第19話 書状と相談
しばらくの馬車旅を楽しみ、ウィードの町に到着した。道が少しぬかるんでいる様子だったので、道中、馬車の車輪が泥濘にはまらないか心配だった。無事に町まで来られたようで、なによりだね。
馬車から降り、町の中へ。今日も町は賑わっている。この町はいつ来ても楽しい気分にさせてくれる。だから僕はこの町を気に入っている。
「ナー、まずはフクロウ便の駅へ向かおう」
「はい、どこへでもお供します!」
ミーミーが「うぉん!」と鳴き、楽しそうに尻尾を振る。彼はどこへ行くのも楽しそうだ。僕もそうだよ。というわけで歩きながらフクロウ便の駅を探す。以前、見かけた記憶を頼りに進むことしばらく。無事に目的の場所を発見した。
「……ここがフクロウ便の駅だね」
「そのようです!」
駅の見た目は可愛い赤色の屋根がついていて、二階建て。入り口の上には、フクロウ便、と書かれた板が打ち付けてある。ちょうど、二階から白いフクロウが飛んでいくのが見えた。フクロウって可愛いよね。全体的に丸っこくて、それでいて猛禽類特有の格好良さもあわせ持っている。かっこ可愛くて、ずるい生き物だ。
駅の中に入る。人は少なく、一階にフクロウの姿は見えない。二階からフクロウの鳴き声が聞こえてきたりはしなくて、今はちょうど全てのフクロウが出払っているのか、それともフクロウたちが大人しいのか……分からないけど、ちょっと寂しい。
とりあえず受付へ。カウンターの奥には気の優しそうな、お婆さんの姿があった。
「あの、すいません。手紙を出してもらいたいのですが」
「はいはい。手紙ですね。いらっしゃい」
僕は鞄を開け、ジンから預かった手紙を取り出す。大切な手紙だ。それをお婆さんに見せて宛先を伝える。無事に届くと良いけど……ここはフクロウを信じよう。
「……大事な手紙です。頼みます」
「頼まれました。手紙はきちんと届けますからね」
「よろしくお願いします」
手紙とフクロウ便の利用料をお婆さんに渡した。お婆さんはそれらを受けとると、カウンターの奥へ引っ込んでしまった。ほどなくして彼女は戻ってくる。年のわりに健脚だ。その健康な体を僕も見習いたい。
「はいはい。今、担当の者に手紙を渡しましたからね。すぐにフクロウが飛び立ちますよ。入り口から出て、少し待っているとフクロウが見られますからね」
「なるほど」
さっきもフクロウがとんでいくところは見たけど、どうせならもう一回見ていこう。フクロウが飛んでいくところを見るのは一回や二回では飽きないからね。
「では」
「はいはい。また、ご贔屓に」
僕たちは建物の外に出る。そうして待っていると、ほどなくして二回の窓からフクロウが出てきた。お婆さんが言った通りだ。フクロウは翼を広げ、空へ上っていく。その姿には力強さが感じられ、あのフクロウならきっと手紙を届けてくれる。そんな安心感を与えてくれた。
フクロウが飛んでいくのを見送り、僕はナーに顔を向ける。彼女は僕を見下ろし微笑んだ。その笑顔を見ると心が穏やかになる気がした。
「ジョー様、あのフクロウなら、きっと大丈夫です!」
「僕もそう思う。それじゃ、次は商人ギルドへ向かおう!」
「はい!」
ここからなら商人ギルドは近い。少し歩くと次の目的地に到着した。つまり、商人ギルド。今日も、ここは賑わっている。僕はこういう賑やかな場所が、やっぱり好きだ。
「さ、大事な相談だ。気合いを入れていこう」
「はい!」
商人ギルドの受付へ向かい、受付譲さんに今回やって来た理由を簡単に伝える。宿屋を開きたいと思い、そこで仕事を任せられる人を探しているという話だ。マルコフさんから預かった紹介状を渡すことも忘れない。こういう話は緊張するが、まだ話は始まったばかりだ。
そんな話をすると受付嬢さんは「応接室へご案内します」と言って僕たちを、ある部屋に招待してくれた。豪華な家具が並ぶ部屋だが、成金趣味は感じない。なんというか品が良いって感じ。
