第13話 正体あらわし……発砲!?


 桐生の奴はやはり天才かもしれん。


 煙の中でも人を感知し、人の形を縁取ふちどったように赤い線が目の前に現れる。

 どこにいるのかが一目でわかった。


 ゆっくりと近づいていき、佐々木やリリーでないことを確認すると、背後から思いっきり蹴りをかました。


 こう見えて俺は空手の有段者だ。何段かはご想像におまかせする。


「ちっ、誰だ、てめえ」


 敵がこちらに気づき、襲い掛かってきた。

 それを華麗に避けて一本背負いを決める。


「ふん、俺にそう簡単に勝てると思うなよ」


 隣で影が動いた。


 俺は身構える。

 煙の中から出てきたのはゴーグルをかけた佐々木だった。


「おう、無事だったか」

「……俺はこう見えて、結構強い。大丈夫だ」


 こいつが言うと、ちょっと怖い。

 俺でも佐々木には勝てる気がしなかった。


 俺と佐々木は最強コンビとなり、次々と敵をなぎ倒していく。


 佐々木は素早い身のこなしで敵を翻弄ほんろうし、相手の急所を突いて倒すという所作しょさを淡々と繰り返していく。

 やっぱりこいつだけは敵にまわしたくないな。少し敵に同情してしまう。


 かなりの数の敵を倒したところで、煙が晴れていき辺りの様子がわかってきた。


 少し離れたところでリリーが一人で突っ立っている。

 こちらに気づき駆け寄ってきた。


「ご主人様、ご無事ですか」

「ああ。おまえ、大丈夫だったのか」

「はい。私は最強アンドロイドなので」

「ああ……そう」


 もうこういうやり取りになんの驚きもなかった。


 そういえば桐生がリリーは最強格闘ロボットだとか騒いでいたっけ。

 心配することはなかったな。


「お、おまえらはいったい何者だ!」


 煙が完全に消えたところで、それぞれが丸見えになっていることに気づく。

 辺りには俺達に倒された男たちが地面にしている。

 立ってこちらを見つめる男が二人。


 川野と山本が突然現れた俺達を目を丸くして見つめていた。


 すると隠れていた桐生が颯爽さっそうと現れ、胸を張って川野達に向かって叫ぶ。


「はっはっは。我らは正義の味方、……何にする?」


 桐生は俺の方へ振り向き、微笑んだ。


 本当にこいつの心臓には毛が生えているのではないかと疑ってしまう。

 こんな状況で楽しんでやがる。


「あのな……」


 俺はあきれながら桐生を押しのけ、川野たちを睨んだ。


「俺は探偵だ。藤崎沙羅さんを探してここへ来た。

 おまえたちの企みを聞いてしまったからには見逃すわけにはいかない。

 覚悟しろ!」


 俺は何を言っているんだ。こんな正義のヒーローみたいな……。

 顔から火が出そうだ、穴があったら入りたい。


「智也! もうやめて!」


 沙羅が叫んだ。

 川野は沙羅の顔を見ると動揺した。


「沙羅……、うるさい! おまえに俺の何がわかる! もう放っておいてくれ」


 川野は苦しそうに表情を歪める。


「私はどんなあなたでも好き! でもこんなことはやめて、昔のあなたに戻って!」

「うるさい! 嘘つくなっ。本当はこんな俺なんかどうでもいいくせに。

 どうせおまえも俺を馬鹿にしてるんだろ、離れてくんだろ!」

「何を言ってるの!」

「沙羅さん、今の彼には何を言っても通じない」


 俺が沙羅を制すると、山本が笑った。


「ははっ、こりゃ、傑作けっさく

 いいねえ、愛が溢れた人情劇。

 ……だがな! 俺はそういうの吐き気がするほど嫌いでねえ!」


 山本が川野の首元にナイフをあてる。

 突然の出来事に川野は驚きを隠せない様子で山本を凝視している。


「やめろ!」

「ふん、こいつを助けたかったら、俺の言うことを聞け!」


 山本は本当に最低な奴だった。

 仲間である川野を人質に取りやがった。


「山本さん! なんで……俺は山本さんのこと」

「うるせえ! おまえがあんな女連れてきたせいで計画が狂ったじゃねえか!

 だからさっさとあんな女始末しときゃよかったんだっ」


 山本の言葉を聞きながら、川野は悲しげに顔を歪ませた。


「おまえなんてただのこまだ。

 俺の計画には使い捨ての駒がたくさん必要だったからな。

 でなけりゃ、おまえなんて仲間にするかよ。この役立たずの能無しが!」

「……山本さん、そんなっ」


 川野は涙を浮かべた。彼は心から山本を信頼し尊敬していたのだ。

 哀れな奴だと少し同情してしまう。


「やめて! 智也を悪く言ったら私が許さない!」


 沙羅は山本の方へ走り出す。


「沙羅、やめろ!」


 川野が叫ぶと同時に発砲音はっぽうおんが鳴り響く。

 山本が隠し持っていたピストルを沙羅に向け発砲したのだ。


「沙羅あっ!」


 川野の悲痛な叫びが響いた。

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