第20話:上位リーグ戦1【クラスカースト決め】

 2回戦は我妻の勝利に終わった。

 戦闘スペースから出てきた結闇と我妻は何事もなかったように先ほどいた場所につく。2人とも我が道を行くというか人付き合いが苦手なようだ。


「それじゃあ、次は僕と久遠くんだね。よろしく」


 真賀田に誘われ、俺は休憩スペースに置かれた椅子から立ち上がり、戦闘スペースへと歩いていった。


「先ほどの二人は隅に置けないね」


 戦闘スペースに入り、扉が閉まるや否や真賀田が話しかけてくる。

 戦う前の探り合いというよりかは、普通に雑談を楽しもうとしている様子だ。


「なら結闇の位置を変えないとな」


「ははっ。久遠くんは面白い冗談を言うね。僕は結闇くんよりもまずは我妻さんの方を気に掛けたいな。彼女はおそらくクラストップの実力を持っている」


「確かにそうかもな」


 昨日といい、今日といい、我妻の洞察力には驚かされる。あるいは能力によって何かが見えているのだろうか。


「彼女には勝てなさそうだからAグループ入りを果たすには、彼女以外の全ての生徒に勝たないとね」


 間接的に「この勝負は僕が勝つ」と言われてしまった。まあ、俺も同じ気持ちだからお互い様だ。


 昨日と同じように十メートルほど離れ、バッチを胸元につける。互いのバッジがつけられたことでスクリーンに名前とHPバーが記された。


「真賀田は随分と弱気なんだな。俺は我妻を含め全て勝ちで終わらせるつもりだけど」


 試合開始を告げるアナウンスが流れる。


 5……4……


「久遠くんはだいぶ強気だね。でも、その口がいつまで聞けるかは楽しみだよ」


 3……2……


「安心しろ」


 1……


「【脳内模倣】」


 開始と同時に能力を発動する。

【氷雪遊戯】の能力をイメージする。


 対象は俺の右手。真賀田と握手を交わして手だ。


「ずっと聞かせてやるつもりだ」


 俺は凍りついた右手を真賀田に向けた。

 先ほどまで笑みを見せていた真賀田の顔が同じように凍りつく。


 真賀田が顔を引き攣った理由は簡単。

 彼は俺と握手を交わした際、俺の手に細工したのだ。


 我妻の言葉をヒントに俺は【波動支配】の能力を使って空間の波を把握した。すると、俺の右手におかしな波を感じたのだ。握った手に何か細工をされたのは明らかだった。


 来栖が一瞬にして真賀田に負けたことから、試合開始と同時に仕掛けた細工を起動することは容易に想像ができた。だから真賀田よりも先に波の蠢く部分に対して氷を生成し、細工の起動を封じた。


「どうやら君も警戒に値する人物みたいだね。非戦闘特化のクラスに【氷雪遊戯】を使う生徒がいるとは。一体どういう理屈だい?」


 取り繕うように笑みを浮かべ、真賀田は俺に問いかける。


「ちゃんと非戦闘特化だから安心しな。戦っていれば分かるはずだぜ」


 俺は構えの姿勢を取る。


「細工は破られたけど久遠くんは片手が塞がったままだ。僕が有利なのは変わりない」


 真賀田は両手を前に掲げる。

 

 僕が有利なのは変わりない。真賀田はそう言うが、悪いけど試合は俺の勝ちだ。【波動支配】の能力を発動する。先ほどと同じように俺の前にある波が大きく揺れ動く。


【瞬間移動】の能力で瞬時に後ろに下がる。

 距離を取るや否や波が揺れ動いた場所が大きく爆発する。どうやら真賀田の能力は空間を爆撃する能力みたいだ。


 種がわかればなんてことない。奴の攻撃は全て見通せる。

 

「瞬間移動の能力。久遠くんの能力は一体?」


「俺の能力の最大のヒントを教えてやるよ」


 真賀田に習うように身動きの取れる片手をかざす。彼は何をするのかと表情を引き締めた。


 彼の右側が大きく揺らめく。それは俺が【波動支配】の能力を使っているから分かっていることであり、真賀田自身はまだ気づいていない。


 空間が大きく爆発する。気づいた時には手遅れであり、真賀田は爆撃を直で受ける。次いで彼の左側が揺らめく。爆撃を受けたことで体制を崩し、次の爆破も直撃した。


「勝者、久遠遥斗」


 二度の爆撃を受け、真賀田のHPが尽きる。


 圧勝のように思えるが、我妻からのアドバイスがなければ危なかったかもしれない。二度の爆撃でHPが尽きたと言うことは、手に仕掛けられた爆撃を受け、何が起きたか分からないまま次の爆撃を受けて負けた可能性もあったのだ。


 実際、来栖はそうなって負けたのだろう。


「模倣の能力。それも広範囲の人間を巻き込んでの能力か。とんだチートだな」


 真賀田は範囲指定の模倣能力と言った。

 俺の能力は自分の記憶を頼りにしている。真賀田の言うのとは少し違う。模倣の能力にも色々と種類があるのだろう。まあ、チートであることは変わらないが。


 試合が終わり、俺たちは待機スペースへと戻っていった。

 変わるようにして我妻と来栖がこちらにやってくる。


「教えてくれてありがとう。おかげで勝てたよ」


 すれ違う寸前、一応我妻にお礼を言っておく。彼女のアドバイスがなければ勝利は確実じゃなかった。


「別に。私は正々堂々戦ってもらいたかったから。君の方が強かった。それが知れて良かったよ。試合が楽しみだ」


 俺からの礼を受け、我妻が答える。心なしか彼女の声には明るさがあった。

 戦闘スペースに入った我妻はそれから一分ほどで勝利を手にして待機スペースに帰ってきた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る