第32話 ダーク・ブラッドの七つのスキル
僕の前に立つのは暗黒騎士ダーク・ブラッド。後ろの味方はダークに威圧されて萎縮してしまっている。正直、僕も怖い。怖いけれど、ここで僕が退くわけにはいかない。この場所を、皆を、僕が守るんだ。ジャムとミーミーもついてる。ファイトだ!
「ふひっはは! ジョー、お前ごときが俺を止めるというのか? 笑わせるなあ! 身の程を知れよ。ブラッド家の落ちこぼれが」
「身の程を知るのは、あんたの方だ。ダーク・ブラッド」
「ほおー言うじゃないか。ジョーごときが」
ダークがフレイルを構える。鎖つきのこん棒みたいな武器。先端の鉄球で殴られれば、痛いでは済まないだろうね。あれで殴られるのは、あまり考えたくはない。痛いのは嫌いさ。
「ジョー、お前のレベルはいくつだ?」
「……レベルは二です」
「そうかそうか。お前のレベルは二かあ」
ダークが嗜虐敵な笑みを浮かべる。君の悪い笑みだな。顔のパーツは整っているのに、よくもまあ、そんな気持ちの悪い顔になれるものだと感心する。
「教えてやるよ。俺のレベルは七だ」
そう、ダークは得意気に語る。その情報を知らなければ絶望のひとつでも、できたかもしれないけどね。あいにく僕はその情報は知ってるんだ。エルダーファンタジーのコアユーザー舐めんなよ。
「御託は結構です。さっさとかかってきたらどうですか?」
「あ?」
「さっさとかかって来いと言ってるんですよ。クソ兄貴」
「ぬかせ! ゴミクズが!」
スキルで威圧感を放ってもな。能力で大物ぶったってお前の本質は弱いもの虐めが好きなだけの小物だよ。ダーク、お前は能力値が高いだけの小物なんだぜ。
「吠えろ! ミーミー!」
「うぉぉぉんっ!」
ダークは攻撃の挙動に入っていた。奴の身体能力は驚異的だ。だが、そんな奴でも至近距離でフェンリルの咆哮を受ければ、体の自由は効かなくなるはずだ。短い時間でも、動きを封じられれば良い。良くやったぞ。ミーミー。
「ジャム、散弾モード!」
『あいあい!』
僕の言葉に合わせて、銃の形が瞬時に変わった。そして、引き金を引く。ダークの顔面に散弾を叩き込む。くらえ! くらいやがれ! クソ野郎が!
ダークの威圧の効果だろう。散弾の威力が落ちているように感じる。僕の銃の威力は、ジャムのステータス依存だからね。それでも、散弾はダークの頭半分を吹っ飛ばした。ざまあみやがれ! ま、普通の人間であれば、この時点で勝負ありなんだがな。
ダークはたたらを踏んで、仰向けに倒れた。立ち上がる気配はない。だけど、油断はしないよ。
「ダーク、あんたは身体能力強化のスキルを持ってる。だから、馬鹿みたいに正面から殴りかかってくるのは、予想できました。自分より弱いと思ってる相手に小細工を使う必要はないと、あんたは思ったでしょうよ」
ダークの体は動かない。情報がなければ、僕も油断しただろうよ。でもね、あんたは上空から落とされ、落とし穴にはまり、槍の雨を受けてもピンピンしていた。その情報とエルダーファンタジーの知識があれば、あんたは百パーセントあのスキルを持っている。僕を騙せると思うなよ? 卑怯なことを考えやがって。
「死んだふりをしたって無駄ですよ。そうやって僕を油断させたいんでしょうけど、頭を吹っ飛ばされて、小細工を使い出す程度に冷静さを取り戻したんでしょうが……そんなことで僕を出し抜くことはできない」
ダークは動かない。これだけ言われて、まだ僕を騙せると思っているのか。おめでたい頭だね。
「あんたが即死無効と自己蘇生、自己再生のスキルを持っていることは分かってるんですよ」
言いながら、僕は再び銃の引き金を引いた。ダークの股間に散弾を叩き込む。その痛みは凄まじいものだろうけど、容赦はしない。こいつは容赦をして良い相手ではないからだ。
「っぐおおおおぉぉっ! この、クソみたいな弟がああああぁぁぁぁ! よくも、よくもやりやがったなあああああ!」
「あんたが、いつまでも馬鹿みたいに寝てるからでしょう。さっさと、再生してかかって来い。あんたの魔力がつきて、再生も蘇生もできなくなるまで、あんたを殺し続けてやりますよ」
ま、再生しろと言ったけど、ダークの体が完全に再生するまで待ってやる義理もない。こっちは攻撃を続けるから、立ち上がれるものなら、立ち上がってかかって来い。
「ゴミカスがぁ! やってやるぞぉ!」
「やれるものなら!」
引き金を引き、さらなる散弾をダークにぶち当てた。ダークの足が千切れるが、あっという間に再生してくる。驚異的な再生速度だね。もう、頭や股間も治っているみたいじゃないか。
「本当に……厄介ですね! あんたは!」
「その生意気な口を、いますぐ、使えなくしてやる!」
ダークの武器が黒いオーラを纏う。エンチャントオーラのスキルか。魔力を消費する代わりに、武器の威力や速度を強化する能力。たぶんまともに攻撃を受けたら即死……ジャムの装甲なら一発くらいは耐えられるかどうか、そんなところか。僕をいたぶる気はもうないんだろうね。すぐにでも、僕を殺したいんだろう。かなり頭にきてると見える。
「ジャム、拳銃モード」
『了解!』
「それと、回避は任せる」
『任せとけし!』
銃の形が変化し、二丁拳銃に変わる。このまま、散弾銃で近接戦をすれば、きっとミーミーを巻き込んでしまうだろうからね。こっちのモードの方が良い。いくぞいくぞ! びびれば負けだ!
