第14話 のんびりとした午後

 昼頃に拠点へ戻るとすでにコボルトたちは昼の休憩に入っていた。彼らが食べている肉がうまそうで見ているとお腹がすく。僕も早くお昼にしたい。


 お腹を鳴らしながら歩いていると不意にミーミーが駆け出した。彼が向かった方向にはクロの姿。彼はミーミーのタックルに押し倒され、なんとか起き上がって相手をしていた。わんことわんこが戯れている。可愛い。


 クロは遠くに立つ僕にも気がついたようだ。のんびりと手を振る彼を可愛く感じつつ、僕も手を振り返した。そうして彼とミーミーの元へ向かう。

 

『おう、大将。調子はどうだ』


 クロに言われて困惑する。僕が……大将?


『僕は大将って柄じゃないと思うけど』

『そうかもしれないな。俺がそう呼びたいだけなんだ。気にしないでくれ』

「なるほど?」


 いまいち大将呼びに納得できないでいると、クロがくんくんと鼻を動かす。コボルトって種族はいちいち挙動が可愛いなあ。


『ふぅん。どうやら角ウサギを狩ってきたみたいだな。うまそうな匂いだ』

「あ、あげないよ!?」

『分かってる。大将の獲物を奪ったりはしない』


 だ、大丈夫だろうか? 獲物を奪われたりしないか、ちょっと心配。ところで。


「やっぱり大将って呼ばれるのは気になるなあ。どうして、そういう呼び方をするんだい? 大将って言うなら、ジンの方がそれっぽいだろうに」

『そうか? 俺はあんたの方が大将っぽいと思っていたよ』

「だから、どうして?」

『どうしてってなあ……』


 クロはミーミーの毛並みを撫でながら言葉を探しているようだ。さっき充分ミーミーを撫でたつもりだったけど、また白い毛並みをもふりたい気持ちになってきた。なんて思っているとクロが頷いた。彼の中で何か決まったようだ。


『……だってこれまで大きなことを決める時、いつもジョーの大将が関わってるだろ。だから俺はあんたが大将にふさわしいと思う』


 言われてみれば、そうである。僕たちが何か大きなことを決める時、僕の意思は結構……いや、かなり尊重されている。ジンは僕がやりたいことに対して必要以上に口出しはしてこなかった。それは僕を信頼してくれているからか、僕に期待してくれているからか、あるいはその両方か。あらためて気付くと、ちょっと嬉しい気持ちになった。


「なるほどね」

『納得してもらえたか?』

「うん、嬉しい気付きもあった」

『それはなにより』


 話が終わり、クロと別れる。とりあえず、テントに戻ろう。もう、お腹ぺこぺこだ。今日のお昼は何が食べられるかな?


「ミーミー、行くよ」


 歩く僕にミーミーは尻尾を振りながらついてくる。彼を微笑ましく思いながら、テントに戻った。テントの前には気持ち良さそうに眠るジャムの姿があり、彼女を起こさないよう、気を付けてテントに入る。


 テントの中にはジンとナーの姿があった。それと何体かのコボルトが適当にくつろいでいる。魔物は皆、自由だなあ。なんて思いつつ、家に帰ってきたみたいでほっとする。テントだけど。


「兄さん、ただいま」

「おかえりなさいませ。ジョー様」

「帰ったか。ジョー、昼にするぞ。依頼の結果は食べながら聞こう」

「そうだね。そうしよう」


 そこまで話して、僕はふと思いついた。短パンのポケットを探り、そこにあったものをジンに向けて軽く投げる。ジンは、座ったままキャッチしたそれを不思議そうに眺めている。あるいは、驚いてるかな? 驚いてるなら、楽しい気分だ。


