第3話 コボルトたちと同盟を結ぶ
エルダーファンタジーには同盟というシステムがある。特定のキャラクター陣営と交渉することで、その陣営を味方にすることができるシステムなのだ。使えるものはなんでも使わせてもらうぞー。
同盟を結ぶと、どんな得があるかというと、同盟を結んだ相手からの攻撃を受けなくなる。さらにプレイヤーが得た経験値と同じ量の経験値が、同盟を結んだ相手にも入るのだ。同盟を結べるのはゲーム中で一つのグループに限られるが、プレイヤーが好きな陣営を強化できる。エルダーファンタジーのプレイヤーたちには、なかなか好評なシステムだった。神ゲーのシステムに感謝!
『同盟を? 俺たちと結ぼうというのか』
「そうだ。君たちと同盟を結びたい」
『……お前たちは俺たち草原のコボルトと同盟を結ぶに足る相手か?』
コボルトのクロは僕たちに値踏みするような視線を向けてくる。彼はしばらく考えているようだ。次の言葉を待っているだけだと落ち着かない。
ここは僕から一押しが必要かな?
「同盟相手としては悪くないはずだ。僕は君たちに安定した食料を供給できる。君たちと人との間に立って通訳をすることも可能だ。ただ、僕には武力が足りず、助けが必要だ。双方関係を結ぶのに、これほど良い条件はないだろう」
『ふむう……』
クロはもう少し考えて。
『良いだろう。お前たちと同盟を結ぼう』
【フェンリル草原のコボルトと同盟を結びました】
頭の中に声が流れ込んできた。なるほどアナウンスというわけか。
首を縦に降った。交渉成功だ。ちなみにクロが言う、お前たち、とは僕とジン、それからナーのことだ。ゲーム的に考えると僕たちはこの三人でパーティーを組んでいることになるからな。今は仲間が居るだけで頼もしい。僕はめちゃくちゃ弱いからな。
「……兄さん、話はまとまりました」
「そのようだな。奴らからのプレッシャーが消えたし、頭の中に声も聞こえてきた。まさかコボルトたちと同盟を結んでしまうとはな。良くやったぞ。ジョー」
「どうも。僕はこれからもっと活躍するたもりですよ!」
「そうか。今回の活躍を見て、お前に対する評価を改めないといけないな」
ジョーが腕を上げ手を開く。そうして、何かを待っているようだった。その意図はすぐに分かった。それは、なんか照れるね。
僕も腕を上げ手を開いた。そして、僕とジョーの二人でハイタッチ! やっぱりちょっと恥ずかしい。
さて、そろそろナーの準備も出来たろう。僕は彼女に声をかける。ナーは話しやすい雰囲気があるから好きだ。
「ナー、食料の準備は出来たかい?」
「はい、ジョー様。準備できました!」
「では早速コボルトたちと昼食をとろう。そろそろ良い時間だろう」
「そうしましょう!」
それから、僕たちはコボルトたちと一緒に昼食にした。とはいえ、僕たちは生肉を食べるわけにはいかないので、三人分だけ肉を焼いて食べた。肉も良いけど、パンも食べたいよね。コボルトたちはパン大丈夫だろうか。大丈夫ならパンが食べたい。
腹ごしらえも終わり、コボルトたちも交えて今後の予定を話し合う。とりあえず、コボルトたちには道を作ってもらうとして、その監督はジンにしてもらう。ジンは基礎ステータスの技量と知力が高く、ジョブは軍師であり陣地形成スキルを持っている。このスキルは道作りにも役立つはずだ。期待してる。
ジンは魔物の言葉は分からないので、彼からコボルトたちへの指示は僕が通訳しておく。面倒だけど、僕の役目だ。やらないとね。
僕はナーと共に近くの牧場や町へ食料の買い出し。その他雑務をこなすことになっている。町へ行くというのは、ワクワクするよね。
近くの町へ買い出しに行くタイミングでぜひとも、やっておきたいイベントがある。それで強力な戦力が手に入るので、僕の安全を確保すると共に、これからのクエストクリアに役立つはずだ。
コボルトとの交渉は穏便に済ます方向で落ち着いたが、どうしても戦闘を避けられない状況もきっとある。そんな時、僕は味方を頼るしかない。自分の非力を恥じたりはしない。僕は僕にできる立ち回りと準備をするのだ。
正直ジン自体は戦力としてそれほど期待はできない。バフキャラではあるんだけどね。彼の能力が輝ける状況を僕は作りたい。貴重な戦力は全て有効に使いたい。
とはいえ、今はできることをするしかない。この草原を拠点として、できる限り戦力を増強する。どんな驚異が迫っても戦えるようにしておかなければ、ならないのだ。僕の安泰な生活のために!
