第6話 歴史の話
精神疾患者が辿ってきた歴史。
今から、たった150年前の事。
ここ、日本での話。
精神障害者は狂人として扱われ、取り締まりの対象とされていた。
「路上の
キチガイ。
カタワ。
明確な差別用語だが、自分の父親は、私が子供のころ、普通に使っていた言葉だ。擁護するわけではないが、多分、その言葉が差別用語だという意識すらなかったように思う。
このことから、たった、50年前までは、障害を抱える者は差別されて当たり前という風潮があったことが推測される。
障害の歴史を語る上で、避けては通れないのが差別との戦い。
そんな中で【ノーマライゼーション】というキーワードがある。
1951年、デンマークの知的障害者親の会の発足を機に、その会の3つのスローガンにデンマークの行政官のN・E・バンク-ミケルセンが共鳴し、文章化を進め、今から65年前の、1959年に、「どのような障害があろうと一般の市民と同等の生活と権利が保障されなければならない」という考え方が提唱され、法律化されたのだ。
北欧で端を発したこの素晴らしい考え方は、世界中に広まっていき、日本では、1981年『国際障害者年』をきっかけに認識されはじめ、これまでに政府が施策を実施してきた。
それまで犯罪者として扱われ隔離されてきた隣人を、急に、一人の人として接しようと言われても、すぐに納得できないのは分かる。だが、それでも40年以上、この日本にもノーマライゼーションの理念は在ったのだ。
在り続けているのにそうはなっていないのは、認識されていないのと、それ以上に長い歴史が邪魔をしているのかもしれない。
この理念において、障害を抱え、社会的な少数派として、ともすれば、排除されがちで人としての当たり前の権利すらも認められなかった人々であっても、人間らしい当たり前の(ノーマルな)生活が保障されて当然だと言っている。
弱者、守るべき者とされていて、ともすれば人権すら危うかった障害者にとって、大きな転換点と言える。北欧が障害者福祉先進国といわれる所以だ。
ただ、どんな素晴らしい考え方も、知らなければ存在しないのと同義なので、ぜひ、知って欲しい。
みんな人。
それだけだから。
まだまだ、精神疾患=甘えという認識の方たちが一定数いる。
正確には、精神疾患は、脳機能の障害だ。
今でこそ、そういった誤解は、徐々に解かれつつあるが、それでも、まだまだ、私たちは偏見の目に晒される。
なぜ?
見えないから。
単純に、精神や発達に障害を抱える方の苦労や苦悩は周りから見えづらいのだ。
だけど、その他大勢となんか違う。
それが、最大の障害でもある。
だからと言って、知的や身体に障害を抱える方の苦労や苦悩が重いとか軽いといったたぐいの話ではないことだけは明記しておく。
斯く言う私も、この業界に入らなければこの理念には出会ってなかった。
出会って10年。そんなもんだ。
しかし、兎にも角にも、
他者と大きく違う少数派(マイノリティ)が生き辛さを感じている今の社会は、まだまだ発展途上で、大人の階段を上ってはいるが、子どもなのだ。
ここで少し、私の話。
「そうは、見えないよね」
たまに言われる。
「一番ひどい時を見せてないからね」
まぁ、誰にも見せたくないんだけど。家族には見せざるを得ないので、苦労を掛けます。ごめんなさい。
「年金貰えて良いよな。俺も精神障害者になりたいわ」
近しい友人にネタにされる。その場では笑い飛ばすが、ネタだとわかっていても、
「そんなん言うなら変わって欲しい」
と、思う。
その友人とは、高校以来、25年来の付き合いだ。彼は、本当に私の事を心配し、手を差し伸べてくれる数少ない私の誇れる友人だ。
彼といると、私の人生において一番安定していた、高校生に戻ったような不思議な感覚で、楽しい。
そんな彼の「お前は、普通じゃない?」という、優しさも垣間見えるからこそ、25年、四半世紀以上も友人関係でいられるのだが、言葉として強いので一例として挙げさせてもらった。
ここまで、私の主観で障害者の歴史を紹介してきた。
多くの偉人が歴史に名を残してきたが、結局は、名もなきその他大勢が歴史を作っている。私もただのその他大勢で何の力も持ち得ないけれど、歴史を作る一人としてその足跡をここに残す。
こうやって書くと、何かカッコイイ。
だからと言って、障害者を優遇してくれと言う気はない。ただ、あなたたちと同じ人間だと認めてもらえさえすれば、より良い社会になる気がしてならない。
人は、見えなものの存在を認識できず、知らないものには、恐怖を覚えるらしい。
ノーマライゼーション、そんなに怖い理念ではないので、ここで知ってくれたなら嬉しい。更に言うと、この理念に共感し、こんな考え方を出来た方がカッコいいよねって、あなたの大切な誰かにシェアしてもらえるともっと嬉しい。
この点がいつか、歴史の転換点になる日が来るかもしれない。
来ないか。
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