第8話 ワイバーンの素材の使い道

 ウィードの町の商人ギルドを訪れる。建物は冒険者ギルドよりちょっと豪華な感じで、清潔感もある。ちょっと落ち着かないのは、気が流行っているせいか、この場所の空気感のせいか。


「ジョー様、ご気分は大丈夫ですか?」


 ナーに聞かれ「大丈夫」と答える。実際は、ちょっと落ち着かない気持ちだけど、変にナーを心配させたくない。


「さ、受付に行ってみよう」

「はい、お供します」


 僕たちは商人ギルドの受付へ。ここの受付嬢さんはメガネをかけていて知的な感じだ。そう思うのは僕だけかな?


「いらっしゃいませ。ご用件を伺います」

「商人ギルドに登録をしに来ました」

「分かりました。では、書類へのサインと登録金の支払いをお願いします」


 事務的な手続きがおこなわれる。冒険者ギルドと違い、ここでは登録のための金を支払う必要がある。もったいないとは思わない。必要経費だ。


「……はい、これで手続きは完了です。商人ギルドはあなたたちを歓迎します」


 商人ギルドでは金属のカードの代わりに、しっかりとした紙の書類を貰えた。個人的にはカードの方が小さいし、かっこよくて好きなんだけど……この書類も大切に扱わせてもらう。


「それと、買い取ってもらいたいものがあるのですが」

「分かりました。鑑定士の元へご案内します」


 ほどなくして、僕たちは商人ギルドの鑑定士さんを紹介してもらった。白髪が特徴的なお爺さんだ。彼の後ろには数人のギルドの職員さんもついている。


「ほっほっほ。お若いお嬢さんたちじゃな。こんにちは」

「こんにちは。よろしくお願いします」


 お爺さんが言っているお嬢さんたちとは、ナーのことを言っているのか、僕のことも含んでいるのか、おそらく後者だろう。だが、訂正する必要はない。話は穏便に進めたい。ただ、男女の違いを見間違えたのだとすれば、その鑑定能力がちょっと不安だ。


「……ふむ。不安そうな顔をしておりますな。心配なさるな。このカンティ、アイテムを見る目だけは確かですじゃ」


 カンティさんの自信のある顔を見ると、不安は薄まった。僕たちはギルドを出て町の外壁部に停めた馬車に向かう。馬車にはワイバーンの鱗が置かれている。その見張りは、いつの間にか馬車に乗り込んでいたミーミーに任せてある。


「鑑定してもらいたいのはワイバーンの鱗です」

「ふむ、少し時間をいただけるかな?」

「はい、お願いします」


 カンティさんはぐっと伸びをして鑑定作業を始める。彼はミーミーにはあまり興味を示していないみたいだ。もうちょっと、うちのミーミーを見てやってほしいとも思ってしまう。


 待つことしばらく。


 もうすぐ昼になるかというところで鑑定は終わった。思ったより待った。正直、ずっとそわそわしている。


 鑑定の結果はどうだったかと言うと、結構良い額になった。想定の範囲ではあるが、やっぱり嬉しい。ギルドの職員さんに買い取りをしてもらい、懐はほくほくだ。お金があるというのは良いことだ。


 ギルドの職員さんたちに、鑑定してもらった鱗を持っていってもらう。せっかく町に来ているので、町中に戻り、ナーやミーミーと一緒に出店の串焼きを食べる。ウィードの町の串焼きはジューシーでうまいのだ。


 ミーミーには串からはずしたものを食べてもらった。口をはぐはぐと動かしているミーミーが可愛い。この子はいつでも可愛い。


 食事も終わり、町をぶらつきながら、これからどうするかという話になる。そうだね。これからの予定を立てることは、とても大事だ。


「僕としては、草原にテントを建てたいと思っている。その後、小屋とかも建てたい。でも、小屋を建てるのは、まだ先の話だ」

「そこで、先にテントなのですね」

「ああ、シロなら、テントくらいまでなら作れると思う」


 シロにテントがどのようなものであるか、説明する必要はあるだろうが。僕はあまり、そういうものの知識はない。その辺は兄のジンが詳しいはずなので、僕と彼とシロとで力を合わせよう。彼らは信頼できる。


