第12話:初日リーグ戦1【クラスカースト決め】

 縦横高さ二十メートルほどの広さの実技場の真ん中に俺たちは立つ。


「確か、このバッジを両者共に付けたら試合開始の合図が流れるんだったよな」


 羽田はそう言って、ここに来る前に事前に配られた異能育成高等学校の校章を模した掌サイズのバッジを取り出す。


「俺も同じ認識だ」


 流されるように、俺もまたポケットに入れていた同種のバッジを取り出す。


「試合開始でこの距離は近すぎるな。もう少し離れようぜ」


 互いの距離を十メートルほど話したところで、互いにバッジを胸につける。

 付けた瞬間に、自分の視界がきらりと光った。遠くを見ると、羽田の身体全体が一瞬光ったのが見えた。バッジを付けたことで何かが起こったらしい。


「両者ともにバッジを付けたことが確認されたので、これより手短なルールを説明します」


 刹那、部屋に機械音によるアナウンスが流れるとともに、右の壁上にホロウウィンドウが現れる。ホロウウィンドウには『羽田将吾』『久遠遥斗』の文字が右に書かれ、その横に緑色のバーが左側いっぱいまで敷かれていた。


「バッジが付けられたことで両者の体全体に膜が張られました。これによって能力による攻撃を受けても身体に損傷を負うことはありません。しかし、その代償としてスクリーンに映し出された緑色のバーが減少します。先に相手の緑色のバーを失くした方の勝利となります」


 つまり、緑色のバーはこの戦いにおける俺のHPとなっているわけか。


「それでは、試合を始めます。5、4……」


 カウントダウンが始まった。

 ここからはなんでもあり。身体に傷がつくことがないのであれば、どれだけの力を発揮しても問題はなさそうだ。


「3、2……」


 俺は構えの姿勢をとる。

 羽田もまた鏡のように俺と同じ構えをとった。


「1、試合開始」


 俺は【瞬間移動】の能力を使って一気に羽田との距離を近づけようと思った。

 だが、試合開始と同時に羽田の姿が跡形もなく消えたことに驚き、能力を使うのを躊躇してしまった。


 数秒経つが、羽田が姿を現すことはなかった。


 晶と同じ【瞬間移動】ではない。となれば羽田の能力は。

 脳裏に彼の能力を描いたと同時に、コツコツと鳴り響く足音が聞こえてきた。それは徐々にこちらに近づいてくる。


 反射的に腕をクロスさせると、腕に重みが加わった。中々の威力だ。

 腕に伝わる力強さに全体が飲み込まれる。吹き飛ばされ、数メートル先まで後退した。


 能力は【透明成化(フィエリー・パースピキュース)】。

 あらゆるものを透明化させる能力だ。今やつは自分の身体を透明化させている。透化ではなく透明化であるため、視覚以外は全てが伝わる。


 カラクリが分かれば大したことはない。

 透明化以外は肉体戦だ。ならば、俺が取る行動は一つに縛られる。

 再び足音がコツコツと響き渡った。さらに攻撃を仕掛けてくるみたいだ。


「【脳内模倣(セレブラム・イミテイチオ)】」


 手を前に出し、【氷雪遊戯】の能力を頭の中に思い浮かべる。

 手を渡るようにして氷の盾が生まれる。その氷の表面が仄かに砕ける。拳が当たったのだろう。しかし、破壊できるほどの威力はなかった。


 羽田はそんなに強くない。この勝負は俺がもらった。

 さらに、今度は両手を左右に向けることで氷の盾を左右に生成。さらに、腰に手をやることで後方にも生成する。


 氷の盾の四面展開。芦田との戦闘で獲得した賜物だ。

 スクリーンに目を向ける。俺の緑のバーが微かに動いていた。受け切ってもなおダメージを受けたと捉えられるのか。判定は結構緩いみたいだ。


 氷の盾の表面が少しずつ削られていく。


 俺にダメージを与えるためには氷を剥ぐしかない。とはいえ、力技で剥ぐには氷は硬すぎる。だが、この状況では俺もまた羽田にダメージを与えることはできない。


 だからこそ、ここからは俺が仕掛ける。


「【脳内模倣】」


 壁の周辺に氷柱のような尖った氷を生成する。

 無数に生成された氷柱たちが四方に飛び散った。

 一辺の氷柱の勢いが止まる。俺はその瞬間に、スクリーンを注視した。


 羽田の緑のバーが削られている。

 どうやら氷柱を体に食らったようだ。そして、今もなお宙を浮く氷柱によって、羽田の位置はわかった。


「【脳内模倣】」


 この空間の頭上をイメージする。

【瞬間移動】の能力が働き、俺は気づけば空間を飛んでいた。


「【脳内模倣】」


 右手に炎を宿らせ、もう片方の手を前に突き出す。

 狙うは氷柱が宙に浮く場所。先ほどの攻撃で羽田が受けた氷柱は彼の身体にまとわりついている。


 それは彼の体力を削るとともに、彼の居場所を俺に教えてくれる。


「こいつで終わりだ!」


 手の位置を反転させるようにして、炎を宿らせた右手を羽田のいる場所へと突き出す。その瞬間、【火炎遊戯】の能力による炎のレーザー光線が発射された。氷柱が宙を舞う場所はおろか、俺が展開した氷の盾をも焼き尽くす。


「勝者。久遠遥斗」


 アナウンスが流れる。

 スクリーンを見ると、羽田の緑のバーが消失していた。


 一回戦は無事、俺の勝ちで終わったようだ。

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