第2話 サマーをエンジョイするな

7月25日


「三者面談に1人で来るとは、お見合いかなんかと勘違いしてるだろ?なめんなよこのやろう」


三十路に差し掛かった担任の来道勢津子らいどうせつこ、通称せっちゃんがため息をつきながらだった。

本人はその古風な名前を嫌っているが、生徒に親しげに「せっちゃん」と言われることは気に入っているらしい。来道先生というと露骨に不機嫌になることからもそれは明らかだった。


まだ体育祭の話も出ていない、夏休み期間の学校だった。


「事前に言ったじゃん、親は来れないって」

「分かってますよー、違うもん。教師ってさ夏休み暇なんでしょ合コン行こうよ合コンって友達に誘われたのになんか暇そうって思われたの癪で断ったら次の日友達がSNSで医者の彼氏ゲットしたこと報告しててムカついたあまりネイルやらエステで散財してそして今日教頭に教師にしてはずいぶん派手な格好ですねぇ夜も遊んだりしてませんよねベッドの上で(にやぁ)って軽くセクハラされて落ち込んで八つ当たりしたかった訳ではありまっっせんっっっっ、、、、、、すぅううううううううううううううううはぁああああああああああああああああああああああああああああああああ」


怒涛の愚痴、その奔流に京太郎は半ば溺れたようになりながらも、


「取りあえず教頭はクビにした方がいいし、せっちゃんもテンプレ婚期遅れ教員になってるからやめた方がいいよ、今どき30で結婚してないのは普通だし。それからちゃんと息吸いながら会話して」

「ん?、、、、、、今、なんつった?聞き間違えカナ?」


途端、せっちゃんの目の色が赤く染まるのが確かに見えた。

あ、殺される___。

京太郎は本能的に手を首にやり、守るようにせっちゃんから隠した。


「30だって?」

「あ、、、」

「私は29だが?あんさん、私は29だが?」

「はい、そうでした、大変失礼いたしました。二度と間違えません」

「分かればよろしい」


校庭では部活に励む生徒の活発な声が轟き、教室にはオレンジの羽の大きな扇風機が訳知り顔で首を回している。そしてどこで鳴くのか、蝉の声がしんとした静寂の中で大きく耳に響いた。

いったい何分ほどの静寂だったろうか。

落ち着いたせっちゃんが仕切りなおすように咳ばらいをし、


「で、進路希望だけど、これマジ?」

「マジです」

「マジかぁ」

「はい」

「ったく、めんどくせー案件持ってくんなよ、1年だろ?」


教師とは思えない発言である。

生徒の進路をめんどくさいとは、、、。


「これそのまま出してみなさいよ、学年主任に私が怒られるだろうが、なんだよ夜間大学って」

「夜間大学を卒業した全ての人に謝罪してください」

「いやそういう意味じゃなくて、おまえん家は金あんだろうよ、それに学力も問題なし。別に夜間大学行っても構わないけど、今は大人しくK大とかO大とか、N大とか、K大とか、I大とか書いとけよ」

「K大が2回出てますがってか、KONKI?どんだけ結婚気にしてんすか、寝た方がいいっすよ」

「うるせぇな、とりあえず難関大学書いとけって言ってんの、授業態度はあれにしろ、成績だけはいいんだから、波風立てるなよ、私の肌荒れが加速するだろ」

「せっちゃんもともと肌はあんまり、、、、、」

「あぁん!!??なんか言ったか?」


ドラマで見るヤのつく人から発せられたとしか思えない声が横隔膜あたりを震え上がらせた。この辺でからかうのはやめておこう。本当に一発殴られそうだ。そしてその一発が致命傷になりかねない気迫を眼前から感じる。


