第16話 村の名前と宿計画

 簡単な狩りや採取の依頼をこなしたり、ナーの畑作りを手伝っているうちに数日が経過した。ゆったりとした時間が流れているようで心地好い日々だ。


 そうして今日、シロたちが作っていた小屋が完成した。木造のしっかりした建築。ちょっとしたコテージみたいで最初想像していたものよりも、だいぶ立派だ。シロたちの仕事には感心させられる。


 僕たち拠点の皆で、小屋を囲んで眺めている。僕以外の皆も感心しているようだ。ここは、この小屋を建てた者たちを労わなければなるまい。それだけの仕事を彼女たちは達成した。


「シロも、ジャムも、流石の仕事だね。凄いことだよ。ありがとう」

『う、うっす……』

『そうだよー。あーしたちって凄いでしょー!』


 片や恥ずかしそうに頭を搔き、片や得意げに胸を張っている。それぞれの反応が違って面白いな。


『……ジョーさん。注文通り、大部屋を一つと小部屋を三つ……作ったっす。部屋が多くなったから、どうしても少し大きめの作りになって……時間はかかったっす……』

「いやいや、この規模の建物を数日で作っちゃうなんて、凄い仕事だよ!」

『ま、まあ……そこはジャムが手伝って……くれたっすから……』


 ジャムのおかげで仕事の進みが早いというのは前にも聞いたな。お昼寝もしてるだろうに……いや、早い仕事の秘訣はお昼寝にあるのかも。ジャムは誰よりも働く時間が短いのに、誰よりも仕事を進めてる。舌を巻く仕事ぶりだ。


『あーしの仕事は凄いっしょ! 構造変化と分裂のスキルで何人分も働くかんね!』

「確かに何人分、いや、何十人分も働いてるみたいだね。とにかく、よくやった!」


 これはボーナスも考えなきゃ行けないだろうか。しかし、スライムとコボルトに出すボーナスって何が良いんだろうか? ストレートにお金じゃあ彼女たちも使い道に困るだろうし……まあ、それは後で考えよう! でも、彼女たちに感謝の心は忘れない。


 僕は数歩前に出て踵を返した。そうして皆を見る。日々のありがとうの気持ちを伝えたい。

 

「皆にも言いたい。皆の日々の働きには感謝しかない。いつも助かっています。ありがとう!」


 僕の言葉に応えるように、いくつもの「おー!」という声が上がった。皆に会えて良かった。心からそう思えた。


 ほどなくして、小屋の回りに集まっていた皆が、それぞれの活動のために散っていく。が、中にはずっと小屋を眺めている者たちも居た。僕も、そんな者の一人。だってこんなに立派な建物。いつまで眺めていたって楽しいよ。


『……ジョーさん、中見て、みないっすか?』


 シロに言われて「そうだね」と頷く。小屋の中も確認してみよう。きっと素敵になっていると思う。そうだったら良いな。僕はシロたちの仕事を信頼しているよ。


「じゃあ、中を見てみよう」

『うっす……』

『あーしが中を案内したげるー!』


 ジャムが率先して小屋の中へ。僕とシロは彼女の後からついていく。ジャムはうきうきしているね。僕もだよ。僕も、結構うきうきしている。


 小屋の中へ入ってみて、思わず「おお!」と声が出た。家具がなくて少し寂しい感じはするけども、綺麗な部屋は立派な作りだ。良いね。とても良い。


「これは内装をどうやって飾ろうか考えるのが楽しそうだ!」

『でしょー! 外も中も頑張って作ったんよー!』

『……気に入ってもらえたようで、何よりっす……』


 もちろん、気に入ったに決まっている! 小屋に入ってすぐの大部屋は談話室のように使えそうだ。大部屋だけでなく、三つの小部屋も見せてもらう。どこも素敵で大満足。


「おーい!」


 小屋の外から声が聞こえてきた。どうやら中に居る僕を呼んでいるようだ。声からしてジンだろうが、僕に何か用だろうか? 彼の頼みなら進んで引き受けよう。


「なんですかー!?」

「こっちに来てくれー!」


 了解、行きますよ。シロたちを残して僕は屋敷の外に向かう。外ではアゴに手を当てるジンの姿があった。彼は小屋を見ながら何か考え事をしているようだった。その姿も様になっている。彼は何か僕に相談したいようだ。僕の意見で良ければ、よろこんで。


