第10話:校内にあるレジャー施設

「はーあー、クラスカースト決めか。嫌だなー」


 1日目が無事に終了し、俺は美里と晶と校舎を北に行った先にあるレジャー施設に足を運んでいた。寮生活を余儀なくされているため、校内には映画館やゲームセンターといった娯楽施設が備わっているのだ。


 昼食を兼ねてフードコートで駄弁っていた。

 話題は当然ながら明日から行われるクラスカーストで持ち越しだ。戦闘が苦手な美里は憂鬱で仕方ないようでテーブルに突っ伏す。


「私もあんまり乗り気じゃない」


 晶もまた憂鬱な様子だ。とはいえ、表情はいつもと変わらない。感情を把握しにくいやつだ。


「【部分時戻】も【瞬間移動】も戦闘系ではあるものの戦闘特化ではないからな。でもそれは、みんな共通しているんじゃねえか?」


 能力は『戦闘系』と『非戦闘系』の二種類に分けられる。

【火炎遊戯】と【脳内模倣】など戦闘に秀でた能力であるか否かだ。


 このうち『戦闘系』はさらに『戦闘特化』と『非戦闘特化』に分けられる。

 さっきの【火炎遊戯】と【氷雪遊戯】のように『戦闘特化』には【遊戯】と名付けられている。


 異能育成高等学校では『戦闘系』の能力者に向けて招待状を送っている。

 そして、全4クラスのうち3クラスが『戦闘特化』、1クラスが『非戦闘特化』となっている。


 だから俺たちのクラスは全員が『非戦闘特化』だ。

 

「でも、遥斗みたいに『非戦闘特化』と見せかけて戦闘特化のような芸当をする奴もいるでしょ。そんなのと当たったらボコボコにされるかもしれないじゃん」


「まあ、確かに。俺が美里と当たったらボコボコにするだろうしな」


「うわぁ。私みたいな可愛い子をボコボコにしようだなんて遥斗って最低ね」


「可愛いのは否定しないけど、勝負に関して手加減するわけにはいかないからな」


「私のこと可愛いって思ってくれてるんだ」


 ストローを口に咥えながら美里の姿を見る。テーブルに突っ伏しているので、美里は自ずと俺を見上げる形になっていた。瞳を輝かせ、上目遣いで見つめてくる。


「まあ……な……」


 照れ臭くなって、俺は顔を逸らした。最初に来た時は満員だったが、現在はまばらに生徒がいるくらいだ。


「ありがと……」


「私って邪魔?」


 俺たちのやりとりを遠目に見ながら晶はボソッと呟く。


「「そんなことないよ」」


 俺と美里はあわてて姿勢を正して苦笑いを浮かべながら。


「良かった。私、二人と一緒にいたかったから」


 麦茶の入った紙コップを両手で握り閉めながら言う。

 晶は見た目の特徴から孤高のように見えるが、孤独は嫌みたいだ。


「こんな密閉された空間で一人は寂しいもんね」


「うん。この後の予定とかあったりする?」


「私は空いてるよ」


「俺も予定は特にない」


「じゃあ、三人でゲームセンターに行きたい」


「いいね。明日の憂鬱な気分を吹き飛ばすためにも、今日は目一杯遊ぶぞ!」


「おー」


 美里が拳を突き上げると、晶もまた拳を突き上げる。

 意外と乗りが良いなと思いつつも、声のテンションがいつもどおりなのが晶らしかった。


 俺たちがいたフードコートは娯楽施設に造られたものだったので、階を一つ上がればゲームセンターがある。エスカレーターを使って上がると、一面丸々ゲームセンターのフロアに到着した。


「晶は何かやりたいものとかあるのか?」


「私はシューティングゲームがやりたい」


「美里には聞いてねえよ」


「三人でできるのがいい」


「じゃあ、シューティングゲームで決定ね!」


 決まったところで、シューティングゲームのあるコーナーに歩いていく。


 シューティングゲームはたくさんの種類があった。

 小中学生に人気のコンテンツを扱ったシューティングゲーム。

 恐竜や怪獣など巨大生物を討伐するシューティングゲーム。


「私、これが良い」


 多種多様なシューティングゲームがある中で、晶が目をつけたのは『ゾンビ』を撃つシューティングゲームだった。しかも、他のものとは違い、VRゴーグルを付け、仮想世界に入り浸って銃を撃つリアルなゲームだった。


