第4話 うつ病な兄貴

 今日は仕事が早く終わった。


 だから早めに帰宅した。


 そしたら兄貴が首を吊ろうとしていた。


 当然止めた。


 兄貴はすすり泣きながら己の女々しさに嫌悪していた。


 美少女な顔。

 天使の萌声。

 男に成長しない体。

 

 全てが兄貴にとって不快さをもたらすもの。


 そうなるきっかけを作ったのは同性の男という存在。


 どこへ行ってもそういう視線を浴び。

 どこへ行っても同性から言い寄られる。


 外を歩けば常に他人からの視線を浴び。

 世界が女として兄貴を扱う。


 それは言うなれば、男としての兄貴の存在否定。


 周りがいくらそんなつもりじゃなくても、兄貴からしてみればそれと同義。


 見た目は普通じゃなくても、兄貴は何処にでもいる男心をもった男なんだ。


 ここまで追いつめられてしまうのも無理はない。


 弟として背景をよく知るからこそ、怒鳴って叱りつけることも出来ず、俺はただ優しく抱きしめて兄貴を慰め続ける。


 優しく抱擁し、肌に触れて、匂いを嗅いで、髪に触れて、温もりを感じる。


 空気も読まず高鳴る鼓動。

 気色が悪くて仕方がなかった。


 どういうつもりなんだ。

 何を妄想してんだよ、お前。

 

 兄貴の味方面して、お前も所詮、周りと一緒じゃねぇか。


 いや、味方面して情欲を沸かせてる分もっと質が悪い。


 正真正銘、屑野郎だ。


 兄貴が自分を嫌う様に、俺も自分が大っ嫌いだ。


 それでも、慰めないわけにはいかない。


 今、兄貴に必要なのは、絶体的に信頼を置く家族の温もりなのだから。

 

 兄貴が泣き止むまでの間、ひたすら優しく声をかけ、優しく頭を撫で梳いた。


 こんなことがもう二度と起きないようにと願いながら。


 ひたすら、欲望を抑えつけて。





 気持ちが悪い。

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