第5話 始めての冒険者ギルド

 数日が経過した。今、僕とジンは草原を流れる川で水浴びをしていたところだ。身支度を整えてからウィードの町へ向かうことになっている。今、僕はワクワクしてるよ。


「兄さん、もうそろそろ出発しませんか」

「分かった。だがちょっと待ってくれ」


 短パンだけを履いた半裸のジョーはタオルで体を吹きながら答える。線の細い体は白く、まるで女の子みたいだ。僕も似たような姿で、もしかしたら僕たちの姿は魅惑的に見えるのかもしれない。なんてことを考えたり。


 一応、護衛にフェンリルのミーミーを待機させている。この辺の魔物なら軽く返り討ちだ。心強いね。

 

「ナーが朝食を準備してくれている。それを食べてから、行こう。ジョー」

「了解」


 水浴びと着替えをを済ませ、僕はジンやミーミーと共に、ナーたちの元へ向かう。その後、朝食を済ませ、ナーに髪を解いてもらったりして一時間ほどが経過した。最近僕たち兄弟は短パンにシャツ、ポニーテールという格好だ。スカートより動きやすい、と僕は思う。


 僕からコボルトたちに今日はお休みだと伝えてある。クロたち一部のコボルとは草原へ狩りに出掛け、残りのコボルトたちは昼寝をして過ごしている。彼らの武器は石や木で作られていて、狩りにも、身を守るのにも心もとなく思える。その辺も近いうちに改善したい。


 石畳の道は順調に作られている。この調子なら、数ヵ月で草原の道は完成しそうだ。コボルトたちの労働には報いなければ。


 そのためにも、クエストをこなしながら経験値と金を集めたい。何だってあればあるほど良いのだ!


「……さ、兄さん。そろそろ行きましょう!」

「急かすな。まったく、せっかちな弟だよ……ナー、馬車を出せ」

「はい、馬車を出します」


 馬車を出してウィードの町へ向かう。僕たち兄弟とナー、それとミーミーが一緒だ。皆で一緒の馬車旅は楽しいね。


 しばらくして。


 僕たちは目的の町に到着し、冒険者ギルドにやって来た。ギルドの扉を開くと、そこには何人もの男女が集まっていた。今居るのはざっと二十人ほどか。木製の壁に囲まれた空間はなかなか広い。なんというか、ワイワイした雰囲気は好きだ。


「お、可愛らしいお嬢さんがたの登場だ」


 そう言ったのは、がたいの良いスキンヘッドの男だ。そいつは僕たちに絡んでくる。うへえ、面倒くさ。


「おう、あんたらは冒険者か? 依頼人か?」

「僕たちは冒険者になりに来た」


 僕が答えると、男は下卑た視線を向けてくる。ひえ、身の危険を感じるよ?


「クエストを受けるより、俺と楽しいことをしないか? きっと喜ばせてやるぜ?」


 この発言はエルダーファンタジーで女性主人公を作った時に聞けるものだが、なるほどブラッド兄弟はゲーム的には女性判定になるのかもしれない。男の娘だからね。


 さて、どうしたものかと僕が考え始めるのとほぼ同時にミーミーが動いた。強力なタックルが男を襲う。もろにタックルを受けた男は吹き飛ばされ、壁に叩きつけられた。あー、死んでなければ良いけど……死んでないよね?


 ミーミーが「うぉん!」と鳴く。吹き飛ばされた男は白目を向いて気を失っているようだ。死んではいないようで安心。


 ジンやナー、周囲の人々は驚いた顔をしているが、僕はさっさと冒険者登録を済ませてしまいたい。というわけで受付嬢さんの元へ。受付嬢、やっぱりその存在だけで華があるよね。


「受付嬢さん、冒険者登録をお願いします」

「は、はい!? で、ではサインをお願いします」


 受付嬢さん、動揺してるなあ。


 ともあれ、冒険者登録はジンたちの分も含めて完了。銅で出来たカードを受けとる。これで僕たちはブロンズランクの冒険者だ。初期のランクとはいえ、冒険者になったのだと思うと誇らしい。


「冒険者ギルドに寄せられた依頼は、ギルドのクエストボードをご確認ください」

「分かりました。確認してきます」


 早速ギルドの壁に飾られたクエストボードを確認する。そこには何枚もの依頼書が留められていた。依頼は色々ありそうだ。目移りしちゃいそう。


 僕の横にジンが立つ。彼も僕と同じで、せわしなく視線を動かしているな。


「薬草採取から、魔物退治、遺跡調査なんて依頼もあるな。ジョー、どんな依頼を受けるつもりだ?」

「そうですねえ、ここは悩みどころです」


 そんな風に話をしていたところ、ミーミーはクエストボードの下の方にある一枚の依頼書をじっと見ている。お、やっぱりそれが気になるよね。ゲーム知識のある僕は分かっていたよ。分かっていたとも。


