第27話 この場所を守るためなら

 疲れたあ。まじで疲れた! でも、気持ちの良い疲れだ!


 今日はベヒモスを討伐した。ギルドの人たちに解体と運搬を手伝ってもらえて、本当に助かったよ。お礼にベヒモスの皮や肉の一部を持っていってもらったけど、喜んでもらえたかな。喜んでもらえたら、嬉しいな。


 そんなわけで、僕たちは今、フェンリル村に戻ってきている。今夜はパーティ! 焚き火を囲んで、ベヒモスの肉でバーベキューだ! 商人ギルドから差し入れてもらったお酒を飲めないのは残念だけど、コボルトたちが楽しんでくれているので良しとする。


 横に座るミーミーの毛並みを撫でながら、僕は焚き火をのんびり眺めていた。さっきお肉は食べたので、お腹はいっぱい。満足ぞよ。


「ジョー。楽しんでるか?」


 声がして、僕の横にジンが座った。その顔は楽しそうで、そんな彼を見ると嬉しい気分になるね。


「僕は楽しんでるよ。皆も楽しんでるみたいだね。兄さんも」

「分かるか。ああ、俺は楽しんでる。ベヒモスを倒した興奮が、まだ残っているのかもしれないな」


 そう言って彼は微笑む。炎に照らされた顔は、良い表情をしている。彼の顔が整っているから、だけではなく、彼が今この時間を楽しんでいるからこそ、こんなに見ていて気持ちの良い顔ができるんだろうね。生き生きしてるって表現がしっくりくると思う。


「兄さん、僕は……この場所と、ここに居る皆が好きです」

「そうだろうな。俺もここに居ると楽しい。なんというか充実感があるんだ」

「分かります。僕も日々、充実した気持ちで過ごしてます」


 ジンは頷いて、少しの間、黙っていた。何を考えているの? 気になっていると、彼は再び口を開く。


「この場所を……兄上に渡したくはないよな」

「ダーク兄さんに渡したくはないです」

「ああ、ここは俺たちの居場所だ。俺や、お前や、ここに居る皆の居場所だ」


 ジンはまた静かになった。何かを考えているのか……いや、違うな。何かを言うべきか迷っている。そんな感じだ。彼が迷っているなら、助けになってやるのが弟としての勤めだろう。僕が転生者だとしても、ジンは大切な家族なのだ。


「なんでも言ってください。僕は兄さんの弟なんですから」

「弟……そうか……そうだな」

「はい、なんでも聞かせてください」

「分かった……それじゃあ聞いてくれ」


 ジンが真面目な表情になった。これは、僕も話をしっかりと聞かねば失礼というもの。


「兄上についてだ。俺たちはあの人の脅しをつっぱねた。その後も兄上とは手紙のやり取りを続けていたが、説得は難しい。そろそろ兄上も我慢の限界だろう。きっと今度は実力行使でこの場所を奪いに来る。彼は今、略奪のために戦力を整えて、回りから略奪行為を非難されないように根回しをしているんじゃないかな?」

「なるほど」

「お前にはまだ言ってなかったが、俺たち兄弟こそが、この土地を管理するのにふさわしいと、支持をしてもらえるよう各地の貴族に手紙を送っている」

「ああ、そういえば最近、前以上に色々手紙を持たされてましたけど、中身までは聞いてませんでしたね。そういう内容の手紙だったんだ」


 ジンが裏でそんなことをしていたとは。流石だな。僕はそういう根回しは全く考えてなかった。


「貴族との、かつての付き合いも、こういう形で役に立つ。とはいえ、兄上の側についている者たちも居るだろう。それでも、俺たちが衝突した後に味方をしてくれる奴らは居た方が良い」

「味方……」

「そうだ。味方は多いに越したことはない。戦いってのは殴り合うだけが全てじゃないからな」


 なるほどなあ。僕はどうも、そういうことを考えるのは得意じゃない。政治的な話はジン兄さんを頼りにしよう。


「兄さん、僕には政治が分かりません。その代わり……魔物の皆と話をすることはできます。僕自身に力があるわけではありませんが、ここの皆をつなぐことができるのは僕なんだと思ってます」

「ああ、そうだな。良い自信だ」

「皆の力があれば、きっとダーク兄さんたちの暴力に対抗できます。その後の事はジン兄さんに任せても構いませんか?」

「ああ、任せとけ」


 ジンは僕を見る。その表情には気遣うような感情が見てとれた。お、どうした、どうした? らしくない心配事か?


「……ジョー。きっと、兄上とは殺し合いになる。今さらの確認になってしまったが……お前にその覚悟はあるか?」

「ありますよ」


 すぐに答えたからか、ジンは驚いたような表情をしていた。そんなに驚くことかな?


「ジン兄さん、僕だって馬鹿じゃないんです。政治が分からずとも、ダーク兄さんが僕たちの村に来たら殺し合いになることくらいは予想できます。覚悟だって、できてますよ」

「そうか……覚悟ができてるなら、それで良い」


 ジンは空を見上げた。僕も同じように空を見上げると、そこには無数の星が輝いていた。綺麗だね。素敵な空だ。


「さっきも言いましたけど、僕はこの場所と、ここに居る皆が好きです。だから、この場所を守るためなら、なんでもしますよ」

「そうだな。俺もここは好きだから、ぎりぎりの時まで兄上の説得を頑張るつもりだ。でも、それでも駄目だった時は……」


 続きの言葉が来るまで、間があった。彼には葛藤があるのだろう。僕は覚悟完了してる。あんたは、どうなんだ? ジン。


「……それでも駄目だった時は、一緒に兄上を殺してくれ」


 よく言った! その言葉が聞きたかった!


「ええ、一緒にやりましょう。兄さん」

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