クロロ村
第14話
パッと視界が開ける。決して広くない、森をくり抜いたような空間が広がっていた。その中央には銀色の風車が回る小屋があり、高床式の住宅が点在していた。住宅の軒先でも小さな風車が風を受けて軽やかに回っている。他に建物らしいものはなく、畑が広がっていた。そこではマメと似た容姿のケロケロ人が働いており、麦やナス、他にも様々な作物が成長していた。
「ここが村?」
「クロロ村の一部ケロ。村には、ここに似た集落が十六ほどあるケロ」
マメは説明し、畑の中の道を突き抜けていく。
畑で働いていたケロケロ人がジルたちの姿を見つけると作業の手を止め、にょきっと立って視線を向けてくる。
「ビーンはどこケロ?」
彼らの中の一人が訊いた。
「やはり獣人の滝の方に行ったケロ。ツリーと一緒だから問題ないケロ。そんなことより、天使さまケロ」
マメは抱いていたトルガルを少し持ち上げて彼らに示した。
「天使、ケロロン?」
「もちケロロン」
マメはそう応じて歩き出す。
畑の中のケロケロ人たちは、通り過ぎるジルたちをぼんやりと見送った。
集落を通り抜けた道は壁のようにそそり立つ樹木の下を通り抜ける。再び森に入ったのかと思いきや、道の先には似たような集落があった。集落をひとつ通り抜けるのに、二十分ほど要した。
「ここが村長の家ケロ」
マメが足を止めたのは四番目の集落の一番大きな家の前だった。トントントンと、木製の階段を上っていく。住宅が高床式なのは、獣や虫の侵入を防ぐためらしい。
「村長さま、ワシはとんでもない方をお連れしたケロ」
ドアを開けるなりそう告げた。
家には玄関などという空間はなく、開けたそこが、家族が暮らすリビングキッチンだった。大理石製の流し台と冷蔵庫が部屋の隅にあり、天井では大きな扇風機が静かに回っている。東南アジアのリゾートホテルの写真を思い出させた。ただ、ゴージャスな椅子やテーブルのような家具はなかった。
「あら、奥様だけかケロ?」
「ホエ、マメではないかゲロゲロ。後ろの変なのは、……あれえ、旧人ゲロロ」
床に座って石臼を回して大豆をすりつぶしていた村長の妻、クロロが目を丸くした。
キュウジン?……ジルは記憶の中に求人という言葉を見つけた。この村は人手不足なのだろうか?
「旧人はどうでもいいケロ。これ、これケロ、ブタ型天使ケロロ」
マメは抱いていたトルガルをクロロに向かって差し出した。
キュウジンはどうでもいいの?……思わず、胸の内で突っ込みを入れた。
「天使?……」
クロロが身を乗り出し、顔をトルガルの前に移動させた。鼻と鼻が接触する寸前である。
「ブタじゃないかゲロ……」
彼女は元居た場所に腰を落ち着かせると石臼を回し始める。
「よく見てケロ。このブタには羽があるケロ。飛ぶケロロ」
「どうせ作り物ゲロ」
クロロはすっかり関心を失ったようで、大豆を挽く世界に沈殿したようだった。
――ズリ、ズリ――
「なんだ、伝説とか言うから緊張していたけど、そっけないな」
クライヴがジルの耳元でささやいた。
「良かったじゃない。帝国と戦わなくて済む」
「……だな」
「残念そうだね」
「まさか、死にたくはないよ」
「でも、忍者の血が騒いでいるんだろう?」
「忍者じゃない、英雄だ」
「それはボクがつけた、ただの看板だ」
「ブタの天使も看板だった。その看板が、俺たちをここに連れてきた」
「それは……」
ジルは言葉を失った。
「……作り物ではないケロ!」
マメはヒステリックな声をあげ、トルガルの白い翼を引っ張った。
「ブヒッ! ヒヒ(痛い、止めて)」
「止めろ、トルガルが痛がっている」
ジルは屋内に駆け込み、マメの手から仔ブタを奪い取った。
――ズリ……――
石臼が止まる。クロロが顔をあげてジルを見つめた。
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