第33話 ダーク・ブラッドとの決着

「戦いを終わらせるだと? ああ、終わらせてやるよ。お前の死でな。ジョー」


 ジンは立ち上がりながら笑う。邪悪な笑みだ。少なくとも僕はそう感じる。良い気はしないな。


「ダーク、あんたはすでに手詰まりですよ。その体は弾丸を受けすぎた」

「受けすぎただと? 馬鹿が! お前が俺に多少のダメージを与えたくらいで言い気になるなよ」

「分かりませんか。僕が使ってる武器は、元々スライム系の魔物なんですよ?」

「それがどうし……」


 ダークの口が痙攣し、体も痙攣しだす。その場に倒れ、まともに動けなくなる。今度こそ、勝負あったね。やれやれだよ。


「あんたの体の中で、ジャムの一部が暴れてるんです。筋肉や、内臓や、脳を、次々に破壊します。体の内側に残っていたスライムは、あんたを攻撃し続ける。脳も攻撃され続けているから、僕の言ってることを、あんたはもう理解することもできないんでしょうが」


 我ながら、エグい戦法を考えたものだ。銃弾として撃ち込んだスライムを体内で暴れさせるなんて、オーバーキルも良いところだもの。とはいえ、即死無効と自己蘇生、自己再生を持ってる化物には、これくらいエグい戦法で丁度良いくらいなんだけど。その痛みは想像もしたくないな。


「あんたはそのまま死んでいけ」


 ……決着だ……よね? そう思うと急に体の力が抜けてしまった。へにゃっと、その場に座り込んでしまって、そんな僕にジンやナー、ミーミー、クロ、他にも仲間たちが駆け寄ってきた。ダークのスキルによる威圧の効果が解けたんだろうねえ。皆、心配そうにしてるけど、大丈夫さ。僕は無事だよ。心配は要らないからね。


「ジョー! やったな!」

「ジョー様! お怪我はありませんか!?」

『大将、すまねえ。俺は動けなかった! ほんとに、あんたは凄いな!』


 心配は要らないってのに、でも……皆ありがとうね。


「皆も無事でよかった……僕たちの場所を守れたね」

「そうだな。本当に良かった!」


 ジンは感極まったのか僕を抱き締めてくる。おいおい……泣いてるのか? 泣くほど嬉しかったのかい? それとも泣くほど、ほっとした? まったく……ジン、弟思いの良い兄だよ。あなたは。


 ジンの背中をポンポンと叩いてやっているうちに、ポツポツと雨が降り始めた。雨の勢いは次第に強くなっていく。これは、嵐になるかもしれないね。動きまくって熱のこもった体が雨水によって冷やされていくのを感じる。気持ちの良い雨だなあ。


「兄さん、行きましょう。ダークは、放置しておいても大丈夫です」

「……そう、か。少し待ってくれ。兄上に最後の別れを言っておきたい」

「分かりました」


 その後、ジンは雨の中でダークに何か言っていた。彼なりにダークに対して思うところがあるのだろう。あれでも家族だもの。とんでもないクソ野郎だったけど、嵐の中で、放置されて死を待つのは、哀れではある。僕は同情してやらないけどね!


「……別れの言葉は伝えましたか」


 少し離れた位置から声をかけると、ジンは僕の方を向いて頷いた。終ったか。終わったなら、行こう。


「ずっと雨に打たれてると、風邪ひいちゃいますよ。とくに僕たち人間は」

「そうだな。ああ、行こう」


 僕たちはその場を後にする。一応、ジャムがダークを監視してくれることになった。ダークはもう何もできないだろうけど、念のためにね。決して、奴が復活するんじゃないかって不安だとか、そういう気持ちじゃあないんだからねっ!


 僕たちとは離れた場所で、味方の増援も戦っていた。彼らの相手は罠にはまって、まともに動けない敵だったから、ほとんど被害はなかったそう。味方が無事で良かったよ。彼らには報酬を支払って、お帰りいただいた。嵐で大変だろうけど、気を付けて! 力を貸してもらって助かりました!


 嵐の中でダークや、奴の仲間たちは一晩中ずっと野ざらしにされた。そんな彼らにナーは寂しげな顔で「可哀想ですね」と語っていた。彼女はブラッド家に仕えていたからね。思うところはあるだろうさ。


 僕は一晩考えて、翌朝ジンに相談する。死体の扱いについてだ。そのまま野ざらしというのは、どうも気分が良くない。病気が広がるリスクもあるし、埋葬の必要がある。埋葬するべきだ。


「ダークたちを火葬しましょう」

「火葬か……ふむ……」


 ジンは少し考えて、頷く。彼も埋葬の必要性は感じていたようだ。まあ、人として、奴らにも葬儀を受けるくらいの尊厳はあるだろう。人として、僕らもそれくらいの敬意は見せるべきだろう。


「ジョー。火葬するなら、それなりの準備が要る。金もかかる。構わないか?」

「構いませんよ。ダークも家族ですから。ちゃんと弔ってやるべきです。彼にしたがった騎士たちも、同じように弔われる権利を持っているでしょう」

「……お前は優しいな。ジョー」


 優しいというのは違うんじゃないかな。僕はそんなに情のある人間ではないよ。


「死体を放置していれば虫や魔物がわきますし、病気も広がります。それが嫌なだけですよ」

「そうか。そういうことにしておこう」


 ジンは静かに微笑む。お、なんだなんだその顔は? 俺だけは分かってますよ、みたいな顔をするんじゃあないよ!


「早速、葬儀の準備を始めようじゃないか。忙しくなるぞ」

「はい!」


 嵐は去り、僕たちは葬儀に向けて動き出す。戦いが終わり、後は過去にけじめをつけるのだ。未来を晴れやかに迎えるために。

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