第13話:初日リーグ戦2【クラスカースト決め】
『1回戦勝者:久遠遥斗』
『2回戦勝者:伊井予暦』
『3回戦勝者:久遠遥斗』
『4回戦勝者:伊井予暦』
『5回戦:信川海斗 対 羽田将吾』
『6回戦:久遠遥斗 対 伊井予暦』
4回戦まで終わり、現時点で上位リーグと下位リーグに進むメンバーは決まったと言っていいだろう。あとは消化試合みたいなものだが、ここまで全勝なんだから最後まで勝ちで終わりたいところだ。
「ふっふーん。最終バトルでこのグループの一位が決まるってなんだか運命を感じるね」
向かい側に座る伊井予が話しかけてくる。
終始笑顔にも関わらず、彼女にはまるで隙がない。ずっと何か試されている感じがあってろくに休憩できる状況ではなかった。
「確かに。漫画とかでありそうな展開ではあるな」
適当に話を合わせておく。
話の中で何か探りを入れてきそうで怖い。
4回戦での待機中に新川が言っていたことが脳裏をよぎった。
『伊井予は強いから気をつけろよ。あいつには竹刀を持っていなくても勝てる気がしない』
一体、どんな能力を使うのだろうか。
待機スペースと戦闘スペースの間には鋼鉄の壁がある。待機中に先頭の様子を見ることはできない。そのため、戦うまでは相手の能力は分からない。
「ねえねえ。このまま消化試合っていうのもなんだか味気ないじゃん。だからさ、勝った方が相手の言うことを何でも聞くって言うのはどう?」
ふと発した伊井予の一言に俺は思わず目を丸くした。
「何でも?」
「そっ。もし久遠くんが勝ったら、私は久遠くんの言うことを何でも聞く」
そう言って腕の位置を変える。内側に寄ったことで胸が強調された。意図的にやっているのか偶々なのか判断しかねる行動だ。
「その代わり、久遠くんが負けたら私の言うことを何でも聞くって感じ。この条件であれば、手を抜くことはないでしょ。場合によっては手で抜くことはあるかもしれないね」
伊井予はそう言って拳を握った。
「あんまり男子の前でそう言うことはいいじゃないか?」
視線を逸らしながら話を変えるように促す。
「照れてやんの。何でも聞くって言った時に想像してたくせに」
不敵な笑みを浮かべて俺の顔をジロジロと見る。そりゃ、健全な男子ならば誰でも想像するだろうに。
「その命令って言うのはとっておくことはできるのか?」
「あー、いきなり使わないとダメだったら困るか。性欲が溜まってないとエッチなことしても興奮できないもんね」
「なんで不埒なこと確定なんだよ……」
「違うの?」
「それは流石に俺の道徳心が許さないよ。とっておけるか聞いたのは、今はまだ頼めるようなことがないからだ。この先に困ったことが起きた時に助けてもらおうと思っただけ」
「あー、なるほどね。使うタイミングは任せるよ。まあ、私に勝てたらだけどね」
伊井予ははにかみながらウィンクする。
随分な自信だな。どんな能力を使うのか楽しみだ。
話がついたところでスクリーンに表示された4回戦の対戦表が『4回戦勝者:信川海斗』に切り替わる。
「どうやら決着がついたみたいだね」
そう言って立ち上がる伊井予につられるように俺も立ち上がった。
戦闘スペースに繋がる扉まで歩いていくと、試合を終えた信川と羽田が出てくる。「お疲れ」と一声かけ、変わるように俺たちは入っていった。
2人とも三度目だからか準備はスムーズだった。
戦闘スペースの中心から5メートルほど離れ、向かい合うと同時にバッジを胸につける。
アナウンスが流れ、ルール説明がされる。
三度目だから話半分に聞く。伊井予も同じようで、体にかけた細長のバッグから竹刀を取り出し、準備を始めた。
「それでは、試合を始めます。5、4……」
カウントダウンが始まった。
「3、2……」
俺は構えの姿勢をとり、頭の中で戦い方をイメージする。
「1、試合開始」
試合開始のアナウンスが流れた。
「【脳内模倣(セレブラム・イミテイチオ】」
伊井予に聞こえない程度に小さく詠唱を行う。
イメージするのは【透明成化】の能力。
右手を確認してみる。視界に入るように手を出しているはずなのに見えなかった。能力の模倣に成功したようだ。
「【透明成化】か。羽田くんと同じ能力……と言うわけではなさそうだね……」
伊井予は俺に視線を向けながら何やら自分の考察を話し始める。
「流石に異能育成高等学校が1クラスしかない非戦闘特化集団の中で同じ能力を持つ人間に招待状を送るとは思えない。つまり、羽田くんの能力をコピーした感じかな」
鋭い洞察力だな。
【透明成化】の能力を使っただけで、俺の能力を大まかに読み取られた。流石に【超絶記憶】と【脳内模倣】の合わせ技までは辿り着けないだろうが。
とはいえ、能力が分かったからといって対処できるかと言えば否だ。
「【脳内模倣】」
次にイメージするのは【瞬間移動】の能力。
伊井予の目の前を想像し、一気に間合いを詰める。
透明になっているため、俺の動きは伊井予には見えない。
女子を殴るのは気が引けるが、願いをかけた真剣勝負だ。
拳を握り、パンチを繰り出す。
鋭い鉄拳を伊井予は笑みを絶やすことなく竹刀で受け切った。拳が竹刀に当たった事でパチンという音が響き渡る。
透明になったことで、伊井予からは見えなくなったはずなのに最も容易く竹刀で止められた。
「【瞬間移動】も使えるのか。こいつは中々の強敵だね」
伊井予は両手で持った竹刀を片手に持ち帰る。
空いた手を広げると、俺の拳が当たった位置に逆方向から竹刀を叩く。刹那、俺の体に圧力が加わる。力に飲み込まれ、数メートル先まで吹き飛ばされる。
幸い損傷は負わなかった。勢いがなくなったところでうまく地面に着地する。
空気を操る能力。
いや、それだけでは【透明成化】が見破られた意味にならない。
「まだまだ!」
伊井予は俺の着地地点を熟知しているようで、俺に狙いを定めて竹刀を振るう。
数メートル離れているのだから竹刀を振るっても俺に届くことはない。しかし、今までの伊井予の振る舞いから危機感を覚え、【氷雪遊戯】による氷の盾を生成する。
すると、氷の断面に太刀筋ができる。
もし、【氷雪遊戯】の能力を使わなければ、大きな損傷を負っていたのは間違いなかった。
「へぇ〜、前の2人は今の攻撃で勝負アリだったんだけどな。さすがは2勝しているだけはあるね。久々に燃えてきたよ」
伊井予は相変わらず、見えていないはずの俺の存在に視線を向けている。表情も崩れる様子は全くない。終始笑顔だ。最初は愛嬌のある笑みだったが、今は恐怖の対象でしかない。
燃えてきたか。
俺もさっきから胸の高鳴りを覚えていた。
伊井予と戦えることに確かな喜びを感じている。
俺も彼女との戦いに闘志を燃やさずにはいられなかった。
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