クラスカースト編
第9話:入学式
新年度が始まり、俺は『異能育成高等学校』へと進学した。
超人類が誕生し、街には一層危険が付き纏うこととなった。街で喧嘩が起ころうものなら能力が使用されるのは当たり前。それ以外にも、自分の力を試すために通り魔的行為を働いたり、集団によるテロ行為が発生することもある。
政府は人々に自衛のための能力向上を呼びかける他、治安を維持するための戦闘系能力に秀でた人財を育成する学校を設立した。その一つが『異能育成高等学校』である。
「一年生の皆さん、入学おめでとう」
壇上に立った白髪の男は笑みを浮かべながら新入生の顔ぶれを一瞥した。
「先ほどご紹介に預かりました理事長の前嶋 和也(まえじま かずなり)です。長話もなんなので、私から一点皆さんにお願いがあります」
前島理事長はそう言って右手の人差し指を立てた。
「皆さんは、これからこの学園でたくさんのことを経験していくでしょう。経験値が増えれば増えるほど、子供の時に教えられた正義が揺らいでいくでしょう。なので、皆さんにはこの学園で過ごす中で、自分が何を正しいと思うのか。その基準を今一度しっかり見つめ直していただきたいです。私からは以上です」
短く話をまとめ、理事長は壇上を後にした。
この手の話は長くなるのが定番なので、短くあってくれたのは好印象だ。ただ、重い内容を笑顔で話す姿だけは勘弁願いたかった。不気味すぎる。
入学式は順調に進んだ。
すべてのプログラムが終了し、俺たちは各々自分の教室へと戻っていく。
「案外早く終わったね」
隣を歩く美里が大きく伸びをした。
白を基調とした制服。男女ともに青色のネクタイをつけている。胸には学園の紋章が付けられている。八芒星をイメージした紋章だ。
「この後は教室で担任から説明を受けて終わりか」
「だね。早く寮でゆっくりしたいな〜。男子寮はどんな感じ?」
異能高等学校は閉鎖的な空間だ。
寮制度を採用し、帰省できるのは夏、冬、春休みに三日ずつ。それ以外は学内で暮らすことになっている。
「普通だよ。寝床に、洗面所に、台所があるだけ。国の税金を使っているんだから贅沢はできないよ。唯一の利点は一人一部屋くらいか」
寮があるにも関わらず、異能育成高等学校の学費は一般の高校よりも安い。
理由は国が賄ってくれているからだ。秀でた才能を持つ者を育成し、街を守る優秀な人財として将来的に起用するのだから政府は協力を惜しまない。
国が賄っているが故に、この学校に入れるのは招待状をもらった人間だけだ。俺も美里も招待状をもらったからここに入学した。
「同じだね。それもそうか。どっちかが優遇されるわけないもんね」
他愛のない話をしながら、自分たちの教室を目指す。
クラス分けは入寮と同時に発表された。同じクラスだと分かった時には美里は大いに喜んでいた。抱きつかれた時のふっくらとした感覚は今も記憶に残っている。忘れられるはずはなかった。
「美里、遥斗、おはよう」
教室に入ると、見知った少女が声をかけてきた。
「晶ちゃん、おはよう。また同じクラスだね」
美里は永井 晶(ながい あきら)に近寄ると両手でハイタッチを交わした。晶はやる気のないような無気力な表情をしているが、ノリの良い優しいやつだ。俺に【瞬間移動】の能力の使い方について教えてくれたのも彼女だ。
「いやー、知り合いがいてよかったよ」
「私も。一人じゃ心細いから」
「そうだな……」
俺は教室をぐるっと見回した。
すでにクラスの人数である二十人は揃っているように感じる。その中で、美里と晶以外に俺の知っている生徒はいなかった。
つまり、今の段階で、俺は男子ぼっち確定というわけだ。
「まあまあ、私たちの仲に入れてあげるから」
美里は俺が思っていることを察したようで、口元を押さえ、不適な笑みを浮かべる。仲に入れてあげるから、私の言うことを聞いてねと暗示しているように思えた。
「席につけ」
三人で話していると、後ろから声が聞こえる。
振り返ると、大人の女性がいた。俺たちの制服とは対照的に黒を基調とした服を着ている。美里よりもふっくらした胸とお尻。ウエストの細さがそれらを一層強調していた。しかも可愛い。
「なーに見惚れてんのよ。行くよ」
先生の姿に夢中になっていたところ、美里に頬を引っ張られ、自分の席に連れていかれた。
「いててて……」
俺はつねられた頬を押さえながら、教壇に立つ先生の姿を見る。
「このクラスの担任を務める笠見 佐穂(かさみ さほ)だ。全員揃っているみたいなので、明日からの予定についてお伝えする。明日からはクラスカーストを決めていく。自分が今後行うカリキュラムに関わることなので、全力で取り組むように」
クラスカースト。それは入学式に先立ってのお知らせにも書かれていた。
二十人のクラスで上からA、B、C、Dの四つの階級に分ける。上から順に戦闘に秀でた能力者となる。
四つの階級別で育成プログラムに取り組むこともあれば、上下二つずつに分かれて取り組むこともある。上の階級であればあるほど育成プログラムの難易度は高いものとなる。
俺が目指すのはもちろんAクラスだ。
そのためにもクラスカーストで好成績を残さなければならない。
笠見先生はそれからも諸々の伝達事項を伝えた。
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