第22話:上位リーグ戦3【クラスカースト決め】
相手の能力を発動できなくさせる能力。
俺を例外とすれば、能力は一人に対して一つ授けられる。
結闇は【能力無効】という能力を持っており、俺は能力が使えないため、この戦いは完全なる肉弾戦となっている。
結闇の放った拳を受け止める。
すぐさまもう片方の拳が飛んできた。顔を逸らして避ける。俺もすかさず拳を放つが軽く避けられる。能力を使ってのパンチに頼ってきたがために無装備の俺の拳には覇気がない。
結闇は空を切った拳で俺の肩を掴む。
俺の身体をしっかりと掴んだ状態で足を引っ掛け、体制を崩そうとする。重心を意識してなんとか堪える。
すると、もう一方の足で膝蹴りをかまして来た。先ほど体制を崩そうとした攻撃はブラフ。俺が自分の体に意識を集中させたところで蹴りを入れるのが魂胆だったようだ。
今更気づいても遅い。
結闇の膝が俺のみぞおちを打つ。思わず唸るような声を上げた。痛みに堪えながらもう一度飛んできた膝蹴りを手で押さえ込む。そのまま結闇の足を持つ。
前に力を入れることで結闇の体制を崩す。
このまま馬乗りになって結闇のHPがなくなるまで殴る。汚い戦いだが、仕方がない。
結闇は背中が地面につくと同時に俺の腹に足裏を立てる。
俺は空中に投げられた。結闇を飛び越えた先で背中を強打する。
それだけでは終わらない。
空を見上げると、結闇の足が俺の顔に迫っていた。
俺を投げ飛ばした反動で後転し、足技を食らわせようという魂胆だ。
再び身体を転がすことで結闇の攻撃を避ける。
当然ではあろうが、肉弾戦は結闇に部がある。このまま続ければ先にHPが尽きるのは俺だろう。一度冷静になって考えるために、立ち上がると結闇から大きく距離を取る。
刹那、俺の中で異変が起きた。
視界で波が流れている。
【波動支配】の能力が起動している。能力を発動した覚えはないのに一体どういうことだ。
答えはすぐに出た。
結闇に能力を消される前に発動していた【波動支配】が再び効力を取り戻したのだ。
「逃しはしない」
結闇が近づいてくるや否や【波動支配】の効力はすぐに失くなり、視界に映った波は瞬く間に消え失せた。
『それも広範囲の人間を巻き込んでの能力か』
先ほどの真賀田の言葉が脳裏をよぎる。
結闇の【能力無効】は範囲指定の能力なのかもしれない。能力を発揮している範囲外に出ることができれば能力は効果を発揮する。
俺の元にかけてきた結闇は大きくジャンプをすると、俺の首元めがけて蹴りを放った。
結闇の蹴りを避けることなく腕でガードする。強烈な蹴りを食らい、HPバーが削られる。攻撃の反動で結闇との距離が開く。
肉弾戦では敵わないと分かった今、【能力無効】の範囲外での能力活用が頼みの綱だ。
「【脳内模倣】」
【波動支配】の効果で波が見えたのを合図に能力を発動する。
【火炎遊戯】の能力を用いて右手に炎を生成する。このまま結闇の元に行こうものなら、たちまち炎は消える。
だから右手を結闇のいる位置に合わせて翳す。
炎が噴射され、結闇へと襲いかかる。しかし、炎は一定の距離を進んだところで消え去った。
俺の元を離れても能力であれば無効となるのか。なら次は。
かざした手に宿った炎を消す。
【物質生成】の能力を発動する。井伊予の持っていた竹刀を生成し、右手で柄を持つ。肉弾戦は無理でも、武器さえあれば勝てるはずだ。
だが、事はそう簡単にはいかない。
結闇が俺の元に近づいてきた瞬間、持っていた竹刀は勝手に消えていった。
【物質生成】の能力を使って生成した物も【能力無効】の範囲内では消えてしまう。
生成した物質には能力の効用があるみたいだ。井伊予と戦った時に自分の意思で拳銃の玩具を消すことができたのはその影響か。
