第9話 古代遺跡のゼリーな女王
フェンリル草原をずっと西に進んで行くと古代の神殿が存在する。古代という言葉を聞いてロマンのようなものを感じ、わくわくするのは僕だけでは、ないはずだ。
古代神殿にはシロの助手として最適な魔物が潜んでいる。そいつを仲間にしようというのが僕の考えだ。悪くない計画だと思う。
ただ、いきなり古代神殿に行こうなんて話しても不自然だろう。そこで、シロが助手を欲しがっていることについては、表向きは保留にしておき、ウィードの町で古代遺跡に関する依頼を受注。依頼をこなしながら、目的の魔物も仲間にする。完璧な計画だ。僕って頭良いよね。
そんなわけで、ウィードの町へ行き冒険者ギルドでひとつの依頼を受注してきた。古代遺跡の調査をしてほしいという依頼で、この前のワイバーン討伐の実績がある僕らは、この依頼をスムーズに受注することができた。やってて良かったワイバーン討伐! 何事もスムーズに話が進んでくれると楽で良い。
「……ジョー……また考えごとか?」
「……え、あ、はい。何です兄さん?」
はっとして首を動かすとジンの顔があった。相変わらず顔が良い。一緒に行動しているうち、最近は彼にいくらか気を許している自分が居る。
「お前、最近考えごとが増えたよな」
「そうですね。考えごとが増えました」
「……成長したよ。お前は」
ジンはそう言って嬉しそうに笑った。彼はジョーという少年が成長することを望んでいるのだ。僕はジョーであり、ジョーではない。転生者だけど、彼の気持ちに答えたい。
今、僕たちは馬車に乗って移動している。ナーが馬車を運転していて、荷台には僕たち兄弟の他、ミーミーの姿がある。ミーミーは退屈そうにあくびをしていて、こっちまで眠くなっちゃいそうだ。ふぁ……。
『ご主人、まだ到着しないのー?』
「もう少しかかるんじゃないかな? 退屈なのは、もうちょっとだよ。ミーミー」
『今日はいっぱい走りたい!』
ミーミーは尻尾をぱたぱたと振りながら、僕に体を寄せてきた。可愛いやつめ、その毛並みを気が済むまで、もふってやる。
「ういやつ、ういやつ」
『えへへー!』
僕がミーミーをもふっているうちに馬車が止まった。お、目的地に到着したかな? 馬車が停まると、ちょとだけ名残惜しい気分になる。
「ジン様、ジョー様、遺跡らしき建物に到着しました!」
「ナー、お疲れ様」
「いえいえ! むしろ、これからですよ。ジョー様!」
確かに、ナーの言う通りだ。遺跡の調査はこれから! 気を引きしめて行こう!
馬車から降り、辺りを眺める。草原の中に石の柱や建造物が並ぶ。その表面にはツタが這い、人々の生活から忘れ去られて長い時が経過したことを感じさせる。僕は廃墟マニアというわけではないけど、こういう寂しい雰囲気は嫌いじゃない。
「静かな場所だね」
『そうだねー! 走り回るには良さそうな場所!』
ミーミーは楽しそうに僕らの回りを走り回っている。その様子に、ジンは呆れ顔、ナーは和んでいる様子だ。僕も和んでしまう。
「ミーミー。あまり僕たちから離れちゃダメだよ」
『言われなくとも! 君のことは、僕が守るからね!』
「それは頼もしい」
実際、ミーミーは戦力として頼もしい。レベルは二だけど、単純な戦闘能力は一つ上のレベルのナーよりも高い。そこに僕の魔物強化や、ジンのバフ能力が加われば、この辺の魔物であれば苦戦はしない。遺跡の調査も安心というわけだ。
「さ、調査を進めていこう」
そういうわけで、遺跡のマッピング作業を進めていく。たまに地図が売られていない土地があって、そういう場所は調査依頼が出ていることが多い。少なくとも、エルダーファンタジーではそうだった。こういう依頼は実入りが良いし、僕はゲームのマッピングは好きだった。今回の依頼を僕は楽しんでいる。
ゲームと違い、この世界でのマッピング作業は手書きでおこなう。それは面倒とは感じず、新鮮に思える。ついつい、地図に色々と補足を書き込んでしまう。あそこはツタが多いだとか、あそこは石が脆くなっているだとか、僕ってこういうことには凝り性なのかも?
