第26話 陽動、伏兵、とどめの一撃!

 ミーミーに乗って疾走する。ベヒモスに接敵するまでもう少し。六メートル級の相手はでかすぎて圧が凄い。めっちゃ怖い……!


 ベヒモスがこちらに気づいた。巨体のわりに想像以上の早さで体をこちらに向けてくる。長い鼻を高くかかげて咆哮した。やる気満々だな。お手柔らかに頼むよ……まじで。


 距離を詰めながらベヒモスの巨体を見上げると、うおぉ……でけえ……やっぱり、でけえ。でも僕たちは負けないよ。


「ジャム! 行くよ!」

『あいあいさ! 任せとけし!』


 あらかじめ、ジャムには分裂してもらっている。その分裂は僕が知る、あるものに変形してもらっているよ。さあ、ベヒモス。見て驚け! この世界には存在しない武器で驚かせてやる!


「ライフル弾をくらえ!」


 長い筒を構えて、引き金を引いた。火薬はない。だけれど、ジャムのパワーで弾丸を射出することは可能だ。この世界で唯一のライフル弾。その衝撃はベヒモスの気を引くには充分な威力を持つ。はははっ! 世界で自分だけの専用武器を使うのは気持ち良いぜぇ!


 的は六メートルもある巨体だ。適当に撃っても当たる。銃の経験は、アーケードゲームのガンコンを握った経験しかないけど、エイム力には自身あり! ほら! 命中!


 ベヒモスが再び咆哮! おおー! 怒ってる、怒ってる。こわいねえ! 全身におぞけが走るぞ!


「逃げろ逃げろ! ミーミー逃げろ!」


 ミーミーが「うぉん!」と鳴く。彼が全力疾走をしているのが分かる。僕を乗せていることなんて、問題無いみたい。後ろから地を響かせて追ってくるベヒモスは怖いけど、ミーミーに乗っていれば逃げきれる。そんな頼もしさがある! 僕はミーミーを信じるよ!


 僕はミーミーにしがみつく。ミーミーに振り下ろされれば、ベヒモスに踏み潰されて死ぬ。それは嫌だねえ。でも、きっと大丈夫。ミーミーが僕を振り下ろすことはない。大丈夫だ。ベヒモス、そのまま僕を追ってこい!


 逃げる、逃げる。ベヒモスは追ってくる。大丈夫、作戦通り。いけるいける! きっといける!


 草原の中に、ちらりとジンの姿が見えた。僕を乗せたミーミーがジンたち、伏兵の前を走り抜ける。いよいよだ。いよいよ伏兵の出番! 緊張があり、そして興奮する!


「今です!」


 僕は叫んだ。その叫びは、すぐ後ろを追ってくるベヒモスにかき消されたのかもしれない。それでも、伏兵のコボルトたちが動くのが分かった。僕の広報でベヒモスへの攻撃が始まる。頼もしい。まるで映画の騎兵隊登場シーンだ。勝負あったぞ、ベヒモス。僕の感じてるこれは、この安心感は、勝利の安心感だ!


「攻撃開始ぃ!」


 後方でジンが叫んでいる……と思う。僕はちらりと後方に目をやった。ベヒモスの両脇から、草むらに隠れていたジンやコボルトたちが飛び出し、投げ槍で攻撃している。あれはワイバーンの骨で作られた投げ槍! 絶対に痛いぞ! その痛みを想像すると体がぞわぞわしちゃう!


 ベヒモスが土煙をあげながら地面に膝をついた。攻撃はしっかり効いてる。まだ息はあるみたいだが、すでにボロボロ……致命傷だ! ならば、早々にとどめをさし、痛みと苦しみから解放してやるのが人の情ってやつだろう。僕はそう思うね。


「ジャム!」

『任せろし!』


 ライフル銃が変形し、投げ槍に変わる。今、僕はジャムの装甲をまとっている。ジャムの能力地が僕に加算された状態なのだ。彼女の筋力と技量が加わった今の僕なら動きを止めたベヒモスにとどめをさすことは可能! やってやる!


「ミーミー! 反転!」


 僕の言葉に応えるようにミーミーは「うぉん!」と鳴いた。ミーミーが向きを反転し、僕は投げ槍を構える。皆の力を借りてではあるけど、僕だって戦えるんだ。僕も、皆に応えるぞ! 瀕死のベヒモスに向かいながら、狙いを絞って、勇気を振り絞る。そして。


「くらえ! ベヒモス!」


 僕は投げ槍を放った。それは真っ直ぐに飛んでいき、ベヒモスの眉間に突き刺さる。ベヒモスの巨大な眼から光が失われていくのが分かった。とどめの一撃は、切なくも達成感がある。やった……僕たちはやったぞおおおおおおおおおおおぉぉぉぉ!!!!


「ミーミー! よくやった! ジャムも! お疲れ様!」

『えへへ! これくらい、ちょろいもんだって』


 ジャムが誇らしげに笑い、ミーミーは勝鬨を上げるように「うおぉーん!」と吠えた。僕たちの勝利だ! 僕も、誇らしい気持ちだ。それと、無事に終わって、ほっとしている。


 ジンたちと合流し、一人のコボルトに伝令を頼む。ここから、ちょっと離れたところにケーモさんやギルドの人たちが待機している。なにしろ、ベヒモスを解体して運ぶには結構な人手が必要だから、冒険者ギルドや商人ギルドの人たちに声をかけてたんだよね。彼ら、リスクはおいたくないってことで戦闘には参加してくれなかったけど……ともかく、彼らが働く場面がやってきて良かった。


 さ、これからも大変だ。六メートルの巨体を解体して運ばなきゃならないんだからね。今日一日は、その作業で潰れるだろう。正直面倒……だけど、やりがいはあるよ。


 それじゃあ張り切って、頑張ろう!

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