第12話 ウサギ狩りに行こう

 ウィードの町で木材などを買い込み、夕方には、フェンリル草原の拠点に戻ってきた。ここ最近の冒険者としての活動で得たお金はほぼ無くなってしまったので懐が寂しい。またお金を稼がなければ、お金が無いのは、やっぱり嫌かな。


 拠点でシロたちを探して、すぐに発見した。彼女とジャムはいくつもの皮付き盾を完成させていた。流石、仕事が早い。


「や、シロ。調子はどうだい?」

『どうもっす……ワイバーンの皮、盾に張り付ける作業は終わってるっす……というか、ジャムさん凄いっすね。力が強いし器用っす……自信無くしちゃうなあ……』


 シロは勝手に落ち込んでいる。慰めてやるべきか悩むところだ。そんな彼女と比べて、ジャムは呑気にお昼寝中のようだった。溶けるような寝顔が可愛らしい。


「ジャム……は寝かせておくか」

『そうっすね。彼女の働きぶりには感心させられたっす。物を作る能力は、ここの誰より高いんじゃないっすかね?』

「なるほど」


 ジャムは製作系のスキルは持っていない。それでも、彼女が物を作る能力は非常に高い。この世界でのスキルは強力な存在だが、絶対の存在ではない。スキルやステータスを本人の才能や技術が上回ることもある。とはいえ、剣の稽古とかはあまり好きじゃないので、ジンに誘われても気は乗らない。まあ、付き合うけど。


「シロ、今日はお疲れ様」

『ど、どうもっす……』

「明日から、また色々作ってもらいたいものがある。よろしく頼むよ」

『まあ……物を作るのは好きっすから……任せてくれっす』


 お、ちょっとだけシロの前向きな気持ちを感じた。前向きなのは良いことだ。彼女を見て、僕も頑張ろうという気持ちになる。


「それじゃ、僕は夕飯にするよ。またね」

『お、おう……またっす』


 その後、夕食を済まし、ジンに誘われて剣の稽古に付き合った。へとへとになりながらテントに戻り、ミーミーに抱きついて心地よさを感じながら深く眠った


 そうして、朝が来る。テントの布から光が感じられ、暖かい。気持ちの良い朝だ。自然とやる気がわいてくる。


 目を擦っていると、ミーミーが顔を舐めてきた。長い舌は柔らかく、くすぐったい。でも、悪い気はしなかった。僕はほんとにミーミーが好きなんだな。


 伸びをしながら立ち上がる。ぐっすりと眠れたので気分はさわやか。


「今日は何をしようかな。ミーミー」


 僕の言葉に答えるようにミーミーは「うぉん!」と鳴く。そんな彼を可愛いと思いながら、とりあえずテントの外に出てみることにした。


 外に出て、まず目に映ったのはテントのそばで溶けるように寝ているジャムの姿だった。どうせ寝るならテントの中に入ればいいのに、と思うが彼女は外で寝る方がいいのかもしれない。テントの外に吹く風は気持ち良いものね。


 なんて思ってるとジャムの目がぱちぱちと開いた。まだ眠そうであくびをしている。こっちにまであくびが移ってしまいそうだ。可愛いね。


『ん、およー。ジョーちんだ。おっはー』

「うん、おはよう。ジャム」

『ちょっと待って、今起きるかんね』


 ジャムはもぞもぞと起き上がり伸びをした。その動きは人の形にはちょっと不自然で不気味だ。なかなか慣れない。


『ジョーちん、今日は何すんのー?』

「そうだね。今日は冒険者ギルドで受けた依頼をこなしてくるよ。ジャムたちには小屋を作ってもらいたい」

『小屋ね。あいあい、作れるよ! 任せて!』


 自信ありげに答えるジャムに、僕は言葉が詰まった。目も丸くなっているかもしれない。小屋を作ってくれと頼んでいる身だが、こうも簡単に、出来るって答えられると呆気にとられてしまう。


