。

 俺は【多様剣聖】の能力を使って日本刀を生成する。両手で握りしめ、【波動支配】による強風で剣を薙ぎ払うために大きく振るう。


 だが、日本刀は突如やってきた剣に弾かれる。

 前方を見ると、我妻の片方の剣がなくなっていた。剣を槍のようにして俺の攻撃を止めたようだ。

【波動支配】の攻撃が失敗に終わったことで何もできぬまま大量の剣が俺に向けて飛んできた。


 剣を構え直し、自分を通過する剣に狙いを定めて日本刀を振るう。

 体を剣の軌道に合わせるようにして逸らすことで受ける面積を減らす。それでも、右肩と左膝に剣が刺さった。


 スクリーンに目を向ける。

 HPバーが大きく減っている。我妻のHPを下回っている。幸い、まだ尽きてはいない。


「よそ見は厳禁だよ」


 全ての剣が発射された後、今度は我妻が単身でやってくる。

 握りしめた日本刀は【透明成化】の効果が適用されていない。我妻には日本刀をたどって俺の姿が見えているようだ。


「お返しだ!」


 両手で握りしめた日本刀の刃先を向け、こちらにやってくる我妻に向けて力一杯投げる。我妻は空いた片方の手に剣を生成し、日本刀を最も容易く弾いていった。


「持っていた刀を手放したところで意味はない。君はまだ体に二本の剣を携えているんだからね」


 我妻は一切の曇りなく俺めがけてやってくる。猛獣を狩る狩人のような目を俺に向けていた。間合いを詰めると、俺に振るうために剣を自身に寄せる。


「これで終わりだ」


 そう言って我妻は剣を振るった。

 

「っ!」


 剣は描くはずだった軌道から大きく外れる。

 それは我妻の後方からやってきた剣が彼女の肩に刺さったためだ。


「言っただろ。お返しだって」


 攻撃がヒットしたことで俺は笑みを浮かべた。

 今までの戦いから『彼女は刃先、あるいは自身の指を向けることで発射する剣の照準を定めていること』が分かっていた。


 それに則って、彼女に日本刀を投げる寸前に彼女に対して照準を定めたのだ。発射位置を後ろにすることで彼女の死角になるようにした。神経を研ぎ澄ませていても、標的が目の前にいるのなら、後ろへの警戒は少しでも衰える。一対一のバトルならなおさらな。


「まだ終わってない!」


 攻撃を受けてもなお、彼女は挫けていなかった。

 バランスを崩しながらも、もう一方の剣を俺に振るおうとする。


「言ったはずだぜ。お返しだってな。我妻は俺に何本の剣を食らわせた?」


 俺の言葉に彼女の瞳が揺らぐ。

 注意を後ろに向ける。その前にやってきた二本目が彼女の背中を突き刺した。

 勢いに飲まれ、俺に攻撃を加える前に我妻は地面に倒れていった。


「勝者、久遠遥斗」


 アナウンスは俺の勝利を高らかに告げたのだった。

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