12話「実は喜んでいる?幼馴染の歓喜」

 この学院は一つの寮部屋を二人で使う事が前提らしく姉貴の独断によりヒカリと同室になることを命ぜられると、最初こそ彼女と共に生活するのは俺とて恥ずかしさを感じる所ではあった。


 だが姉貴から監視という名の監禁があることを告げられると、なんとしてでもヒカリと同じ部屋になることが必須であり、もはや恥じらいなんぞ二の次だとして彼女の手を握りながら同室の許可を懇願した。


「わ、わかった! わかったから……その、いきなり手を握るのは……っ」

「本当か!? ありがとうなヒカリ!」


 なんとか彼女から同室の許可を得ることが出来ると、姉貴と同室になることは避けられそうである。本当に姉貴と一緒に暮らすのは実家の時だけで充分であるのだ。

 

 それと何故かヒカリは照れくさそうに自身の手を触りながらにやけているが、一体どうしたのだろうか? しかも隣では姉貴が少しだけ残念そうな表情を見せていたが、もしかして俺と同室になりたかったのだろうか。


 ……いや、そんな訳はない。きっと同じ部屋になったら追加で、授業の補修を受けさせられるという地獄が待っているに違いないからな。


「あ、あの質問いいですか?」

「なんだ、言ってみろ」


 突然なヒカリの言葉に姉貴は表情をいつもの鉄仮面へと戻して返事をする。


「先程の私権限で同室を許可するとは……どういう意味なんですか?」


 彼女の質問とは姉貴がどんな権限を有して部屋の人員を決めることが出来るかと言うものであり、それは確かに俺とて疑問に思えていたことである。


「なんだそんなことか。答えは簡単だ。私が一学年の寮長も兼任にしているからだ」


 そう言うと姉貴は僅かに口の端を吊り上げて不敵な笑みを見せていた。


「「えっっ!?」」


 どうやら授業を終えて寮という自由時間ですらも姉貴の存在が大きくあるらしく、その突然の発言にヒカリと俺は同時に同じ声が飛び出した。


 だけど同時に寮長という言葉を聞いて通りで家を空ける時間が長い訳だと納得が出来ると仕事のためならば仕方ない。生きるために金は必要であり、金は命よりも重いのだ。


「これで話は以上だな。お前達も早急に寮へと向かうように。なにかあれば寮長室に来い」


 姉貴が淡々と話を終わらせて教室を出て行く為に歩き始めると、不意に扉前で足を止めて振り返りながら寮長室という言葉を残して教室を後にしていた。


「「は、はい!」」


 ヒカリと俺は姉貴の姿が視界から消える前に返事をすると、漸く嵐のような時間は終わりを告げた。だがこれで漸く自分の寮部屋が何処かという目的は達成されて、あとはヒカリの後を付いて部屋へと向かうだけだ。


「じゃ、じゃあ部屋に向かうとするか」

「そ、そうだな。いつまでも教室に居る訳にもいかんしな!」


 妙にぎこちない会話を交わしてから教室を出て行くと既に廊下には、他の女子達の姿も見られないことから殆どの者たちが早々に寮へと移動したことが伺えた。


 ――そして俺達が一年校舎から出て学院の敷地を歩き始めて三分ぐらいが経過すると、目の前には校舎と同等の大きさの建物が姿を現した。


 外見は古くもなく新しくもなく取り立てて言うことはないが、この建物の中に大勢の一学年の女子達が居るという事実が俺の理性を揺すぶらせてくる。


 そう、今日から俺は大勢の女子達と共に寝食を共にするのだ。考え方を変えれば一種の擬似ハーレムと何ら変わりはないだろう。となれば自然と心と体が浮つくのも理解できることだ。