「出来るんだね?」

『当たり前っしょ! むしろ出来ないと思ってることを任せようとしてたわけ? それって酷くない?』

「……そうだね。うん、出来るよね。任せる」

『かしこまっ! ジョーちんはギルドの依頼? 頑張ってね』

「ありがとう。頑張るよ」


 一旦ジャムと分かれ、コボルトたちに挨拶をして回る。そのうちジンも起きてきて、一緒に川へ水浴びへ。その後、拠点に戻って朝のもろもろを済ませる。準備が出来たのでミーミーを連れてギルドの依頼をこなしに向かう。全ては順調。何事も順調に進んでいて気分が良い。


 出発前にジンから「気を付けろよ」と呼びかけられる。その心遣いが嬉しい。


「はい、兄さん。気を付けて行ってきます」

「ああ、無理はするな。ミーミーが居るから大丈夫だとは思うが」

「兄さんは心配性ですね」

「お前のことだからな。とはいえ、最近のお前は前よりも……なんていうかな……たくましくなった」

「そうかもしれません」

「とにかく、ミーミーと一緒なら安心だ。行ってこい!」


 手を振るジョーに見送られ、僕とミーミーは草原を東に向かう。ジョーは僕に期待してくれてる。その期待に応えないと、そう思うと体に活力がみなぎる気がした。


 袋と弓を担いで草原を進む内、川にやってきた。川の水に触れると冷たくて気持ちいい。そして、ゆっくりと流れる川の力を感じる。


「ミーミー、この川を渡るよ」

『泳ぎは得意!』


 川に来てミーミーは楽しそう。僕も楽しくなってくる。


 川を泳いで渡り、弓を手に持つ。今回受けた依頼はジャッカロープ狩り……言い換えると角ウサギ狩りだ。角ウサギを狩れば狩るほど報酬は増える。また、この辺りに出現するカーバンクルという魔物を狩れば更なる追加報酬が手に入るので、今日は一日頑張りたい。


「ミーミー」

『なんだい?』


 僕が呼びかけるとミーミーは全身をぶるぶると震わせながら答える。川を渡る時に濡れちゃったので、全身がしゅっとして細くなっちゃってる。これはこれで可愛い。


「シロにあるものを作ってもらいました!」


 そう言って僕が袋から取り出したのは、果物が入った網かご。これは中に入ったものを捕まえる罠になっている。こんなものも作れるシロの器用さに感心させられる。たぶん、ジャムも手伝ってくれているだろう。


「こいつを使えば、うまくいけばジャッカロープかカーバンクルを捕まえられる。どっちが捕まっても嬉しいね」


 ミーミーは、はち切れんばかりに尻尾を振りながら「うぉん!」と鳴いた。やる気満々だね。僕も頑張るぞ。


「獲物を探そう」

『了解!』


 獲物を探して草原を散策する。ジャッカロープはともかく、カーバンクルはなかなか見つからないだろう。ゲームでも出現率は三パーセントとかだったからなぁ。カーバンクルが見つかればラッキーだろう。見つかると良いなあ。


 そのうち、一体のジャッカロープを発見した。向こうはまだ僕に気づいていない。息を殺し、弓矢を構える。そして、発射! どうだ! 畜生! 外した!


『ご主人、任せて!』

「任せた!」


 ミーミーが勢い良く走り出す。獲物も素早いが、ミーミーはもっと素早い。おー速い速い! あっという間に獲物に噛みついた! 流石の速さだぁ。


 僕はミーミーの元へ駆け寄る。ミーミーもこちらへ寄ってくる。彼は誉めてもらいたがっていたので、彼の毛並みを撫でてやりながら誉めてやる。彼の毛並みはすでに乾いていて、ふわふわのもふもふになっていた。触っていて気持ちいい。


「グッドボーイ。グッドボーイだミーミー」

『ご主人、もっと誉めても良いんだよ』

「ああ、偉い子だ。偉い子だよミーミー。ほんとに頼もしいねえ君は!」

『えへへー』


 ひとしきりミーミーとわちゃわちゃ触れあった後、ジャッカロープを袋につめて、僕たちは狩りを再開する。さっきは矢を外したけど、今日中に一回くらいはミーミーにかっこいいところを見せてやりたい。


 狩りは始まったばかりだ。落ち着いて行動しよう。

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