第6話:猥褻行為
芦田先生の言動に、俺は戦慄を覚えていた。
転生前の記憶が疼く。鼓動が高まり、呼吸が乱れていった。
兆しはあった。
彼が氷を美里の腕に生成した時、まるで自分に食らったかのように腕が冷たくなった。記憶がフラッシュバックしたことで、あの時の状況を体が疑似体験したのだ。
芦田先生は転生前に俺をいじめていた奴と瓜二つだ。
能力を使って相手を拘束し、暴力を喰らわせる。下劣で卑怯な人間だ。
いや、瓜二つなんかじゃない。
確かあいつの名前も芦田だった。そして、ここは俺がいた時から二十年後の世界。先生になっていても不思議ではない。
「せん……せい……」
美里は信じられないといった様子で彼に顔を向けていた。
「どうした? 【部分時戻】で氷を溶かしなさい。でないと、痛い目に遭うよ」
芦田はそう言って前に進む。
助けなければ。そう思ったのに、体が硬直して動かなかった。過去のトラウマが俺の動きを完全に封じていた。
美里は芦田から発せられる異様な雰囲気に恐怖を抱き、後ずさる。
「キャッ!」
その足を氷が止める。
床と彼女をくっつけるように生成された氷によってバランスを崩し、その場に倒れ込んだ。
「どうした?」
苦悶の表情を浮かべる美里の前に芦田が佇む。
「早く能力を使って氷を解かないと……」
腰を下ろし、彼女の足を拘束するように馬乗りする。
「せ、せんせい……やめてください……」
美里は息混じりの声で抵抗を示す。
声音から彼女がどれだけ恐れているか手に取るようにわかった。
早く助けにいかなければ。何度も体を動かそうと試みているのに、金縛りにかかったように動くことができない。
「これは講義だ。君は今、危機的状態に陥った」
芦田は美里の両手を持ち、上にあげる。
今度は床と両手首を氷でくっつける。美里の動きは完全に封じられた。
「今こそ火事場の馬鹿力を見せなさい。さもないと!」
セーラー服のスカーフを剥ぎ取る。
チャックを外すと、白いインナーが姿を現す。
「お願いです。やめてください」
「言っただろ。早く能力を使いなさい。それとも、このまま私に身を委ねるかい」
そういって、芦田先生はスカートからインナーを抜き、ゆっくりと上げていく。
「最初の授業から私は君に興味があったんだ。卒業式前に君の体を堪能するのも悪くはない。はぁー、綺麗な肌だ」
再び舌なめずりをしながら舐めるように美里の体を凝視する。
美里は涙を流しているのか、鼻を啜る。恐怖で声が出ないのか、叫ぶことはなくなっていた。
「能力を出さないということは、私からの行為を受け取るということでいいんだね?」
芦田が尋ねても、美里は返事をしなかった。
だから彼は都合のいいように肯定と捉えた。
「次は下だな」
スカートのホックを外し、下におろしていく。
服を脱がされ、美里の淫らな姿が顕になる。芦田は立ち上がり、先ほど直してもらったスマホを手に取った。
「いい眺めだ。記念と口封じのために一枚写真を撮っておこう」
フレームを彼女に向けて、カシャッと音を立てる。
俺の中で怒りが沸々と湧いていた。とんだ畜生だ。大人になってもなお、弱い奴に対して酷いことを繰り返してやがる。
「写真も撮ったことだし、そろそろお楽しみと行こうか」
三度舌を舐める。
そして、再び腰を下ろそうとした。
「助けて! 遥斗!」
その時、美里が大きく叫んだ。
彼女の声に感化され、俺は封じ込めていた金縛りを解かす。
芦田の姿を思い浮かべるとともに、【瞬間移動】の能力を頭の中で描く。
「【脳内模倣】」
詠唱した瞬間、身体が宙に浮く。
目の前には芦田の姿があった。
「芦田ー!」
芦田は急に現れた俺に対して目を丸くした。
俺はその隙をつくように内に湧いた怒りを拳に乗せて、芦田の顔面を思いっきり殴った。
拳が上手くヒットし、芦田の顔面が内側に収縮する。
勢いに任せて拳を押し出す。芦田は少し離れた位置に吹き飛ばされた。
「美里! だいじょ……」
俺は美里を心配して後ろを振り返った。
そこには当たり前ではあるが、下着を丸出しにした彼女の姿がある。氷によって体を拘束されているため、非常にセンシティブな状態だ。
「ちょ、ちょっと! なにまじまじと見てるのよ!」
「わ、悪い」
美里の声に唆され、顔を元に戻した。
「【氷雪遊戯】」
不意に、両手に冷たさと重さを感じる。
とても自分の耐え切れるほどの重さではなかった。腰を落とし、床に手を置いた。すると、氷は床と一体化し、美里と同じ状況に陥る。
「まさか先客がいるとは。なかなかいいパンチだったよ」
芦田が声をかけてくる。
ゆっくりと立ち上がり、俺の元へと近づいてきた。
「この状況を見られたのは流石にまずい。残念だが、君には美里くんよりも痛い目に遭ってもらうよ」
身動きが取れないことをいいことに、芦田は余裕の笑みを浮かべる。憎たらしい笑みだ。
「それは俺にもマンツーマンの教育をしてもらえるということですか?」
俺は【脳内模倣】によって両手に炎を纏わせる。熱によって氷が溶け、身動きが取れるようになった。芦田は驚きを隠せない様子だった。
「まさか。【脳内模倣】を上手く扱えているようで何よりだ。つい前まで、何の能力も扱えなかった雑魚だったのに」
笑みを取り戻し、両手で拍手を送ってくる。
どうやら、まだ自分に分があると思っているらしい。その勢いがいつまで続くか見ものだ。
「今までの俺だと思っていると足元救われるから覚悟してくださいね」
芦田との授業に臨むため、俺は両手で構えの姿勢をとった。
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