第15話:伊井予の能力
『1位:久遠遥斗
2位:伊井予暦
3位:信川海斗
4位:羽田将吾』
俺たちのグループの結果は以上となった。
俺と伊井予が上位リーグに進み、信川と羽田が下位リーグに進む。
本日のクラス決めはこれにて終了。
これからは明日の上位下位リーグに向けて休みとなる。
「遥斗くーん!」
実技場を離れ、美里と晶たちを待とうと思ったところ後ろから伊井予に抱きしめられる。先ほども感じた柔らかい感覚は高校生男子には刺激が強すぎた。
「あんまりベタベタするなよ」
「別にいいじゃん。だって、早めに願い事を叶えるにはスキンシップをした方がいいと思うし」
「いや、嫌らしい頼みなんてするつもりから」
「へぇ〜、珍しい」
別に珍しくはないだろ。卑猥なことを聞いてもらうのは理想ではあるが、現実では流石に気が引ける。理想ではあるがな。
伊井予は俺から離れると隣に立つ。息苦しさから解放されてホッとすると共になんだか物寂しさを抱く。
「ねえねえ、遥斗くんはこの後何か予定ある?」
「特に予定はないよ。美里と晶とレジャー施設で遊ぼうかなって思っただけ」
「美里? 晶?」
「友達。同じ中学校だったんだ」
「なるほど〜」
「伊井予は中学の友達はいないのか?」
「いないよ。私の中学校は私しか招待状がもらえなかったから。だからさ」
伊井予は両腕を俺の右手に絡めてくる。
再び感じる彼女の柔らかい身体。下を向くと、細長いバッグの紐によって強調された二つの双丘が見られる。
「だから遥斗くんと一緒にいたいな? 一人じゃ心細いから」
上目遣いで俺を見る伊井予さんの姿に魅了される。
口元を手で覆う。彼女にだらしない表情を見られたくはなかった。
「美里と晶と一緒でもよければ」
「え〜、私は遥斗くんと二人きりがいいな」
「……わかったよ」
しょうがない。美里と晶には後でメッセージを送っておこう。
「はは。遥斗くんってチョロいね」
伊井予は不敵な笑みを浮かべる。先ほどの言動は演技だったみたいだ。
「本人の前で言うなよ」
それともうちょっとでいいから可愛くいてくれよ。
「ごめんごめん、つい本音が」
頭を掻きながらベロを出す。
可愛くなければ「今すぐ去れ」とお願いしていたかもしれない。
彼女はあざとくて嫌なやつだ。だが、下心で許してしまっている俺も大概だ。
お互い様ということにしておこう。
「それで、一緒にいるのは良いけど伊井予はどこか行きたいところとかあるか?」
「遥斗くんに任せるよ。流石に行く所まで決めちゃうのは欲張りだからね」
「もう十分欲張りだけどな」
「じゃあ、まずは腹ごしらえにフードコートにでも行こう」
「結局、伊井予が決めるのかよ……」
まあ、伊井予の意見には同意だ。
3回も戦ったのだ。運動のしすぎでお腹はぺこぺこだった。
目的地が決まったところで、俺たちは二人して歩き始める。
美里には『本日のリーグ戦で仲良くなった子と遊ぶ』とメッセージを送った。まあ、俺が何をしようが勝手ではあるが、念のため連絡しておいた。
「それで、俺が勝ったら一つお願い事を聞いてくれるんだよな?」
「うん。約束だからね。もう使うの? もしかして遥斗くんは路上プレイが好みだったり?」
「ちげーよ。毎度毎度変な方向に話を逸らすな」
伊井予と話すのは疲れるし、話が全く進まないな。
「俺からのお願いだ。伊井予の能力を教えてくれ」
「えっ……そんなことでいいの?」
だいぶ意外だったようで、伊井予はきょとんとした表情を見せる。
「ああ。俺にとっては重要なことだしな」
「へぇ〜。ああ、なるほど。私の能力を模倣しようっていうわけか」
気づくや否や口に手を添え、不敵な表情を浮かべる。
嫌味なやつだが、勘だけは鋭いな。彼女の言うとおり、彼女の持つ能力について聞くことで【脳内模倣】による能力の取得を行おうと思った。
「別に構わないよ。それで遥斗くんが強くなってくれるのなら、私としてもありがたいしね」
「ンッ? それってどういう意味だ?」
「私の能力はズバリ【波動支配(インペリウム・フルクタス)】」
俺の問いかけは無視して、伊井予は自身の能力について説明を始めた。
「私たちが今いる空間には人の目に見えない波が蠢いているんだけど、その波を可視化したり、操ったりするのが私の能力なんだ。最初に可視化できる利点について話そうかな」
伊井予は右手の人差し指と中指を立てる。
「利点は大きく分けて二つ。一つ目は【透明成化】や【瞬間移動】の能力が効かないこと。後者に関しては運動神経が求められるから一概には言えないけどね。私は対戦する時は相手よりも相手を取り巻く波を見てる。だから相手が不可視になっても波の動きで居場所を当てられるんだ」
【透明成化】も【瞬間移動】も相手からは見えなくなるものの、その場には存在している。だから相手を取り巻く波は影響を受け、動いた波を認識することで相手の場所を確認することができるわけか。
「そしてもう一つは波の動きから相手の動きを当てることができる。いわゆる『未来予知』ってやつ」
俺は思わず目を丸くした。
未来予知。なんて画期的な技なんだ。
「波の動きってね。その人が動くよりもワンテンポ早く動くの。だから波の動き方の特徴さえ掴めれば、相手が繰り出す行動を理解できるってわけ。ただし、遥斗が私を倒した時みたいに、理解できても避けられなければ食らわざるを得ないんだけどね」
伊井予は参ったように両手を広げた。
「これが波を可視化できる利点。じゃあ、次に操る力について説明しようかな。とは言ってもこれは応用が効きすぎるから私もまだ開発途中なんだよね。ひとまず言えるのは斬撃を飛ばしたりすることができるって感じ」
「竹刀で攻撃を防いだ後に、俺を吹き飛ばしたのも波を操っていたのか?」
「そっ。あれも波を操った結果だね。遥斗くんの前にある波をぶつけて吹き飛ばしたんだ。因みに鍛え方次第では殺傷能力にもなりうるからも方する時は注意してね」
「例えば?」
「相手の鼓膜を揺らせて耳を破壊するとかかな。私はやったことないけど、相手の体にある水分を膨張させて体を破壊とかもできるかも」
「何その技……怖すぎるんだけど……」
「相当難しいと思うけどね。今の私じゃ絶対にできない」
【波動支配】というのはだいぶおっかない能力みたいだ。
彼女の言ったとおり波を操るのは、ある程度練習してからにしよう。とてもじゃないが、クラスメイト相手に使える技ではない。
「以上が私の能力の説明。これでいい?」
「ああ。十分参考になった」
「それは良かった。使ってくれる時が来るのが楽しみだね」
「自分の技をパクられて嬉しいのか?」
「遥斗くんが強くなるのならね。期待してるよ」
どうして伊井予は俺が強くなることを期待しているのだろうか。彼女にとってメリットがあるようには見えないのだが。むしろライバルが強くなって面倒になるのでは。
だが、伊井予は嬉しそうに笑みを浮かべたままだった。
彼女の思考は全く読み取れない。俺は考えるのをやめた。
そうこうしているうちにレジャー施設に着き、俺たちは昼食を嗜むことにした。
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