僕とダークが、ほぼ同時に次の行動に移った。ダークが接近してきて、僕がカウンターを決めるように、銃弾を叩き込む。ダークは血飛沫を飛ばしながらも、瞬時に撃たれた部位を回復させて、僕にフレイルの一撃を叩き込もうとする。恐ろしい一撃だけど、昔の人は言っていた。当たらなければ大丈夫と!
「当たりませんよ!」
「ちぃ! 小癪な奴!」
僕個人では、ダークの攻撃を回避することなんてできない。一撃でお陀仏だろうね。でも、僕は今、ジャムの装甲を纏うようにして、彼女と合体している。彼女に体のコントロールを任せれば、なんとかダークの攻撃も回避できている! ジャム、僕は君を信じているからね。その代わり、射撃は任せてくれ!
僕はとにかく、ダークへ弾丸を当てることに集中する。的を狙って引き金を引くのは僕の分担なんだ。全力で攻撃を回避してくれる彼女のために、僕は僕の役割を全力で遂行する。
「ミーミー!」
「うぉん!」
僕の動きに合わせてミーミーも動いてくれる。ミーミーの爪や牙がダークを襲う。フェンリルとスライムクイーンの力を借りて、僕はなんとかダークと戦えている。同時攻撃をしかけているというのに、自己再生のスキルに任せて、襲ってくるダークには参るね。だけど、着実にダメージを与えている。このままいけば、勝てる。勝てるさ!
その後も、僕はダークの攻撃を回避しながら銃弾を叩き込む。ミーミーの援護もあって、ダークは追い込まれていっている。どんな気分だ? 舐めてた相手に翻弄されるのは!
「ぐうあぅ! どうしてだ! どうして攻撃が当たらない!?」
「当たったら死にますからね! 当たりませんよ」
「畜生がぁ。なら、こいつでどうだぁ!」
ダークの体から円を描くように周囲へ黒い波動が放たれる。まずいっ! あれは暗黒波動のスキル。ダメージは無いが降れたものをスタンさせる。そう何度もは使えないはず。が、かわせない!? ここで、ダークは奥の手を切ってきやがった。僕もミーミーもジャムもスタン状態になってしてしまう。
体が、痺れる。自由が効かない。なんとか目と口は動きそうだけど、それだけだ。回復までは時間がかかる。膝をつく僕を、ダークが勝ち誇った顔で見下ろしている。ああ、ムカつく顔だ。
「勝負あったな」
「どうでしょうか?」
「こんな時でも強がりか。まあいい、今、殺してやる」
「馬鹿ですね。あんたは?」
「あ?」
「敵を前に舌なめずり。三流のすることですよ」
「貴様あっ!」
ダークが激昂するのと、奴が側面からの攻撃に吹っ飛ばされるのは同時のことだった。あんたに奥の手があったように、こっちにも奥の手はあったんだよ……体の自由が効いてきた。首を動かすと、そこにはナーの姿。彼女には、ここぞという時まで草原に隠れてもらっていたんだ! ナイス!
「ナーさん、良い攻撃! タイミングバッチリ」
「新スキルを実践で使うのは始めてでしたけど、なんとか当たりましたね」
以前、彼女がレベルアップした時に僕は気弾のスキルを進めたんだよね。文字通り、気の弾を飛ばすスキル。武闘家のジョブを持つ彼女が唯一覚えられる遠距離攻撃スキル。今回はそのスキルに助けられたと言うわけだ。
「ああ、ブラッド家の人間に手を出してしまいました。私、屋敷からお給金を貰えなくなっちゃいます!」
「これからは、お給金はこの村から貰うと良いよ」
「はい! お願いします!」
これから、そう。僕たちにはこれからがあるのだ。決して、今地面にのたうち回っているあの男、ダークに奪わせてなるものか。
ダークにはすでに何発もの銃弾を食らわせている。仕込みは上々。僕は勝ちを確信したよ。立ち上がり、二丁拳銃を構え直す。
「さあ、そろそろ終わりにしよう!」
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