「ミーミー、その依頼書が気になるのかい」

『ちょっと、ちょっと気になっただけ。それだけ』


 ミーミーは嘘をついている。これは彼の以前の飼い主の敵を打つことのできる依頼。彼は敵を打ちたい一方で、新しい主人を危険にさらしたくはないと思っている。ういやつだ。


 でも、僕はこの依頼を受けたいと思う。リスクはあるがリターンはでかい。そしてリスクも、コボルトたちの助けがあればだいぶ減らせる。勝算のある勝負が僕は好きだ。


「兄さん、この依頼」


 僕はその依頼書を剥がして兄に見せる。依頼の内容はワイバーン討伐だ。やってやるぞ!


「ワイバーン……竜種の中では最も小型で最も弱いが、それでも竜だぞ。危険だ」

「兄さん、僕たちのパーティーにはミーミーが居ます。コボルトたちとの同盟もあります」

「それはそうだが……」


 ミーミーがフェンリルの子であることは、すでにジンたちに伝えている。最初は半信半疑の様子だったが、ミーミーに走り回らせたり、跳び跳ねさせたり、その身体能力を披露させると、ただの犬ではないことを理解してもらえた。あの時のジンの驚いていた顔、今思い出しても面白い。


「しかし、ジョー。コボルトたちは戦闘に手を貸してくれるか?」

「ええ、ワイバーンの肉や骨を渡すことを条件にすれば手を貸してもらえるはずです。そうすれば三十対一の戦闘になります」

「勝ちの目は十分にある……か」


 ジンは腕を組んで悩む。しばらくして、彼は「良いだろう」と言って頷いた。そうこなくては!


「リスクはあるが、リターンも大きい。クエストは受けてから達成するまで日数を書けても良いとある。コボルトたちと手を合わせて、このクエストをこなすぞ」

「よし、やりましょう!」


 話を進めていたところ、ミーミーが僕の足に体を擦り付けてきた。もふもふした毛が気持ち良い。僕が彼を見下ろすと、彼は僕を見上げていた。


『本当にその依頼を受けるの?』

「受けるよ。君が居れば、きっと達成できる」

『僕……頑張るよ!』


 ミーミーはやる気を見せている。今度こそ飼い主を守ろうとしているのだろう。その健気さに、暖かい気持ちになった。


「……一緒にワイバーンを倒そう!」

『うん! ご主人!』


 僕たちはワイバーン討伐の依頼書を受付嬢さんの元へ持っていく。彼女は驚きつつも、依頼を受理してくれた。変に断られたりしなくて良かったよ。


 その後、僕たちは食料と低級ポーションを買い込み、フェンリル草原の拠点に戻る。拠点と言っても作りかけの道があるだけなのだが、コボルトたちが集まっているので遠目にも分かる。昼寝している彼らはとても可愛かった。


 僕たちが拠点に戻ってから、ほどなくしてクロたちが狩りから戻ってきた。羊を一頭狩ってきたらしい。たぶんだけど、大物だ。美味しいのかな?


「……見事な羊だね。ところで君たちに頼みがある」

『頼みだと?』

「そう、頼みだ」


 僕たちはワイバーンの討伐依頼のことをコボルトたちに伝えた。討伐したワイバーンの肉と骨を九割持っていく代わりに、討伐を手伝ってほしいと交渉する。返事は期待どおりのものだった。


『分かった。交渉成立だ。ワイバーンの討伐を手伝う代わり、肉と骨は九割持っていく。それで良いな?』

「うん、それで構わない」


 コボルトたちの武器ではワイバーンに大きなダメージは与えられないだろう。それでも戦力として頼りにする。


 僕はジンに顔を向けた。今回は彼も頼りだ。


「兄さんも、よろしく頼みますよ。兄さんの陣地形成のスキルには期待しています」


 僕の言葉にジンは、にっと笑って答える。


「俺のスキルは陣地内の味方を強化することもできる。任せておけ」


 ゲーム本編ではジョー・ブラッドを強化するだけの残念なスキルの使い方だったが、今回はミーミーやコボルトたちを強化できる。その力もあれば、負ける可能性はだいぶ低い。なら、ここは勝負所だ。


 びびるんじゃないぞ、僕!

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