「魔物とか、出ませんねえ」
「確かにね。こういうところにはゴブリンとかが潜んでいても、おかしくはないんだけどね」
不思議そうにしているナーに話を合わせている僕だが、どうして魔物をあまり見かけないのか知っている。ここはある魔物のテリトリーになっていて、そいつが他の魔物たちを追い払っているのだ。僕はそいつを仲間にしようと計画していて、計画の成功も確信している。だから、結構気楽でいたりする。
そうして歩いているうちに、僕たちは一体の魔物を発見した。この辺りをテリトリーにしているゼリー状の魔物スライムクイーンだ。見た目は十代後半の女の子のようで、しかしその体は青く透き通っている。現在は眠っているようで、その寝顔は可愛らしい。
「こいつは?」
ジョーが眉を潜めながらつぶやく。彼は前方の魔物を警戒しながら剣を抜く。僕も一応、剣は抜いておく。まあ、僕の剣術だとスライムクイーンには絶対敵わないんだけどね。我ながら悲しい事実だよ。
「スライムクイーンですね。兄さん、この子は体の形を器用に変えられますし、力も強いです。しかも、かなりタフです」
「なら、こいつは起こさないようにしたほうが良いか?」
「いや、もう遅いと思います。目を覚ましたみたいですよ」
もぞもぞとスライムクイーンが動きだす。彼女は大きく伸びをして、女の子の形が異様に伸びた。ぶ、不気味な動きだ。見ていると不安定な気持ちになりそう。
スライムクイーンはあくびをするように大きな口を開けて、そこでようやく僕たちの存在に気付いたみたいだった。彼女の形が元に戻っていく。女の子のような形は、やっぱり可愛い。
『……んー。あーしのテリトリーに侵入者はっけーん!』
直後、彼女はその場から弾かれるかのように勢いよく迫ってきた。だが、その攻撃が届くことはない。僕たちを守るようにミーミーが飛び出る。頼りにしてるよ! ミーミー!
スライムクイーンとミーミーがぶつかり合った。攻撃を止められたことで彼女は驚愕の表情を浮かべている。いいね! そういう表情好きだよ!
『は!? あーしの攻撃を止める? まじ?』
「どうだ! うちのミーミーは強いよ!」
『うっざ。ちょっと攻撃を防いだくらいでいい気になんないでよね』
スライムクイーンの上半身が変形する。無数の槍のようになった彼女の上半身が僕たちに襲いかかる。だが、その攻撃をミーミーの咆哮が押し返す。ミーミーがこの前覚えたスキル、フェンリルハウリングだ。その迫力は凄まじい。思わず身がすくんでしまうほどだ。
『にゅ!? にゃー!? あーしの体が痺れてるー!?』
スライムクイーンは驚き、元の形状に戻った。動けない状態のようで、今がチャンス。やったれ! 圧倒的な勝利は気持ちが良いぜ!
「ミーミー! 彼女を取り押さえて!」
僕の言葉に答えるようにミーミーが「うぉん!」と鳴き、スライムクイーンに飛びかかる。いいぞ! 凄い奴だよ君は!
ミーミーはスライムクイーンの上にのしかかり、その顔をベロベロ舐めている。美味しいんだろうか? なんだかゼリーを食べたくなってきた。
『ちょ!? やめろし! 体が痺れっぱなしだしぃ! くすぐたいしぃ!?』
されるがままミーミーにべろべろ舐められている彼女は可哀想では……ないな。むしろ彼女と入れ替わりたい。フェンリルに舐められるのはご褒美だよ。
僕はミーミーたちに近づいていき、屈みこむ。目から液体の漏れているスライムクイーンを見ると、やっぱり……ちょっと可哀想かも。でも、いきなり攻撃してきたのはそっちだからね。
さて、さっさとやるべきことをやってしまおう。何事もできるだけすぐに済ませてしまうべきだ。
「スライムクイーン、僕は君と交渉がしたいんだ」
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