一度受付嬢さんは部屋を出てすぐに戻ってきた。その間に、僕たちは席について待っていた。受付嬢さんが紅茶を入れてくれて、茶葉の良い香りが鼻腔をくすぐる。これ、たぶん良いものだな。紅茶は好きなので、ある程度の良し悪しは分かる……つもりだ。
「……少々お待ちください。今、担当の者を呼んできます」
「お願いします」
受付嬢さんが部屋を出ていく。少しして部屋に入ってきたのはスーツを着たナイスバディのお姉さんだった。いや……凄いな。出るところが出て引っ込むところが引っ込んでいる。完璧なプロポーションだ。
というか僕はこのお姉さんを知っているぞ。エルダーファンタジーでも結構人気のお姉さんキャラ。僕も好き。僕たちは起立して挨拶を交わす。
「初めまして。私はエレナ。このギルドの長をやっている。今日はよろしく頼むよ」
「ジョーです。よろしくお願いします」
挨拶を交わした後、お互い席について正面から見合う。初めて会う綺麗なお姉さん、それもギルド長となると対面しているだけで緊張してしまう。落ち着け僕、こういう時こそ心頭滅却してクールになるんだ。
雑念を頭から振り払おうとすればするほどエレナさんのナイスバディが気になってしまう。仕方ないよ! 僕は、男の娘である前に、男なんだもの! 彼女の胸や腰を意識するなって方が難しいですよ!? なんて考えていると彼女はフッと笑った。
「緊張しているね? まずは紅茶でも飲んで落ち着くと良い」
「はい、いただきます」
緊張をほぐすため、エレナさんに言われるがまま紅茶を一口。うん、ほっとする味だ。ちょっとは心を……落ち着けたかもしれない……かも?
「美味しいです」
「だろう? 良い茶葉を使っているんだよ」
エレナさんは嬉しそうな顔をする。それから彼女は軽い世間話を振ってくれた。話しているうちに、さっきまでの緊張は、ほどけていく。気持ちが楽になっていくのが分かった。彼女と話していると心がほぐされるのだ。不思議と。
「……さて、世間話もほどほどに、そろそろ本題に入ろうか」
「はい、よろしくお願いします」
「こちらこそ。さあ、君の口から用件を伝えてほしいな」
エレナさんに促され、僕は用件を伝える。受付譲さんに話したものより、もっと詳しく僕たちの現在の状況や求めている人材に伝ついて伝える。
僕が話をしている間、エレナさんは時々相槌を打ったりしながら真剣に話を聞いてくれているようだった。その態度が嬉しく感じられる。そのうち、僕の話が一区切りつく。
「……僕たちの用件は以上です」
「なるほど……良いでしょう。マルコフさんから紹介状を貰っているし。それに私は君たちの仕事に期待している。適任の人材を紹介しよう」
「……ありがとうございます!」
それから、また少しの時間、世間話を楽しんで、僕たちは応接室を後にした。話が無事に進んだようで安心。ほっとしている。
商人ギルドから人を紹介して貰うまで少し時間が必要とのこと。一週間後また商人ギルドへ来ることを約束して、僕たちは建物の外へ出た。
そこで、大きく息を吐く者が居た。ナーだ。彼女は心底安堵したような顔をしている。どうやら彼女も緊張していたらしい。お疲れ様、ナー。
「わ、私、ギルド長様を相手に粗相とかしてませんよね?」
少し不安そうにしているナーは可愛く見えるな。
「うん、お疲れ様。ナーもミーミーも立派だったよ」
「そ、そうですか。良かったー」
ナーは僕の言葉を聞いて、へにゃへにゃした顔になり、ミーミーは誇らしげに「うぉん!」と鳴く。うん、皆今日は頑張った。ミッションクリア! やったね!
「じゃ、一仕事終わったし、帰りに屋台の串焼きでも食べに行こう!」
「賛成です!」
では、行こう! もう、お腹がぺこぺこだよ。
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