第18話 雨が止む。新たな決意

 手紙はジンに宛てられたものだった。だから僕は彼に手紙を渡し、今はテントの中で彼が手紙を読み終わるのを待っている。外は雨が降っていて、耳に届くザアザアという音が、気分をそわそわさせる。


 今は雨が振っているためにコボルトたちの作業は中断。彼らはテントの中だったり、小屋の中に移動していて、ミーミーやナーも居る。そのため、少々手狭だ。だけど、不思議と悪い気はしない。皆が集まって居るのが、なんだか楽しい。


 そのうちジンが手紙を読み終わった。彼の表情を見れば、手紙の内容が録でもないことが想像できる。まったく、面倒はごめんだってのに。


「兄さん、手紙には何と? あまり良い内容では、ないように思えますが」

「ああ、まったく。良い内容ではないな。兄上が言うには、交易路の建設ご苦労様。お前たちは一度、ブラッド家に戻り、あとの仕事は兄に任せろ、と言っている」

「つまり……我が家の長兄、ダーク兄さんは僕たちの仕事と成果を後から来て横取りしようと考えている……こんなところでしょうか」

「その通りだ。お前も良く考えているな」


 ジンは僕に感心するような視線を向けてくる。僕にもそれくらいは分かるよ。と言いたいが、ジンの目には僕が深くものを考えるようになったと、成長したなと、そんな感じに映っているのだろう。評価してもらえるのは嬉しいけど、こんなことで……と、ちょっと複雑な気分。


「それで、ジン兄さんは、これからどうするつもりなんですか?」

「もちろん、返事を書く。なるべく穏便に、俺たちに最後まで仕事を任せてもらえるよう説得するつもりだ」

「ダーク兄さんが、そう簡単に引き下がるでしょうか?」

「それはまあ……そうなんだよな」


 ジンは困ったような顔をして、ため息をついた。ダークは明らかに建設中の交易路を奪おうとしている。そこから得られるものを自分の懐に入れたいのだろう。簡単に諦めるわけがない。面倒だね。


「それでもまずは穏便に、返事を送る。兄上と争う形にはしたくない。彼はブラッド家の中でも力を持っている。文字通りな」

「……そうですね」


 ダーク・ブラッドは暗黒騎士のジョブを持っていて、純粋に戦闘能力が高い。それだけでなく、家での発言力が強く、家のお金の大部分を管理している。傭兵ギルドとも関わりが深く、場合によっては傭兵を差し向けてくる可能性もある。あまり戦いたい相手ではないが……場合によっては戦うことも選択肢にはいる。なぜって、僕はダーク・ブラッドというキャラクターが気にくわないからだ。


「ジン兄さん、僕はいざとなれば、ダーク兄さんとも戦いますよ」

「お前が……?」


 ジンは僕の言葉を聞いて驚いたように目を見開いていたが、やがて頼もしい相手を見るかのように嬉しそうな顔をする。そういう顔を向けられると、少し照れる。


「お前がそこまで言うようになるとは……成長したな、ジョー。兄として嬉しいぞ」

「僕はただ、長兄の言う通りにするのが面白くないだけです」

「そうかそうか。お前はそう思っているんだな」


 ジンは楽しそうに笑い、ウンウンと頷いた。彼は本当に僕の成長を願っているのだな。その気持ちは嬉しくもあり、以前の僕がどれだけダメな奴だったんだと思わされるところでもある。まあ、エルダーファンタジーの設定集を読むだけでもジョー・ブラッドのダメなところは、たくさん分かってはしまうのだが。


「ジョー、お前の気持ちは分かった。だが、今はこの兄に任せてくれ。お前だって、穏便にことが済むならその方が良いだろう。そのために俺も知恵を絞ってみよう」


 そう言ってジンは格好つけるようにして腕を組んだ。彼の見た目が女の子みたいでなければ、もっと格好良さみたいなものが出ていたのかもしれないが……いや、これはこれで様になっているのかもしれない。なんかニチアサの戦うヒロインみたいな感じが出ているかも。そう思うと、悪くないな。


「ふふん、兄さんは格好良いだろう!」

「はい、凄く!」

「……そう素直に答えられると、なんだか照れるな」


 ジンは照れを隠すように顔を背けた。彼が女の子だったら、だいぶ可愛いと思ったかもしれない。待っていると彼の顔が再びこちらを向いた。


「ま、そういうわけで返事の手紙を書く。念話水晶が使えれば良かったが、流石に距離が遠すぎるからな。フクロウ便を使う」


 フクロウ便……その名の通りフクロウを使った郵便だ。伝書鳩みたいなものだね。おそらくエルダーファンタジーの製作陣は世界的に有名なファンタジー小説の影響を受けていたものと思われる。でもフクロウ良いよね。もふもふしてて可愛いもの。

 

「……となると、町へ行く必要がありますか?」

「ああ、フクロウ便の駅を利用するためにはウィードの町へ行く必要がある。悪いが、次あの町へ行くついでに手紙を持っていってくれないか?」

「了解。任せてください」

「頼むぞ」


 そして話は終わり時間が経過していく。僕はミーミーをもふったり、ナーの仕事を手伝ったりして過ごした。皆と過ごす時間は楽しく、大切にしたいと思う。だからこそ僕はこの場所を壊そうとする者が居れば全力で抵抗する。そう思った。


 翌朝、僕はナーが先に待つ馬車へ乗り込む。僕と同じタイミングで乗り込んできたミーミーも一緒で心強い。すでに雨は止んでいて、町へ行くには良い天気だった。


 面倒な問題は浮上したけど、僕たちなら、きっと乗り越えられる。そう信じて僕は鞄に入れた二通の書状を確かめる。ひとつはマルコフさんに用意してもらった商人ギルドへの紹介状、もうひとつはジンに用意してもらったブラッド家への手紙。どちらも大事なものだ。使命感がわいてくる。


「ジョー様、馬車を出してもよろしいでしょうか?」

「ああ、馬車を出してくれ」


 僕は鞄を閉じ、ミーミーの毛並みを撫でる。ミーミーは気持ち良さそうに目を細めている。その表情は穏やかな寝顔のようで可愛い。


 ほどなくして馬車が動き始めた。さあ、いよいよ出発だ。今日は責任重大の一日、だけど気負わず、やるべきことをやっていこう!

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