第11話 女王と三つの能力

「君のスキルを紹介してくれ」

『いいよー。見て驚くなよー』


 驚いてほしいんだろうな。と思いつつ僕はジャムの動きを待つ。ゲームでは仲間にしたスライムクイーンのスキル選択はある程度ランダムだった。彼女はどういうスキルを持っているだろう。見せてもらうのが楽しみだ。


『あーしのスキルは三つある! レベル三だかんね』

「なるほど」

『で、最初のスキル選択なんだけど』


 そこまで言って彼女は小型の船のような姿になった。沈む気配はなく、安心できる。


『構造変化のスキルだよ。あーしの知ってるものになら、自由に姿を帰ることができるんだー』

「船を知ってるんだ?」

『変えようと思えば体の色も変えられるかんね。たまに人間の町なんかに行くこともあるよ』

「へえ、そうなんだ」


 ゲーム内の知識は全て頭の中にあるつもりだったが、スライムクイーンが人間の町に行ったりするとは知らなかった。そういう、知らないことには興味がわくし、知ることができると楽しい。


「他には、どんなスキルを持ってるの?」

『急かすなし』


 彼女の体が再び変化を始める。再び彼女の体が僕にまとわりつき、変化していく。ゼリーのような体は装甲のようになっていき、僕の体をゼリーの鎧が包む。


『装甲合体のスキルだよー』

「結構軽いね」


 ゼリー装甲を着ていても体が川に沈んでいく様子はない。それに、着ていても重く感じない。浮力が働いているのかな。スライムクイーンの体は不思議だ。

 

『女の子に体重の話するの禁止! でね、装甲合体のスキルの面白いところはねー』


 僕の右手が勝手に上がる。そして勝手にひらひらと振りだした。これは、面白いな。


『筋力のステータスで圧倒的に勝っている相手なら、あーしのスキルで操ることができるんだよー。っていうか自分の体動かされてんのに、もうちょっと驚けし』

「そこは君のことを信用しているからね。変なことはしないだろ?」

『信用ね……あーしの装甲合体、信用のできる相手になら動きを任せることもできるよ。ジョーちんなら、動きを任せても良いかもね』

「僕のこと信用してくれてるんだ?」

『一応、仲間なわけだしね。それより、ジョーちん。あんたは、私が変なことはしないと言ったね?』

「違うの?」

『ふっふっふー』


 おや、イタズラの予感がするな。仲間だし、そこまで酷いことはされないだろう。と楽観していたのだが。


『こういうの、すきー?』


 ジャムの体が変化し、分裂する。そして四方から迫るのは女の子の胸!?


「わぷっ!?」


 わぷぷっ!?

 

『おりゃー。おっぱい攻撃だー』


 四体に分裂したジャムが四方から胸を押し付けてきた。流石に、僕も動揺する。お、お、お、落ち着け僕。相手はスライムだ。クールになれ。


「や、やめろって!?」

『あはは! ジョーちん焦ってる! ウケるんですけどー!』


 こ、このエロスライムがー! だが、僕はクールな男。彼女のペースにはのまれないぞ。のまれてなるものか。


「これが君の三つ目のスキルなんだね?」

『そうだよー』


 言いながらジャムの体が元に戻っていく。や……やっと落ち着ける。


『分裂のスキルだよー。私の体を分裂させて別々に行動させることができるのだー』

「何体まで分裂できる?」

『私そっくりの分身を作ろうとしたら四体が限度かな。小さくて単純な動きの分身ならもっと作れるよー』

「なるほど、良い能力だね」

『そうっしょ! 良い能力なんだよー!』


 構造変化、装甲合体、分裂、どの能力も役に立ちそうだ。頼りにさせてもらおう。


「君の能力を僕たちのために活かしてほしい」

『三食お昼寝つきなら喜んで。そろそろ水浴びも終わりにしよっか』

「そうだね。そろそろジンたちの元に向かおう」


 ジンは先に行ってしまったようだ。ミーミーは僕のことを川辺に伏せて待ってくれている。可愛い子だ。忠犬ミーミー。いや、忠フェンリルか。


 僕がテイムできる魔物の枠はミーミーとジャムで埋まった。どちらも強力な魔物で、この二体を仲間にしていれば色々と楽だろう。僕はなるべく楽々に生きていきたい。


 川から上がるとミーミーが寄ってくる。彼は体が濡れるのは気にしないみたいだ。でも、僕の方が気になってしまう。あんまり触れてると全身濡れちゃうよミーミー。

 

