第7話 始めてのレベルアップと得られたもの

 ワイバーンの討伐を冒険者ギルドに報告し、僕たちは皆レベルを一つ上げた。始めてのレベルアップ。となれば、わくわくのスキル取得タイムだ。


 星空の下。涼しい風が気持ち良い。屋根がなくなった馬車の上で、楽に座りながら、落ち着いて考える。

  

 今、僕たちはフェンリル草原の拠点に戻ってきている。スキルはいつでも習得できる状態だが、今日は一日中どのスキルを選択するか悩んでいた。嬉しい悩みというやつだ。


 僕が持っているスキルは魔物会話。これに何を加えるか悩んでいたわけだが、決めた。きっと僕の選択は間違ってないと思う。


 目を閉じ、習得スキルを選択。


【スキル:魔物強化を取得しました】


 脳内にアナウンスが流れ、僕の中に新たな力が目覚めたのを感じる。なんだか心の底から湧いてくるものに、そわそわする。


 僕が手に入れた新たなスキル、魔物強化はその名の通り、味方の魔物を強化する。なぜこのスキルを選んだか、それは今日の戦いによる心境の変化だ。僕は初めて仲間たちと肩を並べて戦った。そうして、彼らがやられることなく、無事にワイバーンの討伐ができて、ほっとしている自分に気付いた。


 僕は、仲間たちに死んでほしくない。単なるゲームのキャラという認識から、生きる仲間という認識に変わったから、だから、彼らが死ぬ可能性を減らしたい。僕だけでなく、仲間たちにも生きていてほしい。


 そういう理由で、僕はスキルを選んだのだ。後悔は無い。


 さて、スキルも取得したところで、眠くなってきた。そろそろ寝ようか、なんて考えていたところで、僕のそばにミーミーがやってきた。もふもふの毛に振れると、ほっこりする。


「ミーミー、どうしたの?」

『なかなか眠れなくて、一緒に居ても良い?』

「良いよ。君の毛に触れてると気持ち良いし」

『えへへ。いっぱい、もふもふして良いよ』


 僕はミーミーの柔らかい毛を肌に感じながら、心地よい眠気を感じていた。ゆっくりと、体を横にする。馬車には暖かな寝袋もおいてあるので、その上で横になる。ふわぁ………。


「……ミーミー」

『何? ご主人』

「これからもよろしくね……」

『もちろん、これからもよろしく』


 意識がまどろみの中に落ちていく中、ミーミーが『ありがとう』と言った気がした。その言葉が、僕にはとても温かく感じられて嬉しかった。


 一晩が立ち……目が覚める。深く眠れたようで、晴れやかな、すっきりとした気分だ。体を伸ばしながら周囲を確認すると、ミーミーの姿は無かった。


 少し離れたところから「うぉん!」と鳴き声が聞こえてくる。聞くだけで元気を分けてもらえるようなミーミーの鳴き声だ。聞くとちょっと楽しい気分になる。


 馬車から降りて、声のした方に行ってみる。そこには楽しそうにミーミーをモフる兄の姿があった。フェンリルの子と美少年の組み合わせは様になっているが、ミーミーをとられたようで、少し妬いてしまう。


「おはようございます。兄さん」

「ああ、おはよう。ジョー、お前も起きたか。コボルトたちはとっくに起きてるぞ」

「ナーは?」

「うちのメイドは早起きだ。お前の朝食を準備してくれているぞ」

「なるほど、ミーミーをモフったら、朝食にします」

「そうすると良い」


 兄と一緒にいっぱいミーミーをモフって充分に満足してから朝食に向かう。ナーはパンにワイバーンの肉を挟んだ簡単な料理を準備してくれていた。僕たちもワイバーンの肉と骨の一部を取り分として貰っている。美味しそうな匂いに食欲をそそられた。