「なにを呆けた顔をして立っているんだ? はやく中に入るぞ」

「あ、ああそうだな! わりぃ、寮暮らしが初めてだから緊張してさ」


 ヒカリに声を掛けられて慌てて返事をしながら寮の出入り口へと向かうと、今まさに自分が想像していた擬似ハーレムのことが気づかれなくて本当に良かった。


 もしこんな所で考えが見透かされていたら『そんな浮ついた妄想をしている者はサクヤさんに報告する』と言われて即行で寮生活が終わる所だったぜ。


「おお、ここが聖十字騎士学院の寮か……。なんか廊下から既に女子特有の甘い香りが漂って落ち着かないな」


 そして中へと入ると直ぐにフルーツ菓子のような甘い匂いが鼻腔を突き抜けていくと、つい思ったことを独り言感覚で呟いてしまった。しかも妙に変態的な意味合いに取られそうな言葉で。


「んっ、お前今なにか変なこと言ったか?」


 すると前を歩いていたヒカリが足を止めて振り返りざまに尋ねてきた。

 これは恐らく……というよりも十中八九さっき俺が不意に零してしまった言葉の意味であろう。

 

 ならば今ここで馬鹿正直に『うん』などという返事をしたら殺されること間違いない。

 故に今最善の答えはこれしかないであろう。


「いやぁ何も言ってないぞ? 気のせいじゃないか?」 


 そう、気のせいということにすることだ。だがこれは一種の賭けでもある。

 仮にこの嘘が見破られようものなら初版で罪を認めるよりも重い罪となるのだ。

 

 なんせ嘘を上塗りして言い逃れしようとしているからだ。しかしそうでもしないとヒカリから鉄拳制裁を喰らうことになり、最終的には姉貴と同部屋という地獄ルート確定なのだ。


「気のせいか……ならいいんだが。急に変態が使うような言葉が聞こえた気がしてな」


 意外な事にヒカリは俺の言葉を信じてくれたようで、少しだけ首を傾げては煮え切らない顔をしていたが特段疑うということはない様子である。


「そ、そうなのか? まあこの寮は安全性が高いらしいから、変質者はまず入れないから大丈夫だろ」


 敢えて他人事のふりをして話を合わせていくと、この学院では教員の全員が聖騎士の称号を得ていることから安全性に関して不安はないと言えるだろう。


「うむ、それもそうだな。変なことを言ってすまない」

「気にしなくて大丈夫だ。そんなことより早く部屋に行こうぜ」

「ああ、そうしよう」


 本当は自分が悪いのだが何故か謝らせてしまうことになると普通に罪悪感を覚えながらも、俺達は再び部屋へと目指して歩き始めるのであった。

 その際に侘びとして後で購買で好きなお菓子を一つ買ってあげようと心中にて誓う。


「……こ、ここが私達の部屋だよな?」


 そうして一つの部屋の前へと到着するとヒカリが妙に歯切れの悪い感じで呟いた。


「あ、ああどうみてもそうだろ。だってほら、この紙が何よりの証拠だ」


 そう言いながら人差し指を扉の前へと向けると、そこには一枚の紙が貼られていて内容としてはヒカリと俺の名前が書かれていたのだ。


 つまりそれを見るに彼女はこの張り紙を見て何かを想像してしまったのだろう。十五の少女が考えることは男の自分には分からないが、いざ改めて思うと本当に同い年の男女が同じ部屋で寝食を共にするのかと、今更ながらに緊張感が腹の底から湧いてくる。


「ま、まったく仕方ないな! サクヤさんの指示ならば、それに従うしかない! ああ、実に仕方のないことだっ!」


 しかし突然隣の方から張りのある声でヒカリが両腕を組みながら主張してくると、それは見るからに無理をさせているようで申し訳ない気持ちで一杯になる。その証拠に彼女は頬を赤く染め上げていて、こんな俺と同室になることを許してくれて本当に感謝の極みだ。

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聖十字騎士学院の異端児〜学園でただ1人の男の俺は個性豊かな女子達に迫られながらも、世界最強の聖剣を駆使して成り上がる〜 R666 @R666

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