第6話 体調不良な兄貴
時刻は17時。
いつもより少し早めの退勤。
夜勤の連中に後を任せ、帰路へとつく。
今日はそこまで激務じゃなかった。
遊ぶ体力も時間も十分に残っている。
夕食を作って食べたあと、何して過ごそう。
兄貴が配信するなら、それをこっそりと追うのもよし。
兄貴が一緒にゲームしたそうにしてたら、参加するのもあり。
兄貴がアニメや漫画に集中してて構ってほしくなさそうにしてたら、溜まりに溜まっているラッシュなアーカイブを消費するでもいいな。
久々に趣味の音楽にふれたいという気持ちは多少なりともあるが、そんな暇があったら一分一秒でも推し活に励みたい。
自分のことよりも兄貴優先。
今はそれでいい。
「ただいまぁ、兄貴いるか?」
極稀に用事があって外出する兄貴。
一応の確認を取りながら、玄関で靴を脱いで大部屋へと向かう。
配信中なのか、アニメや漫画をたしなんでるのか、それとも寝ているのか。
家中が異様に静かだ。
珍しい。
「……なんだ、いるじゃん」
心配が胸中を駆け巡ると同時。
兄貴がフルダイブ型VR機器の上で横になっている姿が見えた。
現実と仮想を行き来するための
それを外し、スヤスヤとおねんねタイム。
頭をフルに使うVRMMO。
現実で体を動かさない分、脳を休めるために睡眠が必然的に多くなる。
今寝たら夜寝れなくなるなんてことは無いため、そのまま休ませておこう。
起きた時、しっかりとエネルギー補給できるようにうまい飯でも作っておくか。
「……ん?」
風邪をひかないよう兄貴へ毛布を掛ける。
そのタイミングで異変に気が付く。
額に滲んだ汗。
口呼吸で上下する肩。
朱く、熱を持った頬。
どうやら兄貴は毛布を掛ける前、既に風邪を引いていたようだ。
―――プルルルッ、プルルルッ。
「もしもし、兄貴が風邪を引きました、大至急、医者を手配お願いします」
とあるところへ電話をかけた数分後。
白衣を着た大行列がやってきた。
全員部屋に入るわけがないので、自称「世界一の名医」とその助手数名を中に入れ、兄貴を診てもらう。
「只の軽い風邪ですね」
「命に別状は?」
「ありません、只の軽い風邪ですから」
「カルイ風邪って新型のウイルスか何かですか?」
「只の軽い風邪に新型もウイルスもありません、落ち着いでください、弟さん」
兄貴が風邪を引いた。
今尚、寝苦しそうにしている。
これが落ち着いていられるか。
「VRは脳を酷使するため、個人差はありますが自律神経が乱れやすいという副作用的なものがあります、あまり長時間の運転は避けるよう、
そう無責任な台詞を残したあと。
ヤブ医者共はとりあえずの風邪薬を一週間分手渡してきて、帰っていった。
苦しみ悶える人命を放置。
それが医者のやることか?。
「兄貴、俺がついてるからな、安心しろ、大丈夫、きっとよくなるよ」
「うぅ……」
若干、寝苦しそうにする兄貴。
俺はしばらくその手を取って、看病を続けた。
そして、次の日。
薬も飲んで、ご飯も食べて、沢山寝て起きた兄貴は元気になった。
どうやら本当にただの軽い風邪だったらしい。
ヤブ医者とか言ってすみませんでした。
こんど会ったら大度悪くしてすみません、とあの自称世界一の医者に謝っておこう。
「兄貴、朝飯作っといたから、昼飯食う前にちゃんと食べとけよ?」
「……」
「おい、兄貴、聞いてるか?」
「……」
風邪も治って熱も引いたはずの兄貴。
若干にしてまだ頬が赤い。
「おい、無視すんなよ、寝ぼけてんのか?」
朝食を食べ終えて食器を片付る。
謎に返事がない兄貴を気にしつつ、仕事へ向かうため玄関へ。
スリッパから靴へと履き替え、立ち上がる。
そして玄関を潜ろうとした瞬間。
「看病、ご苦労ッ!!」
背後から兄貴の大声。
続けて、トタタタッ、っと部屋の奥へと引っ込む足音。
「行ってきます」
「いってらっしゃいッ」
何処か投げやりな返しに、くすりと笑い、俺は玄関を潜った。
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