「ナー、おはよう」

「おはようございます! 朝食できてます! それと」

「それと?」

「ちょっと相談に乗ってもらって良いですか!?」

「どんな相談なの?」

「えっとですね……」


 ナーが言うには、久しぶりのレベルアップでどんなスキルを取得するべきか悩んでいるようだった。なるほど、そういうことなら僕は適役だな。


「……って、こんな話をジョー様にするのも違うのかもしれませんが」

「そんなことないさ。任せてよ」

「そうですか? なら、朝食をとりながら相談に乗ってもらいましょうかね」


 それから、朝食をとりながらナーのスキル取得の相談に乗った。ワイバーンの肉は鶏肉に似ているな。


 僕のスキルに関する知識の量に彼女は驚いていたようで、僕は得意な気持ちになる。誇らしいというか、鼻が高いとは、こういう気持ちを言うのかもしれない。


 ナーに助言をして、いくらか彼女の選択肢は狭まった。最終的にどのスキルを取得するかは彼女次第だが、役に立てたなら嬉しい。


「ジョー様、ありがとうございます。スキルの取得を決められそうです」

「それは良かった」


 そんな話をしていたところ。


「ジョー、何やら面白いことをやってるじゃないか。見ていたぞ」


 ジンがやって来て、僕を興味深そうに見てくる。じっと視線を向けられると落ち着かない。だけど、悪い気はしなかった。


「面白いって、僕はナーの相談に乗っていただけですよ」

「それが面白いと言っているんだ。お前がそんなに色々なスキルに詳しいとは知らなかったぞ」

「ま、前から興味があって、家の書庫で調べていたんです」


 なかなか上手い言い訳が出来たと思う。偉いぞ僕!


「なるほどな」


 ジンは納得した様子、うまく言い訳が出来たと僕は内心でガッツポーズを決める。


「じゃあ俺のスキル選択の相談にも乗ってくれ」

「うん、って、え!?」

「お前はスキルに詳しいんだろ。よろしく頼む」


 頼まれたら……まあ良いか。頼りにされるのは嫌いじゃないし。


「良いよ」

「そうこなくてはな」


 その後、コボルトたちが道を作るのを兄と一緒に監督しながら、僕は兄のスキル取得について相談に乗っていた。ジンが僕を頼りにしてくれるのは、彼に認められてきたように思えて良い。


 しばらくして。


 昼休憩中、今度はクロとシロが僕の元へやって来た。これは、三度目ともなると予想がつく。スキル取得の相談だな。僕としては望むところだ。


『ジョー、お前たち兄弟が話をしているのを聞いた。兄の言葉は分からないが、ジョーの言葉からスキルについて話しているのが分かった』

『その……あたしたちにもスキルを教えてくれたら……良いなあ、なんて思ってるんす……』


 僕は「良いよ」と返事をして、クロとシロの相談にも乗る。そうすると他のコボルトたちも集まって来て、なんというか僕は自分で思っていた以上に皆から評価してもらえてたんだなって思えて、これまでより、さらに彼らのためにできることをしたい気持ちになってくる。


「全員の相談に乗るよ。慌てないで」


 こうして、この日は一日中、だれかしらの相談に乗る僕だった。とても充実感のある一日を過ごした。


 一日が経過し、朝。


 今日も天気は晴れ渡っている。そろそろコボルトたちとの取り引きで手に入れたワイバーンの鱗と皮の使い道を考えたい。肉と骨だけでなく、鱗と皮も使い道は色々ある。それを考えるのも楽しい。


 ワイバーンの鱗には宝石のような価値があり、皮は丈夫で魔法耐性も高い。ワイバーン一体を刈ることにより、得られるものは大きかった。そのことを考えると、ほくほくした気分になり口元がにやつく。


 今日、僕はナーと共にウィードの町に行く。目的は商人ギルド。そろそろ商人ギルドにも顔を出しておきたい。できることは早めにやっておくに、越したことはない。


「ジョー様、準備はできましたか?」

「大丈夫、準備できてるよ」


 馬車に乗るナーに言葉を返しながら、僕ははやる気持ちを押さえる。馬車の旅は楽しいけど、今日はすぐに商人ギルドへ行きたい。


「では、出発します!」

「行こう!」


 わくわくした気持ちの僕を乗せながら、馬車は動き出した。

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