第29話 ダーク・ブラッド襲来。戦闘開始

 夕方、風はより強くなってきた。遠くに沈む夕日は見えず、赤い空を雲が覆っている。僕はアトリエから窓の外を眺めていて、何か、嫌な予感があった。


 こういう予感は結構当たるんだよなあ。どうも、面倒なことが起こりそうだね。


 その時、けたたましく金属を叩く音が聞こえてきた。音は物見やぐらの方向から聞こえている。敵襲ってわけだ。そうか、いよいよダーク・ブラッドがやって来たのだな。


「ジャム、一緒に外へ出られるかい?」

『あーしの出番ってわけ? 任しとけー!』

「助かる。シロは、屋内に隠れていて」

『り、了解っす……』


 ジャムはやる気満々! シロは……不安そうだね。僕は、ちょっと怖い。戦いとなるとどうしてもね。だけど、やるっきゃない!


「ジャム、行こう!」

『ういういー!』


 ジャムの姿が溶けて、僕の体にまとわりついた。どろどろの粘液は装甲のように固まり、戦闘準備は完了だ。


 アトリエの外に出た。物見やぐらからの音は今も響いている。さて、敵はどこだ? どこからでも、こ……来い! 迎撃してやる!


 僕が外に出て、すぐに宿やテントからも、ジンやコボルトたちが外に出て来た。ミーミーが空を眺めている。空……なるほど、空か! 僕は視界を上に向けた。フェンリル村の上空には、弧を描くように飛ぶ大鷹の群れの姿があった。強い風にも負けずに飛ぶ姿は力強い。うー、圧を感じるなあ。


 おそらく、大鷹には人が乗っている。この世界、大鷹に乗って戦う騎士たちが存在するからね。鷹の騎士団はかっこいいけど、今は敵だ。大鷹の騎士団と言えばエルダーファンタジーではブラッド家が持つ戦力。つまり、ダーク・ブラッドが指揮する騎士団だ。


 一羽だけ黒い大鷹が居て、目立っている。そいつだけ、他より少し高度が低いのかな。そんな感じに見える。きっと、あの黒い鷹には騎士団の長であるダークが乗っているはずだ。とりあえず、向こうの出方をうかがおう。


 大鷲に注目していると声が聞こえてくる。空からだ。威圧的な声が、僕たちに届く。「俺の声を聞け!」と空から叫ぶ男には、不快な気持ちがわいてくるよ。あれはダークの声だ。


「聞け! 俺にはこの土地を管理する正統な権利がある! 俺はこの土地での活動を正統に認められている! 俺に賛同する貴族は……!」


 うーん。長い! いつまでも長ったらしい話を聞いてるつもりはないぞ。と、いうわけで。


「ジャム」

『うん、撃ち落としちゃお!』


 僕はライフルを構えた。ジャムが変身した特別なライフル。こいつの攻撃なら、上空の敵にも届く。ダーク……空からぐちぐち、うるさいんだよ! 話したいことがあるなら、こっちに降りてこい!


 僕はライフルを構え、狙いを絞る。そして、引き金を引いた。直後、上空で一羽の大鷹が姿勢を崩す。そのまま地面へ落ちていけ。


「う、うおおおおぉぉぉぉ!?」


 空から、大鷹が地上へ落ちる。ダークの情けない叫びも聞こえてきた。直後、物体が地面に叩きつけられるような音が響く。これでダークが死んでくれていれば楽なのだけど、あれでも奴は強キャラだ。これくらいじゃ死なないだろう。油断はしない。


「き、貴様らああああ! 許さん! いたぶって殺してやるぞおおおお!」


 ほら、どっかで叫んでますよ。怖いなあ。でもね、この場所を奪おうってんなら僕は容赦しないよ。ダーク。


 さあ、戦闘開始だ。

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