第3話 自慢げな兄貴

「YoYo、愚弟さんYo、聞いてくれYo~」


 帰宅してすぐ、トテトテと足音を立ててやってきた兄貴。


 何かいいことがあったのか、にやけた面を浮かべている。


 仕事から疲れて帰ってきた俺。


 正直このままベッドで熟睡したい。


 しかし、ダル絡みしてくる兄貴を放置するとしばらく機嫌を損ねて面倒だ。


 軽くため息をついて、俺は「なにかいいことでも?」と口を開いた。


「実はな実はな、今日、ダンジョン配信する前に体を慣らそうとラッシュな筋トレしてたんだけどさ~、古参リスナーの一人、『びっとビート』さんがひっさしぶりに俺の配信きてくれたんだよー」


「…へぇ」


「その人、俺が初めて配信した日にも来てくれた三人の内の一人で、ずっと俺のこと観てくれてたんだよなぁ~」


「なるほどねぇ」


「いつからかパッタリと配信来てくれなくなってもう見限られたのかなって思ったけど、そうじゃなかったッ!!」


「途中でWitubeのアカウント変えたって言ってたろ、それで見つけるまで配信来なかっただけじゃね?」


「お?、そうか?、つまらなくなってみるの止めたとかじゃなくて?」


「もしそうだったらわざわざまた見に来ないって、それに、視聴者だって常に推しを追ってるわけじゃない、…色々と忙しかったんだろーよ、きっと」


「うーん、まぁ、そう…かなぁ~、そうだったらいいなぁ~」


 俺の擁護に納得していない様子の兄貴。


 しばらく長い白髪を手櫛で梳きながら「うーむ」と考え込んだあと、気を取り直す様にニパっと笑顔を見せ、その後、唯一のリスナーであるビットビートとの思い出に花を咲かせる。


 リスナーとの思い出語り。


 第三者として聞く分には退屈極まり無い、が。


 俺は大いに楽しめた。


 何故かって?。


 びっとビートは俺だからだ。


 推しと思い出を振り返る。


 退屈なわけがねぇだろがって。


 因みに兄貴はこの事実を知らない。


 因みに因みに、初配信時に集まったもう二人は、母と父だ。


 勿論、その事実も兄貴は知らない。


 知らなくていい。


 だって、その方が兄貴のためになる。


 依怙贔屓な身内が見ていたというよりも、知らない人が見てくれるという事実の方が配信者として自信が付くはず。


 それに、初配信なんて黒歴史、家族に見守られていたなんて今の兄貴が知ったら、一週間はこの空間で気まずい空気が流れるに違いない。

 

 恥ずかしがってる兄貴もみてみたい気もするが、余計なことはしないに限る。


 ここは俺の唯一の安らぎの場。


 居心地が悪くなるようなことだけは避けるが吉。


「でなでなー、これがまた辛辣な所がお前にそっくりでさぁ~」


 びっとビートについて語る兄貴。


 どことなく俺の影を見ているようだ。


 …もう少し、コメントの方を優しくするか。


 その後も延々と喋るは喋る。


 聞き耳に徹していた俺。

 眠気に耐えながら相槌機器と化す。


 そしてそれから三時間後。


 喋り疲れて寝落ちした兄貴をベッドに連れて行き、シャワーやら掃除やら朝食の準備を軽くして、ようやくベッドの上で眠りについた。


 とれる睡眠時間は約二時間。


 明日も早い、というか今日。


 疲れすぎて寝られない。


 時間だけが刻々と過ぎていく。


「……筋トレすっか」


 疲労困憊が故に熟睡できない現象。


 無駄な時間を使うなら、と俺は再びベットから起き上がった。


 

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