第11話:初めの挨拶【クラスカースト決め】
翌日になり、クラスカースト決めが始まった。
俺たちは実技場の一角に集められた。
異能育成高等学校の実技場は中学にあるものとは根本的な作りが違う。
まず、一部屋ではない。大小様々な種類の部屋が用意されている。より高度な実践をするために障害物が建てられている部屋もある。
俺たちがいるのは実技エリア1ー3。
エリア1は戦うにしては小さな空間がたくさん集まっている。俺たちのクラスはその中の5つの部屋を使ってクラスカースト決めを行う。
「今日一日よろしくね!」
ランダム選択によって決められた4人1グループが一部屋に集まり、先生からのアナウンスがあるまで各々挨拶に勤しむ。俺たちのグループは女1人男3人。その中の女子が高らかに声を上げる。
「私の名前は井伊予 暦(いいよ こよみ)」
朝にも関わらず太陽のような陽気さを持つ彼女。
紺色の髪を戦闘のためかポニーテールに結んでいる。パッチリと開く瞳。体を鍛えているのか砂時計のようにお腹のラインが内曲線を奏でている。
「久遠 遥斗(くおん はると)だ。今日はよろしく」
彼女に続いて俺も挨拶をする。
美里に散々言われてきたため、『遥斗』という名前は俺の中に定着しつつあった。だが、久遠の苗字は言い慣れていないため、たまに前世の苗字である『山田』と間違えてしまいそうになる。うまく言えてよかった。
「羽田 将吾(はだ しょうご)。今日はお手柔らかに頼むぜ」
右隣に佇む少年が次に挨拶する。
黒髪アップバングに切れ長の目。その中にある井伊予と同じまん丸な瞳は彼の人柄の良さを表している気がした。
「信川 海斗(しんかわ かいと)。よろしく」
最後に左隣に佇む少年が挨拶する。
澄ました表情での挨拶。淡白な言動から仕方がなく挨拶したという感じだった。今日1日は敵同士なのだ。今の段階から臨戦態勢に入っているのだろう。
「ところで」
信川は言葉を続ける。
彼の視線は向かい側にいる羽田から左にいる伊井予へと視線を移した。
「武器の使用はいいのか?」
彼の視線が伊井予から彼女の背中にかけている長い円柱状の入れ物に移る。中身が気になっていると、伊井予は俺の思いに応えるように入れ物の蓋を開ける。
「要項には武器は禁ずるって書いてなかったと思うけどね。どう? かっこいいでしょ? この日のために昨日娯楽施設で購入したんだ」
伊井予は見せびらかすように入れ物に入っていた竹刀を俺たちに向けた。
娯楽施設にはそんなものが売っていたのか。今日の帰りに見てみようかな。
「【物質生成】で作ったと言えば丸く治ったというのに正直なやつだな。要項には書いていないが普通は持ってこないだろう。クラスカーストは能力で実力を測るんだ。能力以外のものを使って勝っても意味はない。それは使うなよ」
「信川くんはお頭が硬いね〜。能力と武器の合わせ技なんてお外ではよく見るでしょうに。武器との兼ね合いを含めて能力での実力だと私は思うけどな。それとも、怖いんだ」
「俺が何を怖がっているって?」
「私みたいなか弱い女の子に負けることをだよ。だから武器を使わないで、あくまで素手での戦いを望むんだね。そうした方が勝率は上がるもんね。信川くんは自信がないんだ」
「っ!」
伊井予の挑発にまんまと引っかかり、信川は眉間に大きな皺を作った。
「良いだろ。武器なんていくらでも使え! その代わり、女だからって容赦はしないからな」
「うわぁー、怖い。お手柔らかにお願いしますよ。信川くん」
伊井予は信川の怒りにも全く動じずに微笑ましい表情を貫いている。伊井予は肝が据わっているし、信川は短気で分かりやすいやつだな。
「はははっ。なんか俺たちのいないところで勝手に話が進んでいるな。まあ、伊井予の発言どおり、武器の扱いを含めて能力での実力っていうのは案外的を得ているから俺は別に気にしないよ」
羽田もまた微笑ましい表情で伊井予の竹刀を承諾した。
俺も空気を読んで「俺も気にしない」と回答しておく。これで反対のものはいなくなったので、伊井予は竹刀を再び入れ物に戻した。
「全員の用意ができたので、これよりクラスカースト決めを行う」
挨拶&小喧嘩を終えたところで笠見先生の声が聞こえた。
声のする上を見ると、ホロウスクリーンが展開されており、そこに笠見先生の姿が大々的に映っている。
「本日は集められた四人でリーグ戦を行ってもらう。勝敗及びヒットポイントで順位をつけ、1位と2位が上位リーグに、3位と4位が下位リーグに進む。各々の対戦表はホロウウィンドウに掲示される。準備のできたものから取り掛かるように。私からは以上だ」
画面が切り替わり、俺たちのグループの対戦表が掲示される。
『1回戦:久遠遥斗 対 羽田将吾』
『2回戦:伊井予暦 対 信川海斗』
『3回戦:信川海斗 対 久遠遥斗』
『4回戦:羽田将吾 対 伊井予暦』
『5回戦:信川海斗 対 羽田将吾』
『6回戦:久遠遥斗 対 伊井予暦』
「私は2回戦からか。では、お二人さん、頑張ってね」
伊井予は俺たちに手を振って壁際にある休憩スペースへと足を運んだ。信川は何も言うことなく休憩スペースに歩いていく。二人の姿を見ていると、信川が途中に伊井予の姿を捉えて、意図的に距離をとっていた。
信川は伊井予を心底嫌っているみたいだ。
「一回戦よろしくな」
隣にいた羽田の声が聞こえる。彼は陽気な笑みで俺を見ていた。
「ああ。お手柔らかに頼む」
引きずられるように俺も笑みを浮かべて返事をする。
久々の実戦だ。転生してから一ヶ月強で俺がどれだけ強くなったかを知ってもらう良い機会だ。
羽田の後ろに着くと、気を引き締めるように右拳を左掌に当てた。
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