第9話 貴重な手がかりゲット


「かわの……ともや、っと」


 パソコンに向かい、名前を検索する。


 沙羅の恋人のことがどうしても気になった俺は『マリー』のママに電話して、彼の名前を聞き出した。


 沙羅の恋人の名は、川野かわの智也ともや


 さっそく手がかりを探すために、ネットサーフィンを開始。


 手始めに、名前を入れてみたが、ビンゴだ。


 彼のツイッターを発見した。

 そのツイートを辿っていくと、どうやら運送会社に勤めていることがわかった。


「黒川運送ね……」

「ここ何?」


 いつの間にかパソコンの画面を覗いていた佐々木がつぶやく。

 もうすでに女装はいており、もとの普通のイケおじだった。


 少々残念な気分になる。

 佐々木の女装はなかなかのもんだった。美女と付き合って一緒に暮らしているような気がして気分がよかったのに。


「沙羅の彼の職場。気になるから明日行こうと思って」

「……俺も行く」

「もちろん、私もお供いたします」


 気づけば反対側からリリーも覗き込んでいた。


「まあ、いいけど。佐々木……まさか、また泊まるのか?」

「ああ」


 そう言うと、佐々木はさっさとソファーへ戻り、小説の続きを読み始めた。


 最近、佐々木はちょくちょくこの事務所で寝泊まりするようになった。

 彼の家族のことや家のことなどは一切聞いていないので、どうなっているのかわからない。


 しかし、よほど居心地がいいらしい。


 いつもここのソファーでそのまま寝てしまう。

 彼が寝入ってしまうとリリーがそっと毛布をかけているところを俺は何度か見ている。


 もしかして、リリー目的か?

 いや、でもアンドロイドだし。


 佐々木はよくわからない、不思議な存在だった。


 最初は何を考えているのかわからなくて不気味に思うこともあったが、今ではそこが面白いというか、見ていてあきない。

 いつもは黙っているのに急に確信めいたことを言ったりするから、本当はすごく頭の切れる奴なのではないかと思っている。





 次の日、俺と佐々木とリリーは黒川運送へと向かった。


 桐生は約束していたわけではないから、書置かきおきをドアに張り付けておいた。

 あいつのことだ、どうせふいにどこからか現れるだろう。


 黒川運送に辿り着いた俺達は、まず事務所へ足を運んだ。


 事務員へ説明すると少し怪しむ様子を見せたが、なんとか協力してくれるようだ。

 佐々木とリリーを事務所の外に置いてきたのがこうそうしたのかもしれない。

 二人が一緒だと誤解を招き、警戒されることが多い。


 川野は最近シフトを減らしており、仕事に滅多に顔を出さなくなってきたという。

 彼はアルバイトとして雇われており、自由にシフトを選べるようだった。入った当初ははりきって毎日のようにシフトを入れていたが、最近はほとんど顔を見なくなったそうだ。


 事務員は川野と親しくしていた従業員の木村きむらを連れてきてくれた。


 ごく普通のどこにでもいそうな青年だ。


 木村は軽くお辞儀をして外にあるベンチへと誘導してくれる。

 外へ行くと、女装姿の佐々木とメイド姿のリリーがいたので、彼は酷く驚いた表情をして俺を見た。


 はいはい、もう慣れましたよ。


「川野のことですか?」

「ええ、最近何か様子がおかしかったりしていませんでしたか?」


 木村は天をあおいで考え込む。


「うーん、最近はあんまり会ってないからなあ」

「川野さんの彼女のことはご存じですか?」

「ああ、彼女一度だけ見たことあるよ。川野に弁当持ってきてた。いい子そうだったな。その子が何?」

「彼女、行方不明なんです。何か手がかりがないかと思い訪ねてきました。

 もしよろしければ、川野さんの住所教えていただけませんか?」


 これはけだった。いくら仲がいいといっても住所は知らないことが多い。

 しかし、事務員に聞いたところで個人情報だからと教えてはくれないだろう。


 今は一刻を争うかもしれないのだ。手段にこだわってはいられない。


「それは大変だ。確か、俺のスマホにあいつの住所入ってますよ。待っててください」


 木村は急いで走っていく。

 なんてラッキーなんだ。そして、なんていい奴なんだ。


 小さくガッツポーズをして、自分の運の良さを喜ぶ。


 ニヤついている俺の顔を佐々木とリリーが不思議そうに覗き込んできた。

 俺は恥ずかしくなり一つ咳払いして、二人から顔を背ける。


 木村が戻ってくると、スマホの画面を開いてこちらへ差し出した。

 俺は自分のスマホで記載されている住所を撮影する。


「ありがとうございます。すごく助かります」

「いえ、川野のこと俺心配してたんですよ。前は仲良くしてたんですけど、半年くらい前からだんだん疎遠そえんになっていって。

 仕事場で会っても素っ気ないし。ここ三カ月、だんだん彼は仕事も休むようになっていて。顔も見れないし、話しもできないから、あいつが何を考えているのかわからなくて。

 ……彼女さん無事だといいけど」


 木村という男は本当にいい人間だ。

 心から川野を心配していることがわかる。


「おまえ、いい奴だな」


 佐々木がぽつりとつぶやくと、木村は驚いた表情で佐々木を見つめた。

 今まで一言も発していなかった美女がいきなり声をかけてきたので戸惑っているようだった。


 俺も驚いた。

 佐々木の声は女性のものになっていたから。


 こいつ女装もすごいけど、声も変えることできるのか。


 これからはカメレオン佐々木と呼ぶか。


「木村様は素敵です」


 リリーがその可愛い笑顔を向けると、木村の顔が真っ赤に染まった。


 それはそうだろう、リリーはそんじょそこらのアイドル顔負けの可愛さだからな。


「い、いやあ、なんだか素敵な女性に囲まれてうらやましいですね」


 木村が俺に視線を送る。

 俺は複雑そうな表情で頷くしかなかった。


 だって、本当はこの二人……男とアンドロイドだから。

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