第23話:上位リーグ戦4【クラスカースト決め】

 9回戦まで終わり、結果は以下のようになった。


『1回戦勝者:真賀田進也』 

『2回戦勝者:我妻凛音』 

『3回戦勝者:久遠遥斗』 

『4回戦勝者:我妻凛音』 

『5回戦勝者:結闇朔夜』

『6回戦勝者:久遠遥斗』

『7回戦勝者:我妻凛音』 

『8回戦勝者:久遠遥斗』

『9回戦勝者:結闇朔夜』


 今の状況を鑑みれば、


『1位:久遠遥斗

 1位:我妻凛音

 3位:結闇朔夜

 4位:真賀田進也

 5位:来栖清香』


 となって同率1位の俺と我妻がAグループを確定させた。

 

 残るは1位を決める『10回戦:久遠遥斗 対 我妻凛音』のみ。A〜Dまでのグループを決めるクラスカースト決めにおいては意味のない試合。正直、流しても構わないだろう。


「私の見立てどおりだった」


 我妻はそう言って持っていたバッジを胸元につける。

 

「見立てどおりとは?」


 俺はバッジを手に持つものの胸元には付けずに我妻に問いかける。付けてしまえば自動的に試合が開始されるため、話し終えてから試合を開始させようと思った。


「このグループリーグにおける最終的な順位だよ。グループリーグが始まる前に予想していたんだ」


「我妻の予想では、最終的な順位はどうなるんだ?」


「下から来栖さん、真賀田くん、結闇くん、そして……」


 我妻は手を前に出し、人差し指を俺に向けた。


「君」


 くるりと半回転させ、今度は自分に人差し指を立てる。


「私」


 曇りのない瞳で平然と言ってのける。

 自分の勝利に1ミリの揺らぎもないらしい。


「試合が始まる前から随分と俺を買ってくれているんだな」


「まあね。【模倣】の能力。それも広範囲での模倣を可能にする。あるいは、写真記憶などの特殊な記憶力を持っている人間の使うそれは大体の人間を倒せるだろうからね」


 我妻の言葉に空いた口が塞がらなかった。

 俺は我妻に自分の能力について話してはいない。だというのに、彼女は核心をつく答えを出してきた。流石に能力を二つ持っているとまでは考えてないみたいだが。


「よく分かったな」


 こちらからは何も情報を出していないのに『女子寮にいたこと』や『模倣の能力を持っていること』を見破られたのだ。凄まじい洞察力の前ではハッタリは無意味だろう。


「ネタばらしするのは気が引けるけど、君とはもう少し二人だけの時を楽しみたいから特別に教えてあげる」


 口角を上げ、柔らかな笑みを浮かべる。

 普段ムッとした表情をしているため笑みをこぼされると胸の高鳴りを覚える。これがギャップ萌えというやつか。


 それにしても、何で我妻は俺を高く買ってくれているのだろう。


「君は前日女子寮のエレベーターにいたね。あの場にいた伊井予さん以外の人間が醸し出す覇気と今日君と会った時に感じた覇気が一緒だったからすぐに分かったよ」


「我妻は覇気を感じ取れる能力を持っているのか?」


「……まあ、君の能力が分かったんだから、それくらいは教えてあげてもいいか。覇気を感じるのは今まで生きてきた中で身についた力であって能力とは関係ないよ」


 生きてきた中で人の覇気を感じ取れるようになったって、どんな生活を送ってきたんだよ。


「話を戻すね。今の話だけだと君の能力は【透明成化】に収束される。でも、【透明成化】を持つ人間が上位リーグに上がってくるとは思えない。結闇くんみたいに相手の能力を無効化にして肉弾戦に持っていくならまだしも、透明になって殴る蹴るだけでリーグ戦を勝ち上がれるとは思えないからね」


 我妻の言うとおりであろう。実際、【透明成化】を使っていた羽田は俺たちのリーグでは最下位だった。


「そうなると、【透明成化】の能力は一端と見た方がいい。能力は一人につき一つであるので、【透明成化】を一端とするのであれば、模倣系の能力を使っているとみて間違いないだろう。模倣が範囲指定のものであれば、エレベーター内に【透明成化】を持つ者はいないので、相当な広範囲で能力を模倣している、あるいは今まで戦ってきた相手の能力を記憶して模倣していると推察したわけさ」


「伊井予の能力が【透明成化】と言う線はあるだろ?」


 最初のリーグには我妻はおらず、今回のリーグでは伊井予がいない。我妻と伊井予はリーグ戦を行っていないのだから、我妻が伊井予の能力を知っているとは思えない。


「そうだね。ただ、私は一方的だけど伊井予さんについては知っているんだ。彼女の能力についてもね」


 なるほど。エレベーターで会った時にはあんまり親しい感じはなかったが、我妻が一方的というのであればそうなっても仕方はないか。


「鋭い洞察力だな。感服するぜ。ただ、我妻は一つだけミスを犯している」


「へぇ〜、それは一体どこかな?」


「このリーグ戦の1位は私ではなく俺だ」


 バッジを胸につける。

 流すという選択肢は消えた。

 今はただ、昨日の伊井予のように余裕をかましている我妻に一泡吹かせてやりたい。


「それは楽しみだ」


 我妻が再び笑みを見せる。

 先ほどの柔らかさはなく、硬い表情で不敵に笑っている。


「それでは試合を開始します。5……」


 カウントダウンが始まる。

 俺は我妻への戦い方を脳内でシミュレーションする。


「4……3……」


 我妻は結闇にあっさり勝利した。

 つまり、肉弾戦においては結闇を凌駕していることになる。結闇に善戦されていた俺が敵うとは思えない。近接戦は不利であろう。


「2……1……」


 となると、遠距離攻撃をするのが無難だ。

 懸念点があるとすれば、我妻は真賀田との戦いに勝利している。爆撃による遠距離攻撃を掻い潜っている。時間のかかる攻撃を打つのは悪手だ。


「試合開始」


「【脳内模倣】」


 片手を前に出し、構えの姿勢をとる。

【物質生成】の能力をイメージする。生成するのは前日に伊井予と行ったレジャー施設にあった射撃の銃だ。


 本物の弾ではないため一発のダメージは少ない。それでもいくらかはマシだ。

 照準を合わせ、連続で引き金を引く。パンッと弾の発射される音が耳朶を打つ。


 射撃の音とは裏腹に、静かに風を切る音が聞こえた。

 次いでパリンパリンと幾数の弾が散らばる音が聞こえる。心なしか打った弾数よりも落ちた数の方が多い気がした。


「私に小細工は通用しないぞ」


 カラクリは単純な物だった。

 我妻は自身の持っている剣で俺の打った弾を真っ二つにすることで勢いを殺し、地面に落としたのだ。


「【多様剣聖<ディバーサス・グラディウス>】。剣を生成する能力。これが私の持つ能力だ」


 そう言って、我妻は持っていた剣先を俺に向けた。

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