ほんと厄介な能力だな。
「僕の前では全ての能力が通じないよ」
結闇が回転蹴りを放つ。
先ほどのような宙を舞う形ではなく、片足が地面についた状態だ。後退することで攻撃を避けるが、足を戻して素早く間合いを詰めてくる。
先ほどのように【能力無効】の範囲外には行かせてくれないらしい。
次いで放たれた拳を弾く。再び投げられる蹴り。避けることは叶わないと察し、腕をクロスして攻撃を受ける。
緑のバーを確認する。
ただの肉弾戦にも関わらず、バーは半分を切っていた。このまま戦い続ければ負けるのは時間の問題だろう。
もう方法は一つしかない。
博打案件だが、これしか手がないながら使わない手はない。
再び結闇が拳を振るう。顔めがけて飛んできた拳を交わす。すかさず結闇は膝を腹に入れてくる。わずかながら後退し、隙を見せたところで結闇は顎にパンチを喰らわせた。身体が宙に浮く。とどめを刺すように結闇もジャンプし、みぞおちめがけて大きく拳を振るった。
今だ。俺は間一髪のところで腕を拳の前に掲げて攻撃を受け止める。
とどめを刺すためのパンチだったからか結闇の力は強く、体を吹き飛ばされる。だが、吹き飛ばされたことで奴の能力範囲外に出られるようになった。
ここで勝負を決める。
【能力無効】の効力範囲外ならば能力が適用できる。しかし、発動した能力は一度効力範囲内に入って仕舞えばたちまち消えてしまう。
【氷結遊戯】も【火炎遊戯】も使えない。【物質生成】で生成した道具も使えない。
なら、俺が使う手は【能力無効】の効力範囲内に入る前に能力を使い終えられる能力に限る。
「【脳内模倣】」
イメージするのは【瞬間移動】。
結闇の背後をイメージして『一瞬』で移動する。
「なっ!」
結闇は姿を消した俺に驚き、声を漏らす。
「あぁ……」
その声を首に腕を巻いて喉を押しつぶすことで消し去っていく。
背後につくや否やヘッドロックを食らわせる。これで徐々にHPを削っていく。
「くっ……」
結闇は必死に抵抗しようとするが、完全に首を絞められた状態になっているためなす術がない。このまま一気に終わらせる。俺は腕に力を入れた。
刹那、視界に波が流れる。
同時に抵抗していた結闇の腕が脱力した。体の力を抜くとそのまま結闇は地面に崩れる。口から泡を吹いていた。
あれ?
なんかおかしくね。
胸につけられたバッジによって身体が損傷することはない。
なのに、なぜ結闇は泡を吹いて倒れているのだろうか。もしかして首を絞める行為はコーディングの内側を刺激するので、バッジの効力は無意味になるのだろうか。
下を向けば気絶した結闇の姿がある。
ひとまず、戦いは終わらせよう。視界に波を動きを捉えられていると言うことは能力は発揮できるみたいだ。
「【脳内模倣】」
空間を蠢かせ、二度の爆撃を結闇に与える。
「勝者、久遠遥斗」
汚い手だが、無事俺の勝利に終わった。
とはいえ、結闇は依然として気絶したまま。しょうがなく結闇をお姫様だっこして戦闘スペースの外に出た。
「どういうこと?」
待機スペースに行くと、真賀田と来栖が頭に『?』を浮かべて俺たちを見る。
今まで一度も気絶したやつなんて見たことがないのだ。一体、戦闘スペースで何が起こったのかと疑問に思うだろう。
俺はただただ照れ笑いを浮かべるしかなかった。流石に「ヘッドロックしたら気絶しちゃった」なんて言えるはずがない。
「はははは……」
休憩スペースに座る我妻だけが場違いに笑っていた。
あんなに笑顔な我妻を見るのは初めてだった。結闇には悪いが、我妻の可愛い容顔が見れたのは良かった。
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