「ミーミー、そろそろ行こうか」


 僕が呼びかけるとミーミーは「うぉん!」と鳴く。左右に揺れるもふもふの尻尾が可愛らしい。


 体をタオルで拭き、シャツを着てから僕はジンの元へ向かう。ミーミーとジャムもついてくる。護衛がついてると草原を歩き回るのも安心だ。


 少しして僕たちは草原の拠点に戻った。コボルトたちは朝食をとっていて、もうちょっとしたら彼らの仕事が始まる。食事を用意する代わりに働いてくれる彼らには感謝しかない。


 テントに入ると、ジンとナーの二人を見つけた。二人は僕が来るのを待っていたようだ。先に食事にしていても良かったのに。とはいえ、待ってもらえていたことは嬉しい。


「来たか。ジョー」

「お帰りなさいませ! ジョー様!」


 ジンはむすっとした感じ、怒ってはいないようだ。ナーは今日も元気いっぱい。二人が元気そうだと、こっちも元気をもらえる。


「朝食にするぞ。お前も席に着け」

「了解」

「それと、ミーミーとそこの……ジャムもだ。朝食は用意してる」


 やっぱり……ジンってツンデレだよね。彼、僕だけでなく魔物たちのことも考えてくれてる。そう思うと嬉しくなる。


 僕たちは朝食をとる。パンと豆のスープ、質素だけど、なかなかうまい。


 朝食の席にはナーも一緒だ。最近、その方が効率が良いからとジンがナーに命じた。彼は貴族の中では柔軟な考えを持っていると思う。多少、厳しいところもあるが、エルダーファンタジーの貴族を基準に考えれば、だいぶ優しいのではないだろうか。少なくとも、僕はそう思う。だからこそ彼をだんだん好意的に感じられるのだ。


 食事を終え、僕はミーミーとジャムを連れてシロの元へ。シロに声をかけると、彼女はびくっと身を震わせた。彼女もいい加減、僕たちに慣れてほしいが……彼女には彼女のペースがあるのも事実。彼女が僕たちに慣れてくれるのを、のんびり待とう。


「やあ、シロ」

『ど……どうもっす……今日は何を作るっすか?』

「そうだね。今日は木の盾にワイバーンの皮を着けてもらいたい。ジャムと仲良くなるところから始めてもらいたいんだ」


 僕の横でジャムが愛想良く手を振る。彼女は好戦的な性格であるが、仲間と判定した相手には愛想が良い。白黒はっきりした性格なのだろう。僕的には好感が持てる。


『よろー、シロっち。あーし分かんないことばかりだから色々教えてね!』

「り、了解っす……」


 魔物同士の会話は普通に通じていて、そこに魔物会話などの特別なスキルは要らないようだ。その点は羨ましいとは違うけど、なんか良いなって思う。


「今日はジャムに仕事に慣れてもらって、君たちには色々作ってもらいたいから、僕はナーと一緒に買い物に行ってくる」

『何を……買ってくるんすか?』

「木材を買ってきたいと思ってる。家具とか、できれば小屋とか作ってほしい」

『こ、小屋……っすか。とうとうっすね』


 シロには僕が作ってもらいたい小屋がどういう物かは教えてあるけど、作ったことの無いものに対して不安になっているようだ。始めてのことに不安になる気持ち、分かる。


「大変だろうけど、君たちならできると思う。僕もできることは手伝うよ」

『まあ……やるだけ、やってみるっす』

『あーしもできることはやるよー! お昼寝の時間はもらうけど!』


 ジャムもやる気を見せている。今日はのんびり、やっていこう。

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