第14話:初日リーグ戦3【クラスカースト決め】
「おっと、【透明成化】の能力は解いちゃったんだね」
伊井予は姿を現した俺を見て物寂しそうに喋る。
誰のせいで解かなきゃいけなくなったと思ってる。【透明成化】は常時使用する能力であるため体力が徐々に消費されるのだ。
効果がないのなら能力は使わない方がいい。
「行くぜ。【脳内模倣】」
片手を前に出す。
【氷雪遊戯】をイメージ。使う技は氷の造形による生物の召喚。
二つの小さな球体を生成する。それらは二体の狼に取って代わった。
「戦闘特化系の技も使えるって。久遠くんの能力は本当に万能だね」
自分の前に佇む三体の猛獣を見ても、伊井予は臆することはなかった。
英雄とはかけ離れた考え方ではあるが、あの余裕溢れる笑みを壊してやりたい。
前に出した手にもう一方の手を添える。
掌をやや下に向けた。技を変更し、伊井予の足を床ごと氷漬けにしようとする。
いち早く危機を察し、伊井予は地面を蹴って横に退く。何もないところが凍り漬けされる。
まるで俺の攻撃を予期しているような速さだ。
分析の力も高まれば戦闘に秀でた才能を開花させるのか。
あるいは、彼女の能力によって攻撃を予期しているのだろうか。
一つの技が失敗しても、まだ俺には札がある。
伊井予が避けた先に二体の狼が襲いかかる。彼女は竹刀を振るう。空を切るものの、数秒後に狼たちは真っ二つとなって床に崩れ去る。
氷の盾を展開した時に分かってはいたが、彼女の持つ竹刀には俺の目に見えない剣先があるみたいだ。限度はあるものの伸縮自在のようで、俺の目には空を切ったように見えるのに、実際には攻撃はヒットしている。
信川は「竹刀を持っていなくても勝てる気がしない」と言っていた。つまり、竹刀自体に細工がされているわけではなく、彼女の能力によって竹刀の剣先が変化しているみたいだ。
本当に何もかも厄介な能力だな。
「残念だったね。狼は囮。本当は私の足を床と一体化させたかったんだよね」
彼女は自分の足元にある氷を思いっきり踏みつけて割る。
狼の強襲で竹刀を振る際に動きが止まることを見越して、彼女の足に氷を生成したんだが、それすらも読まれ、振うタイミングでジャンプして交わされた。
「一体、どういう原理で俺の攻撃を予測してるんだ?」
「戦っている敵に手のうちを見せるほど私は優しくないよ」
人差し指を鼻に添えて答える。当たり前だよな。
さて、どうやって彼女に攻撃を当てるか。
もし伊井予が分析によって俺の攻撃を避けているのなら、予期できない攻撃を行うのが一番だ。今までに見せたことのない能力を使うことで可能だろう。
しかし、もし伊井予が能力によって俺の攻撃を避けているのなら、今の考えは無に帰すだろう。どちらも網羅する方法。それは単純明快だが、これしかない。
「【脳内模倣】」
イメージするのは【火炎遊戯】の能力。
全身に炎を纏うと、続いて【瞬間移動】の能力を使う。伊井予の目の前をイメージし、光速で間合いを詰めた。
ノンストップで炎を纏った拳を振るう。
伊井予は拳にうまく竹刀を添えて受け止める。炎によって竹刀は焼き消えると思ったが、そんなことは全くなかった。
「まあ、遠距離ではダメージを与えることができなかったんだから近距離になるのは必然的だよね。でも!」
最初の時と同じように、伊井予は俺の拳に対抗するように竹刀を叩く。
吹き荒れる風の力で纏った炎が消された。力は止まることを知らずに俺に襲いかかり、吹き飛ばす。
伊井予は再び竹刀を両手で持ち、俺に向けて竹刀を振るった。
最初に交わした戦いが脳裏によぎる。伊井予は竹刀に対して氷の盾を生成すると、断面に太刀筋ができたのだ。
今回も同じ結末になるに違いない。
だが、氷の盾で守ることはしない。攻撃を仕掛けた瞬間というのは一番隙ができやすいのだ。
「【脳内模倣】」
【瞬間能力】の能力発動。
移動先は伊井予の背面。彼女が竹刀を振ると同時に後ろにつく。
「その攻撃を私が予測していないと思った?」
伊井予はそう言ってすぐさま竹刀の持ち方と体の向きを変える。
流れるような動作には彼女が常日頃から竹刀を扱っている様が伺えた。
俺が攻撃を繰り出す前に彼女の追撃が炸裂する。
パチンッと甲高い音が戦闘スペースに響く。
痛みが手のひらから俺を襲う。しかし、代わりに伊井予の竹刀の動きを止めることができた。彼女の竹刀の軌道に合わせて手を添えることで掴んだのだ。
「ヘぇ〜、やるじゃん」
攻撃を止められてもなお、伊井予は余裕を見せている。
「っ!」
次の瞬間、彼女は初めて驚きの表情を見せた。
「【脳内模倣】」
俺はグリップを握るように手を握りしめ、【物質生成】の能力を発動していた。作り出したのは『拳銃』だ。
伊井予は慌てた様子で竹刀の柄から手を離し、回避の体制に入った。
「っ!」
伊井予の目が瞬く。
無理もない。先ほどまで俺が握りしめていた『拳銃』が炎に変わったのだ。
先ほど作り出した『拳銃』は昨日シューティングゲームで使っていた玩具の拳銃なのだ。弾は装填されていないので、引き金を引いても銃撃できない。
拳銃はあくまでブラフ。
竹刀を失った今、攻撃の手が止まる。そこを【火炎遊戯】による炎のレーザー光線で仕留める。
「こいつで終わりだぜ!」
作り出した炎を一度後ろに引いてから前に突き出す。
手に纏った炎が一直線に噴射されて伊井予を包み込む。
「勝者。久遠遥斗」
スクリーンに映し出された伊井予の緑色のバーが消失し、アナウンスが俺の勝利を告げた。
「まじかー。負けちゃった。危機察知が危険を招くなんて飛んだ皮肉だね」
伊井予は仰向けに倒れながらもぶつぶつと呟く。
先ほどの驚きの表情は消えており、今はいつもどおり笑みを浮かべている。
「こんなに能力を使ったのは伊井予が初めてだ。お前、めちゃくちゃ強いな」
伊井予の前でやってくると、俺は彼女に手を差し出した。
「勝った相手にめちゃくちゃ強いなんて。遥斗くんは嫌味な人だね」
俺の手を握りしめて立ち上がる。
その勢いを利用して伊井予は俺に抱きついてきた。伊井予の柔らかい体が触れ、思わずあたふたしてしまう。
「あーあ、遥斗くんに初めて貰われちゃった」
耳元で囁くように甘い声を出す。
体にうまく力が入らない。それを利用して、俺から竹刀を奪い取る。
「ふふっ。顔を赤くしちゃって可愛いな。私、初めて戦闘で負けちゃったんだよね。だから初めて貰われちゃったなって」
俺にウィンクしてから待機スペースへと歩いていく。
勝者は俺のはずなのに、なんだか負けたような感じがした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます