第21話:上位リーグ戦2【クラスカースト決め】

『1回戦勝者:真賀田進也』 

『2回戦勝者:我妻凛音』 

『3回戦勝者:久遠遥斗』 

『4回戦勝者:我妻凛音』 


 4回戦までが終了した。

 戦闘スペースでは『5回戦:結闇朔夜 対 真賀田進也』が行われている。彼らの試合が終われば休憩タイムになるため、今は気楽な状態だ。


「我妻さん、強すぎるよ。もうちょっと手加減してくれてもいいのに」


 休憩スペースでは、対角線上に座る来栖が涙を浮かべている。どうやら、我妻にトラウマ級の攻撃を受けたようだ。真賀田の攻撃も相当だとは思うが、それよりも怖いのか。なんだか戦うのが怖くなってきたな。


 それにしても。

 俺は戦闘スペースの方に顔を向ける。

 2人が入ってからすでに10分ほどが経過していた。


 おかしい。

 真賀田はリーグ戦が始まる前に対戦相手と握手を交わすことで相手に細工を仕掛け、試合が始まると同時に細工を活用して一瞬で勝利を手にする戦法を取っている。


 リーグ戦前、彼は我妻以外の全員と握手を交わすことに成功していた。つまり、今対戦している結闇に対して細工を仕掛けることに成功していたのだ。ならば、あとは試合開始と同時に細工を活用し、一瞬で勝利をもぎ取るだけ。


 だから10分もかかるのはおかしい。

 結闇も俺と同様に真賀田の細工を見破り、対処した。それができる能力を結闇は有していることになる。一体、どのような能力だろうか。


 さらに待つこと5分。

 第5回戦の結果が俺たちのいるスクリーンに表示された。


『5回戦勝者:結闇 朔夜』


 結闇が真賀田を倒した。

 真賀田を倒しさえすれば、あとは我妻だけに気を配ればいいと思っていたが、見当違いだった。真賀田は上位リーグの中では弱い方に分類されるみたいだ。


 戦闘スペースから出てきた真賀田は浮かない表情をしていた。本人も自分の細工が二度も破られることになるとは思っていなかったようだ。対して結闇は負けても勝っても同じようにゆっくりと部屋の隅に歩いていき、腰を下ろす。


「上位リーグAはこれより10分間の休憩を開始する」


 先生のアナウンスが入り、スクリーンには10分のカウントダウンが始まった。

 休憩が終われば第6回戦が始まる。俺と結闇の戦い。大丈夫だと高を括っていたが、そうでもないみたいだ。


「彼の能力が気になる?」


 ふと、向かいから声が聞こえる。

 黄昏れるように瞼を閉じていた我妻が目を開いて俺を見ていた。


「彼とは?」


「結闇くん。彼のことジロジロ見てたでしょ?」


 結闇が歩いている姿は見ていたが、座ってからは自分の考えに集中していた。意識としてはジロジロ見ていないが、結闇のことについて考えていたものだから、視線が彼に行っていた可能性は大いにあり得る。


「結闇の能力を教えてくれるのか?」


 否定はせず、話を逸らす。


「無理だね。勝手に能力を教えるのは結闇くんに失礼だから。でも……」


 一度言葉を区切り、我妻は俺の身体を上から下にかけてじっくり観察する。女子にジロジロ見られるのはなんだか恥ずかしいな。それに、我妻みたいな美人に見られるとなると、なんだか変な気を起こしそうになる。


「君は次の戦いに相当苦労するだろうね」


 続けて出た言葉は俺の身を案じるものだった。

 教えられるのはここまでと言うように我妻は立ち上がり、出入口へと足を運んでいった。


 次の戦いには相当な苦労を要する。

 我妻は俺の能力を知らないはずなのに、なんであんなことが言えたんだろうか。彼女の言葉がぐるぐると頭を駆け回る。


「上位リーグAの休憩を終了とする。これより第6回戦を開始する」


 気づけば10分が経過し、再び先生のアナウンスが入った。

 考えても始まらない。俺は椅子から立ち上がり、戦闘スペースへと足を運んだ。同じタイミングで結闇もやってくる。


「よろしくな」


「あぁ……」


 やる気のない返事が送られてきた。

 語弊があるかもしれないが、結闇は見てくれどおりのやつだった。よく真賀田に勝てたなと不思議に思う。


 互いに無言で戦闘の準備に取り掛かった。

 10メートルほど距離を放し、胸元をバッジにつけたところでカウントダウンが始まる。


 先手必勝。


 5の数字が映し出されると同時に【波動支配】による波の可視化を行う。すぐに爆発を起こせるように、構えの姿勢に見立てて手を前に出した。真賀田が敗れたと言うことは爆発を起こせば、敵の能力の一旦を垣間見ることができるはずだ。


 4……3……2……1……


「【脳内模倣】」


 結闇の両隣の波が蠢く。

 空気爆弾を設置し、あとは爆破させるだけ。


「インベリダム・ファクルタス」


 結闇もまた能力を唱えた。

 その瞬間、蠢く波が姿を消した。空気爆弾が消されたみたいだ。


 一体何が起きたのだろうか。戸惑っている間に結闇が俺の方へと駆けてくる。

 すると、不意に波が見えなくなる。【波動支配】の能力を解除した覚えはないのにどうして消えたのだろうか。


 疑問が湧いてくる間に、結闇との間合いはどんどん近くなっていく。

 一旦体制を立て直す。【瞬間移動】の能力及び結闇の背後をイメージする。だが、いつまで経っても今の位置から移動することはなかった。


 そうこうしているうちに結闇が目の前に来た。

 結闇は拳を握り、鋭い一撃を放つ。顔面めがけて飛んできた拳を身体を逸らすことで交わす。だが、次に飛んできた横蹴りを受ける。


 幸い、腕でガードしたので大きなダメージを負うことはなかった。スクリーンを見るとわずかに俺のバーが削られている。視線を脇に逸らしている間に、結闇は再び俺の目の前にやってきていた。返り討ちにしようと拳を振る。


 結闇はしゃがむことで交わす。拳を振ったことでできた隙を突かれ、腹にパンチを食らわせられる。痛みを堪えながら蹴りを放つ。結闇は俺の蹴りをくぐり抜けると足を回転させる。地面についた足を取られ、バランスを崩した。


 俺が地面に転んだところで、立ち上がった結闇が顔面を踏みつけようとした。

 慌てて身体を横に転がす。結闇の足は俺の顔の横を踏みつけた。勢いに任せて転がり続け、結闇から距離をとったところで腰を上げる。


「今ので終わらせるつもりだったけど無理だったか」


 相変わらず無気力な声で喋る。ただ、今はその無気力さが恐怖を倍増させる。

 今のやりとりで結闇の能力が分かった気がした。どうして我妻が俺の身体をジロジロ見ていたのかも納得できる。


「相手の能力を無効化する能力。厄介な能力だな」


「さっき真賀田くんにも同じことを言われたよ。みんなが嫌う能力。それこそが僕の持つ【能力無効<インベリダム・ファクルタス>】さ」


 能力が使えない今結闇との戦いは肉弾戦になる。

【超絶記憶】しか持ってなかった時代にせめてもと思って身体を鍛えており、それが今に至るまでの習慣となっていたが、まさか役に立つ日が来るとはな。


 とはいえ、先ほどの結闇の攻撃からして奴はなかなかの手だれだ。普通にやったら先にHPがなくなるのは俺だろう。


 なんとかして打開策を見つけなければ。


「次で勝負を決めるよ」


 結闇が再びこちらにやってくる。

 俺は構えの姿勢を取り、彼の攻撃を待った。

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