第13話 弟想いな兄貴

== 数ヶ月前 ==


「僕は君を特別視するつもりはない」


 数本の蝋燭が灯る仄暗い部屋の中。


 耽美的な少年とも少女とも聴き取れる声が、部屋に引かれたすだれの先から聞こえてくる。


「あの子がいくら大事にしようとも、その他の蛆と変わりはない」


 どこか苛立ったような声音。


 その内を質問することすら許されていない俺は、土下座をするように頭を下げたまま、上段の間から聞こえてくる高貴なる存在の声にただ耳を傾ける。


「ここで暮らしていくというのなら、君には生まれながらに負うべき義務・・・・・・・・・・・・・がある」


 声はそう言うと、「三茶みーちぇ」と台詞を続けた。


 少しの間を置き、白が濁ったような灰髪と、緑眼を持った少女が襖を開けて部屋へと入ってくる。


「蛆の如き命、…だからって何も成し得ず死なれても困る、三茶みーちぇ、君が彼の面倒をみてくれるかい?」


「わ、私が…でございますか?」


 横に膝をつく少女みーちぇ


 眉を顰めながら俺をチラ見。


 不満、という文字が面から伺え知れる。


「嫌かな?」


「い、いえっ!、竜神・・様の命とあらば!!、謹んでお受けいたします!!」


 俺を横目で睨むことをやめ、さらに深々と頭を下げる三茶みーちぇ


 そんな彼女に、声は「そう」、と何処か冷たい態度で返した。


 そして簾越しからでも伝わってくる突き刺さる様な視線が、再び俺へと向けられる。


「ここでの義務を果たしている限り、僕はあの子の願いを叶え続ける、………文字通り、死ぬ気で頑張るといい」


 声はそれを最後に口を閉ざした。


 部屋から退出した俺はその後、三茶みーちぇという少女から果たす義務についての説明を受け、これから住む家へと案内された。


 タワーマンションもびっくりなほどの高さにある最上階。


 広々とした豪華絢爛な通路を進み。


 その先にある一つの扉。


 上司・・となった三茶みーちぇとそこで別れ、俺はしばらく扉を前に佇んだ。


 この先にいるであろう人。


 俺にとってこの世で一番、大切な人。


 最後にあったのは何年前か。


 喜んでくれるだろうか。


 また一緒に過ごせることを、喜んでくれるだろうか。


 色々と考え出したせいか、一向に扉を潜れない。


 俺は必要なのだろうか。


 兄貴にとって、俺は本当に―――…。


== 現在 ==


「おう帰ったか!、ひっさしぶりにレトロゲーやりたくなったから一緒にやるぞ!!」


 帰宅してすぐ。


 大部屋の方からどったん、ばったんと足音を立てながら両手に昔ながらのコントローラーをもって兄貴。


 俺は時たま脳裏を過る疑問を放り投げ、突き出されるそれを受け取る。


 仕事の疲れはピークを越えた。


 最早、眠気すらない。


 なら楽しんだモノ勝ちだ。


「俺に勝てないからって拗ねるなよ?」


「っは、愚弟なんて小指の先でちょちょいのちょいよッ」


「わらわかしてくれる」


「お前がなッ!!」


 時刻は深夜。


 お互い寝る間も惜しんでゲーム三昧。


 やったのは対戦ゲー。


 読み合いが必勝のカギとなり得る。


 チートの付け入るスキは無し。


 俺はひたすら兄貴をボコった。


 兄貴が涙目になって拗ねるその瞬間まで。


「もう……ねりゅ」


「おやすみ」


「うぃ」


 瞼をごしごしと擦り、寝室へと向かう兄貴。


 俺は欠伸を一つ漏らし、次の対戦に向けて手を抜く練習を朝まで続けた。


 ボコした後はしっかりボコされる。


 ウチの兄貴は負けず嫌いで中々に執念深い。


 延々と同じゲームをやるつもりは無い。


 バレないよう明日は本気で手を抜くとしよう。


 まだまだ兄貴が用意したレトロゲーは沢山ある。


 全てを今月で消費出来るペースで、夜が明けてもモニターの前に噛り付いた。


 その後、朝食を作り、兄貴を起こし、仕事へ向かう。


 睡眠不足と疲労で何度か胃がひっくり返った。


 しかし、帰宅すれば癒しが待ってる。


 癒しがあれば俺は何処までもがんばr……。


「寝ちゃった、………いつもありがとな、おやすみ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る