第23話 女の子とわしゃわしゃタイム

 一週間が経過した。この間、僕はナーの畑仕事を手伝ったり、シロたちが作った家具の設置を手伝ったり、たまに角ウサギ狩りに行ったりして、そんな感じに過ごしていた。今は商人ギルドの動きを待ちながら、のんびりタイムだ。楽に行こう。


 この一週間の内に時々、冒険者がフェンリル村を訪ねてくるようになった。どうも、商人ギルドの方でエレナさんが宣伝をしてくれているらしい。宣伝のことは僕の頭からは抜けてしまっていたので、非常に助かる。と、同時にエレナさんは本当にいい人だなって思う。普通、宣伝なんて勝手にやってはくれない。今度、商人ギルドへ行く時は何かおみやげを持参しようか。何が良いだろうか?


 そんなことを考えていたのは、外でコボルトたちと一緒にサンドイッチを食べていた時だ。美味いなあと思いながら、これまでのこと、これからのことを考え中、草原の向こうから、何人かの集まりが、こちらへやって来ていることが分かった。冒険者だろうか。それとも……まあ、お客さんが来るのは喜ばしいことだ。


 僕たちが昼食を終えるころには、遠くに見えていた人々はフェンリル村に到着した。一人の女の子と、ベテランっぽい雰囲気の冒険者さんたち。話を聞くと、どうやら、今回やって来た女の子は、村の宿へ働きに来たとのこと。それは嬉しい! 歓迎しなきゃ!


「……というわけで、フェンリル村で働かせてもらうことになりました。ケーモといいますー。よろしくですー」

「どうもケーモさん。あなたが来てくれて嬉しい。歓迎しますよ」

「はいー。よろしくお願いしますー」


 挨拶を交わしながら、ケーモさんがうずうずしていることに気づいた。彼女の視線を追うと、そこにはクロの姿があった。いや、違うな。彼女の視線は時々動いている。その先には、やっぱりコボルト。ははーん、なるほど。良いよね、コボルトもふもふで可愛いもんね。


「あ、あの、ジョーさん!」


 ケーモさんは興奮を押さえている……ように見える。そんな彼女が緊張した様子で僕に言う。そんな様子が何やらほほえましいよ。


「なんでしょうか? なんでも言ってくださいね。ケーモさん」

「あ、その……こんな頼みをいきなりするのは、失礼かもしれないのですがー」


 ケーモさんは、もじもじしている。その視線の先にはやっぱりコボルト。やっぱりそうだね。そうなんだね。君も、もふもふが好きなんだね! 僕も!

 僕もそう!


「私……コボルトをもふらせて、ほしいなー! なんてー」


 ケーモさん。ぶっちゃけてきたね。そういうのは嫌いじゃないよ。ただ、彼女にもふられることを、コボルトたちが許してくれるだろうか。それだけは……ちょっと……大丈夫かな? って心配になっちゃうかも。


「えーと、クロ」

『え、俺か!? 大将!?』


 クロがビックリしていた。少し面白い。ウケる。と……そんなこと思うと彼に悪いか。ちょっと、彼に確認したいな。


「クロ、彼女にもふらせてやってくれないかい」

『大将、コボルトのボスがそう簡単に毛並みをもふらせると思うのか?』

「やっぱり無理かい……?」


 ケーモさんは悲しそうな顔をしている。僕も少し残念だなーって感じ。でも、クロが嫌なら無理にとは言えないなー。


『大将、そんな悲しそうな顔をするな……あー分かった、分かった。十秒だ。十秒なら、もふって良い』

「本当かい!?」

「本当ですかー!?」


 聞き返しながら、僕とケーモさんは既に走りだしている。むむっ! やるなケーモさん! 十秒! 十秒でクロをもふるよ!


『ま、待て!? 二人とも!? 俺はそっちの女の子にもふることを許可したのであって!?』


 僕がもふるところは許可してない? いいや駄目だ。もふるね! わしゃわしゃしゃしゃしや! わーしゃわしゃわしゃ! どうだ、気持ち良いだろう!


 十秒間でケーモさんと一緒にクロをもふり尽くした。気がついた時には、周りのコボルトたちが少し引いてたけど、悔いはないよ! ケーモさんも満面の笑みである。


『あ、あんたらなあ! コボルトをもふるにも少し遠慮と言うものを持て!』

「ご、ごめんなさい! ジョーさん、コボルトさんも!」

『謝る必要はないんだが……あんた。ケーモさんと言ったか。今更気づいたが、ジョーの大将みたいに俺たちの言葉が分かるんだな』

「はい、私。魔物会話のスキルを持ってます。コボルトさんたちの話、分かりますよー」


 商人ギルドで見せてもらった情報で知ってたけど、彼女は魔物と会話が可能だ。これで、色々と楽になってくれると良いな。今までは僕一人で翻訳を頑張ってたからね。よろしく頼むよ、ケーモさん。


「ケーモさん。これから期待してますよ」

「はい、期待に応えますよー」

「では、そろそろ村を案内……」


 そこへ走ってくるもふもふの姿があった。白くてふわふわの毛並み、いつ見ても素晴らしいね。


「紹介します。この子はミーミー」


 ミーミーは自己紹介するように「うぉん!」と鳴いた。そして彼はケーモさんに突撃! う、羨ましいいいいいいいいいいいい!!!!!!!!!!!


「わあああああわしゃわしゃわしゃしゃしゃわしゃわしゃー!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


 それからしばらく、ケーモさんはミーミーをもふり続けていた。僕も加わった。二人でミーミーの毛並みを撫でまくり、幸せに幸せが重なるスパイラル状態に軽く飛ぶかと思った。いやー、もふもふって本当に良いものですね!

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