「お、来たな」

「兄さん、何か相談したいことでも?」

「察しが良いな。いや、そろそろ良いかと思ってな」


 そろそろ? 何がだろう。気になるな。


「この拠点も発展してきてるだろ? ちょっとした村と呼んでも良いと思う」

「そうですね」

「そこで、この土地に村としての名前を与えてやりたい」

「なるほど」

「俺はそういう名前を考えるのは得意じゃない。お前に何か良い案があれば聞きたい」


 ふぅん。名前ねえ……僕も、命名に自信があるわけではない。ただ、こういうのは分かりやすくて、覚えやすいのが良いと思う。と、なると……そうだな。


「……フェンリル村……とかどうでしょう?」

「フェンリル草原のフェンリル村か……ちょっと安直じゃないか?」

「いえ、こういうのは安直なくらいで良いんだと思います。人に覚えてもらえることが最も大事なことでしょうから」

「なるほどな。よく考えているじゃないか。ジョー」

「どういたしまして」


 ジョーは納得したようにウンウンと頷いている。その動きは可愛らしくも見える。八割型は女の子のような見た目のせいだと思われるが。


「他にも何人かに意見を聞いてみる。そうして、出てきた、いくつかの案の中から村の名前を決定するとしよう」

「それが良いんじゃないですかね」

「うむ」


 それから、僕は夕方までナーの畑仕事を手伝ったりして過ごした。のんびりとした時間が過ぎていき、心地好い。夕食を食べ、僕とジン、それにナーやクロ、シロ、ジャムなんかも交えて話し合いになった。メインの議題は村の名前について。これは長くなるかもしれない。気合いをいれねば。


 と、思っていたら村の名前はあっという間に決まった。フェンリル村だ。僕の案が採用されてしまった。それは、嬉しいけど、本当にフェンリル村で良いの? 良い? じゃあ、フェンリル村でよろしく!


 さて、せっかく話し合いの場を設けているんだ。僕からも一つ、話したいことがある。僕はジンの顔を見ながら言う。


「……皆に聞いてもらいたいことがあるんだ」

「なんだ、ジョー。なんでも言ってみろ」

「それでは、失礼して……出来上がった小屋を見て思ったんだ。あれだけ立派な小屋なら宿として利用できないかな?」

「宿か……なるほど。話を続けてくれ。ジョー」

「最初は僕たちが寝泊まりしたり、話し合いをしたりするのに使おうと思ってたんだ。でも、あの小屋を見て活用しないのは、もったいないと思い直した」

「ふむ」


 ジンは両手の指を組んで考えている。わ、悪くない考えだと思うんだけど、どうだろう。この案は皆に採用してもらえるだろうか。長い沈黙、ちょっと不安になり始めていたところでジンが頷いた。


「……良いんじゃないか。宿を開けばうちの収入にもなる。悪い案ではないだろう」

「兄さん……!」


 ジンに続くように、他のメンバーも賛成の意見を出し始める。やった! 提案が通ったぞ!


「……とはいえ、問題は残ってる。宿を開くには家具も人も足らないだろう」

「あ、はい」


 ジンの言うことは最もだ。宿を開くには、まだ色々足らない。だけど、なんとかなると思う。皆のおかげでこれまでも上手くやってこられたし。僕は結構楽観している。


「宿のことは僕に任せてもらえますか。とはいえ、ジンや皆の力も借りることになると思うけれど」

「俺たちにできることなら任せろ!」


 ジンに続いて皆も「任せろ」と言ってくれる。皆が優しくて、とても嬉しい。


「うん、皆ありがとう!」


 フェンリル村の宿計画、始動だ!

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