第28話
クライヴを見送ったジルはダイーズに目を向けた。
「ボクたちはどうしましょう?」
「マメの行きそうなところは見当がつかないゲロ」
彼は娘のことを何も知らないらしい。全く役に立たなそうだ。自分の父親と同じだな。……晴夏の記憶にある父親の姿が浮かんで消えた。セフィロスの父親は誰かもわからない。
「まずは、友達のところを訪ねましょう」
マメの行き先に見当がつかないという父親に、そう提案した。
「友達ゲロ?」
ダイーズが首をかしげた。
「いるでしょ?」
「村の者たちは、みんな友達ゲロ」
なんてマヌケなの!……ジルは「もう」という一言で憤りを抑えた。
「その中で、特に親しくしている人は誰? 一人や二人、特別な人がいるでしょ?」
「なら、アズキゲロ」
バカなの?……ため息をかみ殺す。
「家族はのぞいて、他には? 子供のころからよく遊んでいた人がいるはずよ」
「マメは一人遊びが好きだったゲロ。畑仕事はよく手伝ってくれたゲロロ。とても良い子ゲロ」
「もう……。分かった。それじゃ手当たり次第に当たっていきましょう」
二人は村人の住まいはもとより、風車小屋まで訪ね歩くことにした。
「ゲロゲロ。うちのマメはおらんゲロロ?」ある家ではそう尋ね、「マメをみなかったゲロロ?」別の家ではこう尋ねてマメを捜し歩いた。そうして四十軒ほど尋ねたころには月も森に隠れ、家々の明かりも落ちて訪ね歩くのも難しくなった。ダイーズは探し続けたいと言ったがジルは制した。
「いったん帰ってみましょう。マメさんが帰っているかもしれません」
「ウーン……ゲロ」
彼は渋々応じた。
集落に戻り、まずゲストハウスを訪ねた。クライヴたちはまだ戻っておらず、マメの姿もない。
「自宅に戻っているかもしれないですよ」
「だといいゲロ」
二人はダイーズの家に戻った。
「ダイーズ、マメはゲロロ?」
ドアが開くと同時にエダが駆け寄ってくる。彼女の肩を抱きとめ、彼は首を左右に振った。
「マメェ……」
娘の名を呼び、エダが崩れ落ちるように座り込んだ。
「まだ天使さまと勇者さまが森を捜索しているゲロ。望みを捨ててはいけないゲロ」
ダイーズは妻を抱き起し、寝室へ連れて行った。
「マメ姉さんは、何処へ行くつもりケロ……」
アズキの沈鬱な声に、ジルは答えを持たない。もしマメの身に何かがあって帝国へ行くことができないことになったなら、代わりは誰が務めるのだろう? もしかしたら。……姉を思うアズキの顔を見るのが辛かった。
ジルはゲストハウスに戻り、不安な夜を過ごした。アズキやジルの両親はより不安だったに違いない。当然ながら、朝日が昇っても彼らの不安が解消することはなかった。マメもクラウドもトルガルも戻ってこなかったのだから。
早朝、クライヴが戻った。彼の頭の上でトルガルが寝ていた。
「マメは?」
クライヴが首を振るとトルガルが頭の上から滑り落ちた。仔ブタは床に落ちる寸前、パタパタと羽を動かして宙に浮いた。
「そう。……どこに行ったのかな?」
「ブヒッ?(はて)」
「分れば苦労しない。一晩中、イロカボチャやヒトカブトと戦う必要などなかった。……自宅には戻っていないのか?」
彼は大きなあくびをした。
「そうだ。行ってみる」
腰を上げると彼が言った。
「ずいぶん、気をつかうんだな」
ブラを借りた義理がある。……ジルは「フン」と鼻を鳴らしてゲストハウスを後にする。
帰っていてちょうだい!……念じながら、小走りでマメの家に向かった。
――ギシギシ――
階段板が弱弱しい音を上げた。
「おはようございます」
「あぁ、ジルさんゲロ……」
エダの力のない声。それでマメが帰っていないことが分かった。
「クライヴさんの方はどうゲロ……」
立ち上がったダイーズの赤い目が光った。
「今さっき帰って来たのだけど……」
声がつまった。それで彼は察したのだろう。
「そうゲロロ。森にはいなかったというゲロ」
彼は膝から崩れるように座り込んだ。
マメさん、どこにいるの? ボクはどうしたらいい?……ジルも座り込んだ。
「村長に頼んで、村ぐるみで探してもらおう」
ドアの前にクライヴがいた。頭にトルガルが乗っている。
「勇者クライヴケロロ!」
泣きはらした瞳のアズキが彼の懐に飛び込んだ。彼がよろけて尻もちをつく。トルガルは元居た頭の上の位置に浮かんでいる
ジルは驚き、倒れこんだ二人から目を離せなかった。
「ダイジョブゲロロ?」
エダがクライヴの背中を支え、抱き着いたアズキを押しやった。
「ごめんなさいケロ」
「あ、あぁ。寝不足で……。大丈夫だから」
彼が苦笑する。
「それじゃ、私とダイーズさんで頼んでくる」
「ああそれと、あの生意気な男の子……」
「ビーンね」
「お、それそれ。彼に森の中をもう一度見回ってもらうよう、頼んでくれ」
「クライヴは?」
「俺は、……寝る……」
彼はその場に大の字になり大きな鼾をかき始めた。
「大丈夫ゲロロ?」
ダイーズが案じた。
「ヴヒヴーヴンブゥルブヴヴブゥ(眠い、腹減った)」
「たぶん……」大丈夫、彼は英雄だもの。……ジルは思った。
「こっちは私がするゲロ」
「何か、食べさせてやってちょうだい」
そう頼んで、ジルは家を出た。
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