「ジョー……これは?」

「宝石。カーバンクルと交渉して手に入れました。もっとありますよ」

「ふぅん」


 あれ、思ったよりも淡白な反応。ちょっと悲しくなっちゃいそうだ。


「……やるじゃないか」


 かと思ったら誉められた。素直に嬉しい。


「カーバンクルの宝石か。幸運のお守りか?」

「そんなところです。一つあげるので持っててください」

「貰っとく……ほら、お前もさっさと座れ」


 言葉からはそれほど感じないけど、彼の顔を見ていると嬉しいのが、まるわかりだ。魔物たちほどじゃないけど、可愛いところがあるね。


「じゃあ、食事をしながら話しましょう。今日のお昼はなんですか?」

「驚くなよ。羊の肉のステーキだ!」

「へえ、そいつは美味しそうです!」


 僕たちは昼食をとりながら、午前のことを話し合った。ジンとコボルトたちの道作りは順調に進んでいる。シロとジャムの小屋作りも順調に進んでいるとのことだった。重畳、重畳、全てが順調に進んでいるようで何より。


 昼食をとりながらの報告と連絡が終わり、羊のステーキの味にも大満足! ナーの味付けは僕好みだ。


 さて、食事も終わったし、僕はナーとミーミーを連れてウィードの町へ向かうことにした。何事も早めに済ませてしまうに越したことはない。


 テントから出て馬車に乗り込む。ナーが馬車を運転し、ミーミーは僕に寄り添う。もふもふの毛並みに体が沈みそう。わんこと一緒に馬車の旅、この世界でこれより幸福なことなどあるだろうか。いや、無い! だって僕は今、これほど幸福なのだから!


「ジョー様! 出発しますよー!」

「うん、出して良いよー!」


 今日もナーは元気だね。一緒に居るだけで気分が高揚する。ミーミーのアゴを撫でてやりながら、馬車の揺れを楽しむ。


「ミーミー、今日も天気が良いねー」


 ミーミーが「うぉん!」と鳴き、また喉を撫でられて、喉をごろごろ鳴らす。なんだか猫みたいで可笑しい。わんこ、だけど。いや、フェンリルか。


 しばらく馬車の旅を楽しみ、まだ日も高いうちにウィードの町に到着する。いつ来ても賑わっていて良い町だ。国の中でもわりと辺境に存在する町なんだけど、その割には賑わっている。ま、活気があるのは良いこと。僕はこの町の雰囲気が好き。


「到着だね……さ、早いとこ冒険者ギルドで用事を済ましちゃおう」

 

 馬車から降りて町の中を歩く。目指すは冒険者ギルド。目的を果たすまで寄り道はしない。ちょっと気になるお店とか目に映ったりもするけど、今は我慢。僕は意思の固い男なのだ。それなりに。


 僕が我慢しているからか、ミーミーもあちこち気になっていても、あちこちに走ったりはしなかった。我慢強い子だ。グッドボーイだぞー。後でたくさん、もふってやろう。決して僕がもふりたいだけではない……決して!


 少しして冒険者ギルドに到着。中は人で賑わっている。前に来た時よりも活気があるかも。良いね、テーマパークに来たみたいでテンション上がる! ってのはオーバーリアクションか。


 以前、絡んできた男をミーミーが撃退してくれたこともあって、あれから僕たちに変な絡み方をしてくる者は居ない。平和で何より。何事も穏便に済めばそれに越したことはないからね。


 受け付け嬢さんに依頼の達成を報告。狩った獲物も渡す。その時、彼女が「流石ですね」と言ってくれたのは、お世辞だとしても嬉しかった。やっぱり異性に誉めてもらえると、悪い気はしないよね。


 一つ依頼をこなしたので、また新しい依頼を探す。とはいえ、しばらくは簡単な狩りや採取の依頼をこなしていくつもりだ。大きな依頼をこなすには拠点の皆の協力が欲しい。最近は皆、色々優先してやることもあるだろうから、無理をさせるわけにはいかない。なので僕はちょっとしたクエストで小遣い稼ぎ。これがなかなか楽しいんだ。


 金策も考えているが、急ぐ必要はないだろう。皆の食事はなんとかなっている。そんなわけで、町を少し散策してから帰ることにする。ミーミーも色々気にしていたみたいだからね。いっぱい楽しもう!


 しばらくして。

 

「……そろそろ拠点に戻ろう」

「そうですね! 帰りましょう。ジョー様」


 ミーミーが「うぉん!」と鳴いた。馬車がゆっくりと動きだし、帰り道を行く。帰った頃には夕方だろう。今日はのんびりとした一日だった。スローライフって感じで心地好いな。


 こんな日が、これからも多くあると良いな。

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