第25話 ベヒモス討伐作戦開始

 二日後、僕たちはフェンリル草原の北方へとやって来ていた。昨日は冒険者ギルドに行ってベヒモス討伐の依頼を受けてきたんだよね。ずっと依頼が放置されてるのは見てたから、この依頼をこなせば報酬はうまうまだぞ。なんとしても成功させたい。


 早速行動開始というわけで、ドキドキするね! 現在、草むらに隠れて遠くのベヒモスを観察中! ジンやコボルト、ミーミーやジャムも一緒だ。


 遠くはなれた位置にベヒモスの姿が見えてるけど……全身毛むくじゃらの姿はマンモスみたいだ。強そうで、パワーを感じるな。心の中の男の子が刺激される!


 僕たちとベヒモスとの距離は数百メートル単位で離れている。それでも大きく見えて、なんか距離感がバグっちゃいそうだ。六メートルって、めちゃくちゃでかいんだね。六メートル級の生物が動いているところを見ると圧倒される。マジやばくねって感じ、生物としてヤバすぎて語彙力失う。


「あれ、凄いですね。兄さん。めっちゃ強そう」

「おいおい、ベヒモスを倒そうって言い出したのはジョー、お前だろう。それとも、実物を見て怖じ気づいたか?」

「まさか」

「そうは言うがな。お前、手が震えているぞ」


 僕は自分の手を見て、震えているのに気づいた。おぅ……まじか……まじだな。体は巨大な魔物を怖がっている。うん、怖いね。落ち着いてるけど、怖いんだね、僕。


「今、お前が怖がっているのは当たり前の感情だ。要塞みたいな、でかさのものが、そのまま動いてるんだからな。怖くならないわけがない」

「確かに……当たり前、なんですね」


 怖いけど、ちょっと安心もしたり、僕が特別ベヒモスを恐れてるってわけじゃないんだ。ここに居る皆が、僕と同じものを感じているのかも。なら安心して皆を頼ろう。皆の気持ちに答えよう。ワンフォーオール、オールフォーワンってやつだ!


「怖いけど、皆一緒です。そうでしょう?」

「ああ、死ぬ時は皆一緒。俺たちは運命共同体だ」

「誰も死なないように、作戦を立てたんですよ」

「分かってる。お前を鼓舞してやろうと思ったんだよ」

「分かってます。それじゃあ、ぼちぼち始めますか。皆で一緒にね」

「そうしよう」


 偵察タイムは終わり。ここからは作戦開始だ。怖いし、緊張するけど、成功はイメージできる。想像するのは完璧な自分。やれるさ。やってやる!


「ジャム、そろそろ始めるよ」

『んにゃー。おけまる。合体いくよー』


 ジャムが溶けて僕の体にまとわりつく。ひんやりして気持ち良い! 粘液が固まり装甲へと変化していく。勇気が湧いてくるぞ! 今の僕は自分史上の最強形態……気持ちだけはね!


 ジャムと合体するだけでは終わらないよ。ミーミーの背に乗り、気分は騎兵。やるぞやるぞ! 僕はやるぞ! 怖さを勇気で塗りつぶす!


 さて、僕自身への鼓舞は充分だろうね。恐怖はあるけど体は動く。そのことを確認して、皆を見る。


 皆、なんとか怖い気持ちを飲み込んでいる。僕にはそういう風に見えるな。何か、皆を鼓舞してあげられると良いんだけど。どうしよっかね?


「……皆、まずは僕たちがベヒモスを引き付けて誘導します。必ず成功させますから、皆さんは、皆さんの役割をこなしてください。必ずできます。必ず勝てます。僕たちには勝てる手札がそろってます」

『『『おう』』』


 皆静かに決意を固めたように思える。うん、やろう。皆でやろう。皆で挑めば怖くないさ……ごめん。やっぱ怖いわ。でもやるぞ。


「それじゃあ、行ってきます。兄さん」

「お前のことは信頼しているが、くれぐれも気を付けろよ」

「はい、気を付けます。それと、コボルトの皆さんも事前に説明した場所に待機していてください。皆さんがベヒモス退治の切り札です」


 クロや他にも何人かのコボルトから『任せとけ』と返事が返ってくる。皆、頼りにしてるよ。


「兄さん、後で会いましょうね」

「ああ、だが……お前は今やるべきことに集中しろ」

「あいあい、では」


 僕たちは動き出す。遠くのベヒモスに気づかれないように、草むらに隠れながら、慎重に移動だ。ばれるなよ。ばれるなよー。


 それにしても、ベヒモスはでかい。生物の皮を被った建築物みたいだ。怖いなあ怖いなあ……なんて思いつつ、ゲームのボスキャラ戦みたいで、興奮する。アドレナリンとか変な脳内物質が出てそう。出てるんじゃねーの。


 恐怖と興奮で感情が高ぶっている。やるっきゃない。皆が無事に戦いを終えられるように、僕の役割は重要だ。危険性は高い。でも、ミーミーとジャムがついてる。きっと、やれる。


 移動し、僕の待機地点に到着。念話水晶を使って、ジンに連絡をする。向こうはちゃんと待機場所に着けてるかな? 信頼はしてるけど、不足の事態というものは起こりえるからね。全く不安が無いわけではないよ。


「……兄さん、位置に着いた」

「こちらも位置に着いた。準備完了だ」

「了解、次の行動に移りましょう」

「ああ、だけどその前に言っておくぞ」


 ん? なんだろうか?


「……頑張れよ」


 なるほど、それは嬉しい言葉だ。良いね。凄く良い。頑張ろうって気持ちになる。


「ええ、頑張ります」


 そうしてミーミーに乗った僕は草むらから飛び出した。ベヒモス、勝負だ! かかってこい!

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