「今日のところは草原の拠点に戻ろう」

「そうですね。あまり遅くなってもいけませんし」

「ああ、帰ろう」


 それから、しばらくして。


 僕たちは草原の拠点に戻る。何度も帰ってきているうちに、ここが帰るべき場所のように思えてきた。故郷とでも言うのが、ぴったりかもしれない。


 拠点でコボルトたちは今日の作業を終えていた。思い思いに休んでいる彼らの中からシロを探す。コボルトたちの顔には結構違いがあって見分けることができる。ふふん、僕はこういうの得意なのだ。


 シロを見つけた。白い毛並みの綺麗なコボルト。見ていて、うっとりするような可愛さだ。


「やあ、シロ」

『お……おう……うっす』


 シロはおっかなびっくりの様子。そんなに怖がる必要ないのに、と彼女と話すたびに思ってしまう。


「実はシロに相談があってね。僕の兄さんも交えて話をしたいんだけど、どうかな?」

『……話っすか……まあ、良いっすよ』

「分かった。じゃあ、ついてきて!」


 シロと一緒にジンを探す。ほどなくして彼は見つかった。長い髪をたなびかせる彼は、女子のように見えてしまう。素直に、彼のことを綺麗だとは思う。そんな彼が僕たちに気付いた。


「ジョー、戻っていたか」

「うん、ただいま。兄さん」


 ジンは僕に「おかえり」と言ってくれる。そんな些細なことが、不思議と嬉しい。


「実はシロも交えて聞いてもらいたいことがあって」

「お、相談か? なんでも言ってみろ」


 僕に頼られて嬉しそうに笑うジンが心強く感じる。心強いのはシロもだ。そんな彼らに僕は、町でナーに話したことを伝える。彼らがどういう反応を返してくるか、少し不安だ。それは無理だとか言われたらどうしよう。大丈夫だとは思うんだけど。


「なるほど、テントか」

『……布で作った小屋みたいなもの……であってるっすよね?』


 僕は頷きながらも、ちょっと不安になる。む、無理だったりする?


「難しいかな?」


 そう聞いてみると、ジンはにっと笑った。その笑みを見て不安が消える。


「俺はなんとかなると思う」

「なんとかにりそう? シロはどう?」

『まあ……やるだけやってみるっすよ……』

「確かに……そうだね。やるだけやってみて、それから考えよう!」


 やるだけやってみる。大事なマインドだ。やってみてダメだったら、その時に改めて考えたら良いのだ。シロの言葉で気付くことができた。僕は感謝の気持ちを込めてシロの手を握る。


「君の言う通りだ。ありがとう、やってみよう!」

「う……うっす」


 シロは緊張しているようで、それが分かって僕は急いで手を離す。いきなり手を握るのは良くなかったよな。反省しなくては。


「あ、ごめん。嬉しくてつい」

『そ、そうっすか……』


 最近ミーミーによく触っていたこともあり、その感覚で触れてしまったのだと思う。コボルトって、まじで可愛いからね。とはいえ、節度をもって接しないと。親しき仲にも礼儀ありだ。


「ま、まあ。そういうわけで、明日からよろしく頼むよ。シロには道を作る代わりに色々と作ってほしい」

『……了解っす』


 そうして、翌日。


 昼前にはワイバーンの皮のテントが完成した。入ってみて、なかなか居住性が高そうだと思う。詰めれば十人ちょっとくらいは収容できそうだ。しかし、こんなに大きなテントを午前のうちに作ってしまうとは、さすがシロだ。


 テントのチェックを終え、改めてシロと話す。彼女曰く、コボルトの取り分だったワイバーンの骨も使ったそうだが、そこはサービスしとくとのことだった。ありがたいね。


『ジョー、これは相談……というよりは……提案なんすけど……』

「提案?」


 シロは頷く。その仕草も可愛い。


『これから、あたしに色々作らせるつもりなら、手がほしいっす……つまり……助手がほしいんす……』

「なるほど」


 助手か。となると……あの魔物かなあ?

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