「……ジョー……ジョー! 聞いているのか?」
気がつくと、すぐ近くにジンの顔が迫っていた。うん、ほんと顔は良いなこいつ。今は僕も同じような顔をしているが、どうも慣れない。
ジンが顔を離したタイミングで僕は訪ねる。なるべく、穏便に。それが僕のポリシーだ。
「どうしたんです。兄さん」
「話はまとまった。俺やコボルトたちはすぐに動くが、お前はどうする? 旅で疲れているなら、まだ休んでいても構わないぞ」
「僕は大丈夫。ナーが動けるなら、すぐに食料の買い出しに向かいます」
「頼む。それと、俺は魔物とは話せない。作業を始める前に俺の説明をコボルトに通訳してくれ。そうしたら、俺は奴らが逃げ出さないかという問題にだけ集中できる」
「任せてください。そういう時のための僕だ」
ジンは僕の言葉を聞いて口許を緩めた。弟の変化を喜ぶみたいに。
「少し見ないうちに、頼もしくなりやがって」
ジンはまた僕に寄ってきて、僕の背中を軽く叩いた。彼なりの信頼の表現だろう。背中を叩かれても、悪い気はしなかった。
「もし、お前が出ているうちに、俺とコボルトたちとの間で困ることがあれば、念話水晶で連絡をとる。いつでも出られるようにしておけよ」
ジンが言う念話水晶とは、遠く離れたところでも対となる水晶を使って会話することのできる魔道具。電話みたいなものだ。便利だね。
念話水晶はそれなりに貴重品だ。無くしたりしないよう注意しなければ。いや、ほんと。
「……よし、ジョー。そろそろ始めよう」
「了解」
僕はジンからコボルトたちへの作業の説明を通訳し、それから準備のできたナーと共に、馬車で近くの町へ向かう。馬車の旅は良いものだ。おしりが痛くなるが、それも含めて馬車が好きだよ僕は。
草原の町、ウィードまでは、ナーが言うにはここから一時間ほどだという。ドライブの後部座席みたいな気分……とはちょっと違うか?
道中、とくに魔物とは遭遇しない。まあ、遭遇したとしてもナーは強い。彼女は僕やジンよりレベルが高く、コボルトくらいの魔物なら軽くあしらえる。そんな彼女が一緒に居てくれるのは心強いね。
コボルトたちの草原へ来るのとは別の道を通る。途中、エルダーファンタジーの作中でも有名なランドマークを見つけた。
「ジン様! こいつは大きいですよ!」
「ああ、僕にも見えてる」
それは四メートルほどもある巨大な生物の骨。ゲームではフェンリルの骨と呼ばれていた。生前の僕が読んだ設定資料によれば、これは間違いなく老いたフェンリルの亡骸なのだという。なかなか見ごたえがある。
ここ、フェンリル草原は、この骨にちなんだもの。かつてこの土地では巨大な銀狼と人との間に大きな戦いがあったという。探せば、その戦いのあとを見つけることもできるはずだ。ま、面倒だからやらないけどね。
老いたフェンリルはこの土地に骨を残し、その子孫は今も生きている。時の流れを感じるね。
ゲームでは銀狼の子孫を仲間にすることができる。エルダーファンタジーでも最強クラスの戦力に育つ強力なNPC。絶対に仲間にしたい!
ナーやジンには言っていないが、僕はフェンリルの子を仲間にすると決めている。テイムすることができれば、それだけで戦力大幅アップ! 未来も明るい! はず!
もちろん、フェンリルの子を仲間にする以外にも戦力の増強については考えている。コボルトたちとの同盟も戦力増強計画に含まれる。僕は戦力強化のためにできることは惜しまないよ!
せっかく生まれ変わったんだ。簡単に死ぬつもりはない。そのためには戦力が必要だ。僕が頼れる強力な戦力が。
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