「げ……ゾンビ……しかもVRかー」


 晶の指差す先を見つめて苦言を漏らす。

 なるほど。ホラーは苦手か。俺は思わず口角が上がった。


「シューティングゲームがやりたいんだろ。なら、早くやろうぜ」


 美里の首に手を回して逃げられないようにする。


「ちょ、ちょっと遥斗!」


 戸惑う美里に構わず、晶の指差した方へと連れていく。晶は俺たちの後ろをついてきた。


「VRゴーグルは自分でつけるから!」


「気にするなって。日頃のお礼だ」


「二人とも楽しそうで何より」


 俺たちの戯れ合いを見て、晶は笑みを浮かべた。それからVRゴーグルを装着し、プレイするための輪っか内に体を入れる。俺もまた美里の隣についてVRゴーグルを装着し、輪っか内に入った。


 視界に映った世界がガラッと変わる。

 持っている銃のトリガーを押すと、VRゴーグルに映し出された『プレイ前』表示が『フレンド待機中』に変わる。


 トリガーを押した瞬間にVRゴーグルに取り付けられた内側のカメラが俺の網膜を認証し、俺の持つマイアカウントの所持金からプレイ料金を差し引いた。この世界の金銭のやり取りは全てデジタルになっている。


 美里と晶もトリガーを押してゲームを始めたようで、『フレンド待機中』の文字が消えた。歩き、輪っかの前につくことで自分のアバターが前に動く。


 目の前に見えるのはスラム街のような廃れた家屋が集う街だ。天候は雨。時々、稲妻が光る。


 横に顔を向けると、二つのアバターが見える。

 現実世界での自分の位置からして、手前に美里、奥に晶のアバターがいるのだろう。味方の立ち位置が分かったところで再び顔を前に向けた。


 すると、家屋からゾンビが数体姿を現した。


「ぎゃー! めちゃくちゃ気持ち悪いんだけど!」


 隣から美里の大声が聞こえてくる。

 すると、彼女のアバターが俺の方に近づいてきた。拳銃のピントに美里のアバターが侵入し、思うようにゾンビが打てない。


「おい、美里! 邪魔だよ!」


「しょうがないでしょ! 一人じゃ心細いんだから! うわ、右の階段からもゾンビがやってきた! 助けて〜、遥斗〜!」


 絶叫しながらも美里は拳銃を乱射する。

 俺も加勢しようとするが、美里が邪魔で全く打てない。


「久々にやるけど、結構楽しい」


 晶はいつもの冷たい口調で言いながら、迫り来るゾンビを撃つ。彼女の射撃能力は半端なものじゃなく、全てのゾンビを一撃で仕留めていく。


 晶一人の方が良かったのではと思うくらい、彼女はゾンビはおろか途中で出てくるボスすらも容易く撃ち殺し、ゲームを無事にクリアした。俺と美里はほとんど二人で戯れあっただけで終わってしまった。

 

 シューティングゲームの得点は、晶、美里、俺の順だった。

 美里に邪魔をされてピントが全くゾンビに合わなかったのだ。合ったと思ったら晶に奪われて結果として一体も倒せなかった。


「あー、怖かった。でも、案外楽しかったかも」


 VRゴーグルを外した美里は意外にもスッキリした表情をしていた。


「俺は邪魔されすぎて全然楽しくなかったけどな」


 俺はVRゴーグルを外しながら、美里に冷ややかな視線を送った。

 ふと、美里の奥に見えた晶が浮かない顔をしているのに気づく。ゾンビを無双したというのに楽しくなさそうな様子だ。


「晶、どうかしたのか?」


 問いかけると、彼女は俺の方に顔を向ける。

 俺を見て、次いで美里を見る。そして、再び俺に視線を戻した。


「私やっぱり邪魔だった?」


 晶の言葉に、俺と美里は顔を見合わせて苦笑いをした。

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