第24話 進む計画と新たな作戦
ケーモさんに村を一通り案内した。それほど広い村ではないので、というか狭い村なので、あまり時間はかからなかった。もうちょっと村を大きくしたいなあ……なんて思ったりして。
今、僕たちは村の宿でお茶にしている。実はこの前エレナさんに茶葉を少し分けてもらったんだよね。良い香りで、飲むと心がほっとするよ。
「……とまあ、村の紹介はこんなものなんですけど、気になることはありますか?」
ケーモさんは考えるように瞳を動かす。彼女の瞳はルビーのような赤色で、とても綺麗。赤い瞳って良いよねー。アニメとかゲームで赤い瞳のキャラって僕の推しが多いんだよね。
「気になること……そうですね。やはり宿の仕事でしょうか。私がやる仕事について、もう少し詳しく知りたいですー」
「なるほど」
真面目だね。好感が持てる。もちろん、僕は彼女に宿での仕事を説明するべきだ。
「宿での仕事はチェックインとチェックアウト、それからベッドメイクを含めた清掃をお願いしたいです」
「食事の提供はしていないのでしょうか?」
「食事の提供は考えていません。今はね。とりあえず、寝床として、この場所を冒険者さんたちに提供したい。ここ一週間、試験的に宿を開いてたんですけど、泊まっていった人たちからの評判は上々ですよ」
ふかふかのベッドで休めるようになった、というだけでもフェンリル草原だと、ありがたいんだってさ。そういう反応をもらえて満足していたけど、食事の提供をすればもっとお客さんに喜んでもらえるのかな?
「食事の提供という案は考えておきます」
「ぜひ、食事のある宿、良いと思いますー」
「ただ、食事のサービスを増やすと、ケーモさんの仕事は増えるんですけど、そこは大丈夫ですか?」
「そこはぜひ、お給金を考えてくださると嬉しいのですが。どうでしょうかー」
「なるほど、まあ。今は部屋の貸し出しと清掃を頼みますね」
「分かりました。任せてくださいー」
宿での仕事については、こんなものかな。ケーモさんは、しっかりしている。良いね。とても良いよ。ケーモさん。
「他に質問はありますか?」
「じゃ、じゃあー。最後にもうひとつよろしいですか?」
「もちろん、僕に答えられることなら、なんでも答えますよ」
どんな質問でもどんと来い。ある程度のことには答えられる自信あり!
「では……質問させてもらいますー。私、コボルトさんたちやミーミーちゃん見ると、めっちゃもふりたく、なっちゃうんですけどー」
「めっちゃもふりたくなっちゃいますか」
「はい、あんまり、もふりすぎるのは良くないですよね。やっぱりー」
「そうですね。そこは節度を守って、吸ったり、もふったりしてもらえれば」
「す、すすすすすすす吸って良いんですかー!?」
うお、めっちゃ食いつくじゃん。ちょと怖いですぜ。
「僕も、たまにミーミーたちをもふったり、吸ったりしてますから……とはいえ相手が嫌がるのにやるのは、もちろん駄目ですからね!」
「そ、それはもちろんですー。しかし、ミーミーちゃんを吸えるの? こ、ここは天国でせうか!?」
「ミーミーさえ良ければ、ですけどね」
まあ、ミーミーが嫌がる姿はあまり想像できないんだけどね。ミーミーはほんと優しい子。もしくは器がでかいと表現するべきかな? 好き好き大好き。
「天国……は言い過ぎですけど、ここが皆にとって居心地の良い場所になってくれれば、と思っています」
「ジョーさんの思い。伝わりました! このケーモ、精一杯頑張らせてもらいますよー」
「期待してます」
それから数日、ケーモさんは物覚えが早くて優秀っぽい。少なくとも、宿の仕事については、もう教えることはなくなってしまった。彼女の頼もしさには舌を巻くね。
ケーモさんはすぐ村の皆と馴染んだ。良き良き、皆が仲良くやれてるのは良いことだよ。僕も安心して、他のことを、おこなえる。
ちなみに商人ギルドの方で試しに遊んでもらっていたリバーシは好評だ。ギルドに権利を買い取ってもらうことになり、売り上げの一割もこちらに入ることになったよ! 一割というと少なくも聞こえるかもしれないけど、売り上げの十パーセントだからね。充分すぎる。僕が一人で頑張ってリバーシを作って売るよりも、お金が入ってくる。懐がほくほくで充実感があるね。
資金面は安定してきた。そんなところにダーク兄さんからの手紙が届く。その内容は想像通りで、僕たちへの資金提供を打ち切るというもの。なんとか、こっちの収入を得る手段が間に合ったね。間に合ったので、資金提供を打ち切りされたって大丈夫なのだ。平気、へっちゃら。
今、僕はテントでジンと一緒に居る。周りには夕食中のコボルトたち。ミーミーもテントの隅で丸くなっている。穏やかな時間が心地良い。こういう時間がいつまでも続いてほしいなーなんて思ったりして。
「兄上から資金提供は打ち切られてしまったが、事は順調に進んでいるようだな。ジョー」
「ええ、順調すぎて怖いくらいです」
「よく言う。お前のここ最近の働きは俺も驚くほどだが、きっとお前の才能が開花した。ということだろう」
「……そういうこと、にしておきましょうか」
「さて、ジョー。お前は次に何を考えてる。何か計画していることがあるんじゃないか?」
やりたいこと……あるよ。確かにある。僕からジンに、次の計画を発表するよ!
「兄さん。そろそろ、僕たちの装備を新調するころではないかと思います」
「装備の新調か。宛はあるのか?」
「少なくとも、素材は決めてあります」
「どんな素材だ?」
フェンリル草原でも北方に存在する巨大生物が次のターゲットだ。最強の草食獣、その素材を狙う。
「ベヒモスです。ベヒモスを狩ります」
ジンが目を丸くした。コボルトたちも驚いた顔で僕を見ている。あんまり、そういう目を向けるなって。照れるじゃないか。
「ジョー、お前正気か? 相手は象種の王、ベヒモスだぞ? その突進はあらゆるものを粉砕する。六メートル級の怪物だぞ!? 正気か!?」
「正気ですよ兄さん。正気で言っているんです。それに北方へ交易路を伸ばそうとするなら、いずれは倒さなければならない相手です」
「お前……北方にも交易路を伸ばすつもりだったのか。いや、それより……もちろん、倒せる算段があって、そんなことを言っているんだよなあ!?」
「はい、倒す算段があります。誰の被害も出さずに」
自信はある。百パーセント勝てる。相手が巨大な象の魔物だったとしても、負ける気はしないんだ。
「……聞かせてくれ。お前の作戦を。聞いた上でベヒモス狩りを検討する」
「ありがとうございます。では、僕の作戦を、お話しします」
それから、僕は対ベヒモスの作戦をジンに伝える。周りのコボルトたちにも聞こえるように、大きく、しっかりした声で。きっと、僕の作戦を聞けば、ジンたちも納得するはず。後は彼らに作戦を実行する勇気があるかどうかだ。
「……作戦は以上です」
「なるほどな……確かに、その方法なら勝てるだろう。誰の被害も出さずにな……だが、正気か?」
「正気ですよ。兄さん、僕たちに勝利条件はそろっているんです。あとはそれを実行する勇気があるかどうかですよ」
ジン兄さんは口元に手を当てて考えている。コボルトたちもお互いの顔を見合わせている。皆、迷っているようだけど、僕には確信がある。彼らは勇敢だ。だからこそ、この話には乗ってくる!
やがて、ジンは自分を納得させるように頷いた。
「良いだろう。お前の作戦、俺は乗ったぞ!」
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