第24話:上位リーグ戦5【クラスカースト決め】

【多様剣聖】。剣を生成する能力。


 何もないところから剣を生成し、それを使って戦う。

 剣技を必要とするが故に結闇を凌駕するほどの身体能力を秘めていたわけか。でも、剣を持って戦うだけなら大したことはないんじゃないか。


 問題があるとすれば、我妻の持つ洞察力と分析力だ。遠距離攻撃を仕掛けたとしても、軽く避けられ、すぐに間合いを詰められてしまう可能性がある。適度な距離を保ちながら遠距離攻撃でHPを削る。それが正攻法だろう。


「っ!」


 刹那、二筋の波が俺を交点としてクロスを描く。

 地面を蹴って後ろに飛び退く。わずか1秒経たないうちに二つの剣が飛んできた。俺が先ほどいた場所でぶつかり、カランと音を立てて地面に落ちる。


 剣はすぐに光の粒子となって消え去った。

 剣を持って戦うだけじゃない。相手の元に剣を飛ばすこともできるのか。我妻にとっては近距離戦も遠距離戦もお手の物というわけか。


「不意をついたんだけど、案外軽く避けられたね。どうやら、私が知らないうちに井伊予さんの能力を使われていたようだ」


「一挙手一投足を分析されるのは勘弁願いたいな」


「ごめんごめん。つい癖でね。なら、分析しないように早めに蹴りをつけるとしようか」


 我妻は大きく地面を踏みしめ、一直線に俺の元に駆けてくる。

 間合いを詰まらせるわけにはいかない。俺は手を我妻にかざし、【氷結遊戯】の能力をイメージする。


「【脳内模倣】」


 目の前に五つの小さな氷の球体が姿を表す。それらは次の瞬間には氷の狼を形作った。生成された氷の狼は我妻に対抗するように駆けていく。


 一番距離の近かった狼が我妻に襲いかかる。

 口を大きく開き、噛みつこうとした狼に対して我妻は素早く口内に刃を入れる。狼は胴体を横真っ二つにされ、地面に落ちていった。次に襲いかかった狼も同じ結末を迎える。


 数打てば当たるなんてのは期待できない。

 承知の上だ。初めから狼を当てにはしていない。彼らはあくまで囮。本命はより強力な生物だ。


 我妻が狼と戦っている間に、前にかざした手を斜め上に向ける。

 先ほどよりも大きな氷の球体を生成し始める。ワイバーンなら、一太刀や二太刀では倒すことはできないはずだ。


 我妻が四体目を狩ろうとしたところで氷の球体はワイバーンを生成できるくらいまで膨れ上がる。だが、再び現れた波の筋によって俺の戦略は打ち切られた。我妻はお返しと言わんばかりに五本の剣を俺に向けて飛ばしてきたのだ。


「【脳内模倣】」


【瞬間移動】の能力を使ってその場から退く。

 氷の造形への集中が途切れたことで、大きな球体はワイバーンを形作る前にひび割れる。


「私に戦略を悟らせたんだ。そう簡単に完遂できるとは思わない方がいい」


 崩れ去る氷の球体に気を取られていると、5体目の狼を制した我妻が俺の方へ駆けてくる。

 素早い動きであっという間に目の前にやってくる。一方の剣を逆手持ちにし、もう一方の剣を俺に向けて振るう。


「【脳内模倣】」


【瞬間移動】を発動。

 我妻の攻撃を避けながらも背後に回る。


「私がその攻撃を読んでいないとでも思ったか?」


 彼女がそう言うと、同時に視界に波の筋が浮き上がる。彼らは俺を逃さないとでも言うように付け入る隙を与えないほどに空間を埋め尽くしていた。何百もの刃が俺に猛威を振るおうとしていた。


