第28話 フェンリル村のアトリエ

 ベヒモスの討伐から一週間が経過した。数日前にダーク・ブラッドからの最期通告が来ている。これ以上フェンリル草原に留まるなら、実力行使で排除するとのこと。やれるものなら、やってみろ。


 とはいえ、まだダークはフェンリル村には現れない。その間に、こっちの戦力は強化された。ベヒモスの皮や骨を使って、盾や槍を製作。ジャムに頼んで物見やぐらも作ってもらい、ダークと争う準備は万全といったところ。楽な気持ちで待つ。


 村の宿の一角、毎日ケーモさんが清掃してくれて心地の良いスペース。 

 

 今日、僕は朝からシロを手伝っていた。最近、コボルトたちからテントを作って欲しいっていう要望が来ているんだよね。どうも宿に泊まるお客さんを見たり、テントを皆に使ってもらっているうちに、皆が自分用の居住空間を欲しがるようになった。どうもコボルトたちは小屋よりもテントを欲しがっているようで、少しずつ暮らしが文化的になっているね。それは良いことなのかもしれない。


なんてことを考えているうちに、布を一枚縫い終わった。布と骨組みを合わせてテントを作るよ。皆で使ってる大型テントよりは、ちょっと小さくなる。個人用だからね。でも、こういうテントも可愛くて僕は好きだなあ。


「シロ、これ縫い終わったよ」

『あ、お疲れさまっす……とりあえず……ジョーさんに頼む仕事は、ここまでっすね……あたしも少し休むっす……』

「了解、また必要があったら僕を呼んで」

『お疲れっす……』


 立ち上がろうかなっと思ったところで首筋に、ひんやりとした感覚!? ひあっ!? な、なんだ!?


『にししっ! びっくりしたっしょ? お疲れさま。ジョーちん』

「……なんだ。ジャムか」

『なんだとは、つれないにゃー』


 ジャムがこっちに来たということは、彼女の仕事が一息ついたのかな? お疲れさまジャム。それはそうと……うん。


「後ろから胸を当ててくるのは、やめてくれないかなあああああああぁぁぁぁ!?」

『あ、照れてるー。面白! うーけるー』


 面白がるんじゃないよっ!? おっぱい直当てとか刺激が強すぎるんじゃ! ぬううううぅぅぅぅ!


「とにかく! はーなーれーろー!」

『おっけ! 男の子をからかうのは、これくらいにしとこっか!』

「ううー!」


 なんか今日はジャムの良いように、からかわれてる。このままじゃいけない。こっちのペースを掴まないと。


「ジャム、そっちの作業は終わったのかい?」

『ばっちり! できてるよー。成果物、見に来る?』

「見せてもらおうかな」

『うん。ジョーちんも、シロっちも見に来ると良いよー』

『あ、あたしもっすか!?』

「それは良い考えなんじゃないかな。シロも一緒に行こう」

『ま、まあ……ジョーさんが、そういうなら……』


 そんなわけでシロと一緒にジャムが作っていた物を見に行く。片付けをしてからカウンターのケーモさんに一言「ありがとう」と伝えておく。宿の一角を借りてたからね。今日は外の風が強いから屋内で作業できて助かったよ。感謝感謝。


 宿の外に出ると強い風が吹き抜けた。涼しいを通り抜けて、ちょっと寒いくらいだ。あと、僕のポニーテールが風のせいで、ばさばさしている。髪が、髪が凄いことになってる!?


 ……少しして風が治まった。うーん、嵐が近いのかな? なんて思ったり、嵐ってあんまり好きじゃないんだよね。


 辺りを見て、すぐに気づいた。宿の側に、新たな小屋ができている。小さくとも立派な作りの小屋だ。嵐が来たって、へっちゃらそう。ジャムの匠の業が光ってるね。流石だ。


『へへーん! どうよ! あーしの力作! フェンリル村のアトリエだよー』

『……作業小屋っすよね……?』

『アートーリーエー! これはアトリエなのー』


 シロに作業小屋と言われて、ジャムは頬を膨らませている。可愛いけど、ただ見ているのは良くないな。ここは助け船を出すとしよう。

 

「そうだね。素敵なアトリエだ」

『流石ジョーちん。分かってるねぇ』

「建物の中も見たいな」

『うんうん。見てけ見てけー』


 ジャムたちと一緒にアトリエの中へ。入ってみると、ほほー。そこは扉と窓だけのシンプルな空間。部屋は、ほぼ木製で、落ち着いて作業ができそう。まだ何も置かれてはいないけど、ここに物が増えていくのを想像すると、なんだか楽しい気分になるね。


「良いねえ。良い部屋だ」

『でしょー! あーしの力作だかんね!』

『うん……ここでなら、作業が、はかどりそうっす』

『ジョーちんもシロっちも満足してくれたみたいで、あーしも頑張った甲斐があるってもんよ!』


 ジャムはむふーって感じの顔をして、誇らしげだ。頑張ったんだなあ。僕も頑張らないと。


『ジョーちん、最近さ。あーし、毎日が楽しいんだよね』

「そうなんだ?」

『そうだよー。皆のために物を作るのが、あーしは好きみたい。そういうことに気づけたのは、ここに来たおかげかなって。だから、ありがとね。ジョーちん、それにシロっちも』

『あたし、ついでなんすか? いや……ありがとうっす』

「僕も、ありがとう」


 ジャムも、ここでの生活を楽しんでくれているんだね。それは、とても嬉しい。だからこそ、ここは絶対に守りたい。


 僕は自分に活を入れた。

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