第20話 リバーシで遊ぼう
商人ギルドから人を紹介してもらえるまで数日はかかる。その間の時間にも、できることはやっておきたい。時は金なり……ってやつかな。違う?
というわけで、日の高いうちにフェンリル草原の拠点に戻ってきた僕たちは、ウィードの町でのことをジンに報告、その後は別行動。僕はかねてより、作ってみようと思っていたものの製作にとりかかることにした。
考えていたんだ。異世界に転生した人間が金策のために何をするべきか。冒険者ギルドで日銭を稼いでいたんじゃ、どうしても限界がある。ゲーム知識を活かそうにも、フェンリル草原の近くで、できることは限られる。そこで僕は先人の知恵……つまりは異世界転生小説の知恵を借りることにした。異世界もの僕好きなんだよね。
転生者が作るものといえばマヨネーズが定番だけど、エルダーファンタジーには料理システムがあってマヨネーズは作れるんだよね。この世界にもマヨネーズはもう存在するので、この案は使えない。食の文化が発展していることは喜ばしいことだけどね。ちょっと残念。
ポテトチップスを作る案もマヨネーズと同じ理由で使えない。となると、ここはあれだろう。娯楽の定番、リバーシだ。ちなみにこの世界、トランプ的なカードやサイコロといった感じのギャンブル的な娯楽は存在する。スロットは無いけど……流石に素人がスロットを設計するのは無理。でも作ったら間違いなく大儲けできそうで、作れないことが少し惜しい。
ダメ元でシロにスロットを作れないか聞いてみた。できる限り分かりやすく、シロにはスロットがどういうものかを説明してみたのだけど、彼女から真顔で『目の前で絵がぐるぐる回ってる何が面白いんすか?』と言われてしまった。違う、違うんだよ。そこが面白いわけではないんだ……けど……上手くスロットの面白さを説明できない。悔しい。
まあ……そんなわけで僕はリバーシを作ってみることにした。多分これなら僕でも作れるはず。小屋の一角を借りてリバーシの作成を始める。久しぶりの工作は、童心に帰ったようで楽しい! 僕って見た目は男の娘だけど、中身はお兄さんだからね。おじさんではない。うん、決して。
木材に線を引き、切り、削って、色を塗る。その工程に想像以上の時間がかかる。楽しいけど難しい。シロやジャムのように見事な仕事にはならない。それが悔しいけど、楽しい。
日も高いうちから始めた作業は日が沈んでからも続き、夕食を挟んで夜も遅くなってきた頃に、ようやく終わった。その間にシロとジャムは見事な家具を作っていたので彼女たちは凄いなあ、と改めて分からされることになった。
ともかく、リバーシ一号が完成! やった!
達成感を感じながら、自分の手で作ったリバーシを眺めていると、寄ってくる気配があった。そちらに顔を向けてみると、そこにはシロとジャムの姿があった。両者の視線はリバーシに向けられている。僕は頑張って作ったリバーシを二人に見せる。どうだ! なかなか上手く作れてるだろう!
「ボードゲームを作ってみたんだ! リバーシっていう名前だよ!」
『へえ! ゲームを作ったんだ! 凄くね!?』
『……ゲームっていうと、人間たちが、たまに遊んでるやつっすよね……ジョーさん、さっきもあたしに新しいゲームを作りたいって相談してたけど、そのリバーシ? ってやつは、どういうルールなんすか?』
『それ! あーしも気になってたし!』
二人とも、少なからずリバーシに興味を持っているみたいだ。それは嬉しい! 早速二人にリバーシのルールを説明する。
「リバーシってゲームはこの片面ずつ別の色の板を使って遊ぶんだけど……」
そうして説明していき、シロは時々頷きながら、ジャムは目を輝かせながら話を聞いてくれる。このゲームのルールが分かりやすいのもあって彼女たちはすぐにルールを覚えてくれた。彼女たちは覚えが良いから、ちゃんと説明すれば、ちゃんと分かってくれる。話しがいがあるというもの!
「じゃあ……早速遊んでみる?」
『良いね良いねー! あーし! あーしが最初に遊ぶ!』
『……なら、あたしは側でジャムたちのゲームを見学させてもらうっす……』
「良し! やろう! 先行はもらった!」
そうして僕たちは夜も遅い中、小屋でリバーシを楽しむ。ランタンの明かりを感じながら屋内で娯楽に興じていると、凄く文化的な生活をしている気がする。やはり、生活に娯楽は必要だ。
最初はジャム、それからシロと代わる代わる相手をし、彼女たちが完全にルールを把握したところで僕は見学に回る。リバーシで遊ぶ時間はとても楽しくて、気づけばだいぶ時間が経過していた。流石に眠くなってきたので、お休みにしたい。
「今日はここらで終わりにしよう。また時間のある時に遊ぼう」
『そだねー。あーしも眠いや。ふわぁ……』
『あたしは、まだ起きてられるっすけど……そうっすね……お開きにしましょう』
「うん、おやすみ。二人とも」
『おやすみー』
『……っす』
翌朝、起きるのが少し遅くなってしまった。とはいえ今日はコボルトたちもお休みだ。少し暗い寝過ごしても悪くはないだろう。なんた思いながら小屋の前を通りかかると、コボルトたちが集まっていた。なんだなんだ。気になるぞ?
近くに寄って見てみると、背の低いテーブルを挟んでクロとシロがリバーシの勝負をしているみたいだった。それを回りのコボルトたちが見物している。そうか、リバーシを小屋に置きっぱなしだったか。でも、皆が楽しんでくれているなら嬉しい。作った甲斐があるというものだ。
「おはよう」
『あ、ジョーさん。リバーシが置いてあったんで、勝手に遊ばせて、もらってるっす』
『おはよう、ジョーの大将。これはなかなか面白いぞ』
「それは良かった。ところで、そのテーブルはシロが作ったの?」
僕の問いにシロが頷く。へえ、昨日まで無かったはずなのに。凄いな。
『ちょっと時間があったんで……ぱぱっと、作っちゃった、す』
「そいつは凄い」
『大したこと無いっすよ……』
シロは謙遜してるけど、僕は大したことだと思う。だって僕は昨日リバーシを作るの凄く大変だったもの。楽しかったから良いけど。
それから、しばらく僕はコボルトたちの対戦を眺めさせてもらった。そして、確信する。こいつは、きっと売れるぞお。
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