「これでチェックメイトだ」


 我妻の言い方は「大したことなかった」と失望するようなものだった。俺のことを過大評価していたと自身を戒めるような声音。彼女の気持ちに俺は湧き出る呆れを隠しきれず、思わず笑みを浮かべた。


「勝負を決めるのはまだ早いぜ」


 一言口にし、我妻と戦う前に待機スペースでやりとりしたことを思い出す。


「【脳内模倣】」


 俺は意識を取り戻した彼に対して能力の扱い方を教授願った。


「【能力無効<​​インベリダム・ファクルタス>】」


 結闇は言った。「僕の能力は能力名を言いさえすれば発動する」と。


 能力を唱えた瞬間、視界に映る波が消え去る。

 俺の発動していた能力【波動支配】が消えた。それだけではない。我妻の持っていた二本の剣も姿を消した。つまり、俺に襲いかかるはずだった幾数の剣も今は姿を消したことになる。


 攻撃が飛んでこないことが担保されたところで、無防備になった我妻の背中めがけて蹴りを放つ。

 だが、流石というべきか、我妻はすぐに状況を理解して俺の攻撃を片腕で受け止める。俺は足に力を入れることで我妻は強く押す。


 我妻はバランスを崩しながら後退する。

 俺は好機を見逃さないように彼女に向けて手をかざした。

 今、この空間は能力が無効化されている。手をかざしたところでなんの意味もない。


 だが、能力が有効になった瞬間、かざした手は意味を持つ。


「【脳内模倣】」


 待機スペースで聞いたのは【能力無効】の発動だけではない。

【能力無効】の能力を解く方法も教えてもらったのだ。それも、【脳内模倣】ができるようにやって見せてもらった。その瞬間をイメージする。


「【能力有効<ヴァリッド・ファクルタス>】」


 次いでイメージするのは真賀田の持つ空間を爆破させる能力。

 我妻の横の空間が揺らぐ。能力が有効になったことで自分に付与していた【波動支配】の能力が復活し、爆破を可視化できるようになっていた。


「っ!」


 ここに来て、我妻が初めて驚きの表情を見せる。

 空間の爆撃が彼女に直撃し、大きく後ろに吹き飛ばされる。受け身すらも取れなかったため、HPは半分削られた。


 もう一度決めれば、この戦いは俺の勝ちになる。


 彼女が吹き飛ばされた方向に手をかざす。

 それよりも先に我妻は俺に向けて人差し指を向けていた。何事かと思ったが、すぐに流れる波の筋によって理解した。


 体制を立て直して避ける。

 レーザー光線のように豪速球で飛んできた剣が俺の頬を掠めていく。スクリーンを見ると、わずかにHPが削られていた。


 二度目の攻撃は許さないとでも言うように、我妻はすぐに体勢を立て直して反撃してきた。期待通りにはいかず、我妻のHPは半分よりもやや低い状態で止まる。


「ふっ。はははは……」


 形勢逆転され、戦況が不利になったにも関わらず、我妻は高らかに笑った。


「失敬。まさか結闇くんの能力にこんな使い方があるとは思わなくてね。確かに、彼と戦った時は【能力無効】の能力が発動しただけで試合は終わったからね。すっかり【能力無効】は持続的に発動されるものと思ってしまっていた。私もまだまだだね」


 能力が有効となったことで我妻は再び二本の剣を生成する。


「君は色んな相手と戦えば戦うほどに強くなる。やっぱり、私の見立ては正しかったよ。さっきは甘く見てしまって申し訳ない。もうこの試合が終わるまで気は抜かない。全身全霊を持って君の相手をする」


 自信満々の表情で俺を見る。

 俺も気は抜けない。HPだけ見たら俺の方が有利だが、我妻相手には何の意味もないだろう。隙を見せたらすぐに不利になる。そのまま試合に負けることも大いにありうる。


 挑発するように我妻の【多様剣聖】の能力を模倣し、一本の日本刀を生成する。刃先を我妻に向け、構えの姿勢をとった。

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