第21話 進む商談

 商人ギルドへ行く日までの、数日間。僕はいくつものリバーシを作ることに集中した。どう作れば、もっと効率化ができるか考えるのは楽しかったけど、やはりシロたちのようにはいかない。作れたのは全部で十セットほどだ。まあ、僕が作ったにしては上々ではないだろうか。おおむね満足。


 そんなわけで約束の日となり、僕はナーとミーミーに同行してもらってウィードの町へ。今日も良い天気。道を行き交う人々の姿を見るだけで、気持ちが高ぶる。うきうきだ。


 商人ギルドに入り、受付へ。今日も受付嬢さんに応接室へと案内される。何度来ても品が良くて居心地の良い場所だね。


 応接室で待つこと数分……くらいだと思う。エレナさんが部屋にやってきて、挨拶を交わす。最初彼女に会った時はドキドキしたけど今では慣れたもの……とは言えないか。今日もちょっとドキドキした。けど、そんな緊張も彼女と世間話をしているうちに解けていく。僕の気持ちが楽になってきた辺りで、話の本題に入る。


「今日来たのは他でもありません。フェンリル草原の宿のことです」

「そうだったね。もちろん、こちらで適任の人材を見つけておいた」


 そう言ってエレナさんは数枚の書類を出す。それには数人の男女の簡単なプロフィールがまとめられていた。一人だけでなく、数人の候補を選び、さらにプロフィールもまとめてくれているとは、エレナさんの出来る女っぷりに感心させられる。


「ぜひ資料に目を通してほしい」

「拝見させていただきます」


 資料を見て、気になったことや、分からないことはエレナさんに教えてもらった。彼女は僕の質問に的確な答えをくれ、話していて頼もしい。やがて、僕は数人の候補から一人を選んだ。エレナさんは「なるほど」と頷いて言う。


「良い選択だね。君には人を見る目がありそうだ」

「そんな……」


 謙遜しようかと思って……やめる。エレナさんが褒めてくれているのだ。その言葉は素直に受け取っておくべきだと思った。褒めてもらって嬉しい気持ちは確かだしね。


「……ありがとうございます」

「うん、素直なのは良いことだ」


 僕が選んだ人物は後日、フェンリル草原の宿まで来てもらうことになった。草原は魔物が出ることもあり、来てもらうのは危ないのではないかと聞いたところ、冒険者ギルドから護衛をつけるそう。なら安心……かな?


 さて、今日の話はこれで終わり……にはならない。僕からギルドの受付嬢さんに、見てもらいたいものがあると伝えてある。受付で出すより、エレナさんに見てもらった方が良いのではないかと、提案してもらい。今から、それをエレナさんに見てもらう。自信はあるけど、少し緊張してきた。


「実は見ていただきたい物がありまして」

「うん、話は聞いているよ。ぜひ見せてほしいな」

「はい……こちらです」


 僕が鞄から取り出したのは最近作っていたボードゲーム、リバーシ。それを見てエレナさんは不思議そうな顔をした。まずはこのゲームがどんなものか大まかに伝える。彼女は理解が早く、すぐにこれがどういうゲームか把握したようだった。スムーズに話が進むのは良いこと。上手く伝えられて緊張も薄まる。重畳、重畳。


「……まずはこれを、お試しで人の集まる場所に置いてみてほしいんです」


 僕の言葉を聞いてエレナさんは「ふむ」と頷いた。彼女の表情には強い興味が見てとれる。ならばここはリバーシの売りを積極的にアピールだ。僕はこいつに自信を持っているからね。


「リバーシは誰でも覚えられる簡単なゲームです。そのうえ、一セットを作るのは、それほど難しくはない。まずは人の集まる場所に置いてもらって様子を見たいですが、これはきっと売れますよ!」 

「なるほど……このゲームには売れる可能性を感じるね。分かった。ギルドの待合室や他にも人の集まる場所に置いてみよう。一週間ほど様子を見れば良いかな。そうして、評判が良ければ買い取ろうか」

「ありがとうございます。ただ、僕が売りたいのはゲームだけではないんです」

「ほう?」


 僕たちがボードゲームを売り始めたとして、真似をする者はすぐに現れるだろう。それだけの魅力がリバーシにはある。正直、これはどうしようか迷ったが、このタイミングで売るべきと決めた。僕は、僕の直感を信じる。


「リバーシを作る権利を商人ギルドに売りたいのです。僕たちの生産力では、後追いの商人が出す類似品に数で勝てないでしょう。なので、僕たちは商人ギルドに、この商品の権利を売りたい」

「なるほどね。それは……良い考えかもしれない。売れると分かれば、なんだって売る。そんな商人も居るからね」

「もちろん、権利を売るという話は一週間、様子を見てからが良いでしょう。僕は売れると信じてますが、まずは人々の反応を確認したい」

「うん、そうするべきだと思うよ。しかし、面白いものを持ってきたね。権利の売買の話はまた君が、こちらに来たときにさせてもらおう。リバーシは君がここで見せてくれたもの以外にもあるのかな?」

「はい、九セットほど用意してます」


 そうして、僕たちの話はまとまった。草原の宿とボードゲーム。ひとまず、これで金策は大丈夫だろうか? まだ何かやった方が良い気もするが、何にでも手を伸ばして、全てが、おろそかになるのも良くないだろう。


 これからは、ひとまず様子見だ。

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