第12話 寂しがり屋な兄貴
勤務先の仕事場が消滅。
日銭を稼ぐための職を失ったわけではない。
社畜な俺は上司からの指示で、新たな仕事場へ。
以前の仕事場よりも兄貴が居る所から距離があり、環境は更に劣悪ときた。
新しい人間関係の構築に、これまで以上の仕事量。
馴染むまでの間なかなかに苦労しそうだ。
嫌になる、が。
兄貴を養うためだと思うと頑張れる。
「ノルマ達成報告、帰宅します」
時刻は既に深夜。
いい子はとっくに寝ている時間帯。
俺は溜息交じりに
『待てッ!、後方から送られてくる物資の運搬を手――』
右のイヤモニから喧しい女上司の声。
俺はこれ以上まだ仕事を押し付けてくるのかと怒りを覚え、通信を遮断。
今日一日の与えられたノルマは達成済み。
既に契約した拘束時間を六時間は過ぎている。
最低限以上の労働はした。
あとは夜勤帯の連中の仕事のはず。
これ以上、体を酷使して働く理由も義理も無い。
俺は布で綺麗に刀を拭い、左腰の鞘へと納める。
そして、一度、装備の点検とシャワーを浴びに
「ニンゲン、イタ、…ウマソウ、ダナ」
「ウマソウ?……オイ、ワラエル、…オイ、ワラエル」
既に遠隔で退勤するための書類は提出済み。
それでも向こうからワラワラとやってくる仕事。
俺は大きくため息を吐き、刀を抜く。
そして、約一時間ほどボランティア活動に勤しんだ。
なんど聞いても慣れない断末魔。
本当に、耳障りだ。
== 帰路 ==
移動用ポッドから出て煌びやかな通路を進む。
音をあまり立てないよう注意しつつ、我が家の玄関の戸を開け、小声で帰宅。
「ただいま……って、兄貴?」
玄関先のマットの上で猫のように丸まった兄貴。
綺麗に着飾り可愛らしく化粧をしたまま。
ぐっすりむにゃむにゃ、と寝息を立てている。
着替えもせず化粧も落とさず、どうしてこんなところで寝ているのか。
また体調を悪くしたらどうするつもりなのか。
世話が焼ける。
俺は床で丸まるニャンコを起こさないよう抱きかかえ、兄貴の寝室へ。
ふかふかベッドの上に優しくおろし、寝苦しくないよう外装部分の衣装を脱がす。
ウェットティッシュを背負っていた鞄から取り出し、薄く化粧が施された女神な寝顔を傷つけないようフキフキ。
すっぴんの見慣れた顔とご対面。
ようやくまともに見れるようになった。
正直、兄貴の化粧は目に毒だ。
可愛いに拍車がかかってもはや手におえない。
理性を保つのもやっと。
本能のままに触れたくなる。
駄目だと分かっていても、無理やりにでも、襲いたく――…、
「……SK、…おりはぁ……らっちゅ、なぁ…お婿さん、………お嫁さんじゃぁ……らいぃ~」
目と鼻の先に兄貴の顔。
昔の夢でもみているのか、どこか幸せそうに「うぅ゛」と呻いている。
俺は血が滲むほどに両の拳を握り、ベッドから上半身を起こした。
「おやすみ」
無造作にお腹を掻きながら未だにムニャムニャと寝言を口にしている兄貴。
そのままいい夢を見続けられるようにと願いながら、扉を閉める。
「ドラ〇もん、…タイムマシーン貸してくれねぇかな」
起きることのない事象を夢想しながら、俺は夕食のインスタント麺に湯を注ぎ、薄暗いキッチンで一人飯。
その後、しっかりと湯につかって、俺も眠りについた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます