第2話 VTuberな兄貴
はっきり言おう。
俺の兄貴は世界一かわいい。
人間離れに整った幼い容姿も。
誰より他人に優しくできる心根も。
全人類の本能を刺激させるあの声も。
兄貴の右にも左にも出る「かわいい」は存在しない。
これは誇張でも比喩でも兄貴贔屓でも何でもない。
単純な真理だ。
百人いれば百人が「かわいい」と言ってしまう程、兄貴はかわいい。
だけど、それを言われる本人はそのことをコンプレックスに思っている。
どれだけ可愛い存在として世界に君臨しようとも、性別も性格も男。
可愛い自分に兄貴は耐えられないんだ。
とくに同性からそういう目で見られるのは。
だから俺はその言葉を本人に押し付けるようなことはしないと決めている。
兄貴が最も嫌がることをどうして弟の俺が出来よう。
友人も知人も両親もいない今の状況。
支えられるのは家族である俺だけなんだ。
俺だけが兄貴の味方で居られる。
それだけで満足だ。
『褐色の肌ッ、筋骨隆々なボディッ、全てを癒す慈愛の重低音ボイスッ、足りないッ、もっと、もっとだッ!!、俺はラッシュなんだぞぉおッ!!』
移動用ポッドの中。
イヤホンをつけてとあるVTuberの配信を視聴。
スマホの画面に映るは、褐色の肌を持った筋骨隆々な大男のハゲ。
重低音が利き過ぎたボイスチェンジャー。
犯人声が耳障りで仕方がない。
しかし、これもVTuberな兄貴だと分かっていると、不思議と耐えられる。
「筋トレしても意味ねーだろ、ばか」
雄たけびを上げながら仮想世界で自重トレーニングをする
俺は「不死鳥のラッシュ(本物)」唯一の視聴者として、ツッコミをチャット欄に投稿した。
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