「そりゃ、もともと陸上ばっかだったし、今も顧問で炎天下、保湿なんて不可能、紫外線のシャワーですからね、そりゃ肌も汚くなりますよ、泣きますよ、私、生徒の前で」

「ほんと、すんません。何かからかいたくなるんですよねせっちゃん。良い教師ということです、親しみやすくて」

「ぐすっっ、、、ほんと?」

「ほんとですほんと、せっちゃんにしかこの面倒くさい親パワーつよつよクラスまとめられないですよ」

「もっと褒めて、もっと、せめて心だけは潤してっ!」

「ほんとに良い教師ですよ!聞きましたよ、元実業団の選手で日本代表だって狙えたって。そんな教師が顧問なんて陸上部は幸せだなぁ」


そこでせっちゃんの目が急速に光を失っていくのが分かった。

焦点も合わず、どこか遠くを見やるよう。

え、顧問きついのか、それともなんかあったとか、アシーナからは何も聞いていないが、、、。


「そうだよね、陸上部の子たちは幸せだよね、、、本当にそう思う?」

「そ、、、そうですよ、こんな実力のある顧問で、、、」


え、何、こわい、、、。

急に冷房強くなった?

汗がさっと引き、肌が粟立つのを感じる。


「ならさぁ、あなたもその幸せなファミリーの一員になるべきだと思わない?みんなでぇ、幸せにぃ、ハッピハッピなエブリデイを送りたいよねぇ?」


なんか宗教の勧誘でも受けているかのような寒気が。

目も完全に座ってるし。両肩がっちり掴まれちゃったし。

怖い怖い怖い、なになになに、なんなの?


「なんで俺が、、、、、」

「なんで?なんででしょうねぇ、、、?分からないの?分からないのかぁ?それはいけないねぇ?教えてあげないとねぇ」


首がもう人間が曲がる角度じゃないぐらい直角に曲がってる。

目がぎょろりとして、血走って、今にも眼球が床にごとりと落ちそう。

唇がナイフで裂かれたようにぐわっと開いて、白い歯がかちかちと鳴っている。


「それはね、、、、、、、、、、それはねぇ、、、、?」


その時、突如として空が暗くなり、雷の轟音が教室を激しく叩きつけた。

夕立だ、と冷静に思う間もなく、激しく降り落ちはじめた雨の音と雨滴の影の乱舞の中、顔と顔、一毫いちごうほどの距離で唾を吹きかけながらせっちゃんがまくし立てた。


「それは、、、それはね、、、お前がで中学400メートル記録保持者どころか当時の高校記録よりも速くて、ゴールド京太郎と渾名され、将来のオリンピックも確約された逸材だからだぁ!!!!それなのに怪我がどうとかでこんなクソみたいなゴミ、、、いや、ゴミ箱からすらあふれ出た紙屑同然の、社会不適合人間に成り下がっているからさ、だからね、だからさ、早く陸上部入って成績残して私の出世の糧となって欲しいなぁって♡」


バ――ン!!

と、雷がどこかに落ちた音がして、教室の窓がガタガタと鳴る。

ジェットコースターのように至近距離でまくし立てられ、京太郎の顔は唾だらけだった。女の子の唾まみれと言えば一部の方は喜ぶかもしれないが、普通に嫌だ。

それに大変失礼なことも言われた気がする。


「先生、知ってたんですか?」

「知ってるも何もねぇんだよ、むしろアシーナが気づかない意味が分からん」

「なぜそこでアシーナが?」

「は?あいつが入部の時なんて言ったか教えてやろうか、陸上は初心者で運動もほとんどしたことありませんが、金城京太郎選手に憧れて入部しました。いつか一緒の大会で走りたいですって、頬染めながら宣言してたぞ。ああ、これ多分気づいてないなって思ってやぼなことは言わんかったが、クラスにいるクラスに!それに今や隣にいる隣に!ってこれまで何回突っ込みそうになったか。まぁ理事長からも口止めされてるし、どっちにしろ言えんが」


なんとなくその場面は想像できるが、、、アシーナの奴、そんなこと言ってたのか。


「中学のときは坊主でしたからね、それにアシーナは多分1回しか見たことないから」

「脚みりゃ分かるだろ、名前一緒だし」

「脚見て分かるは異常ですよ、一般の人からしたら」

「私はね、部活でどんどん引き締まっていく学生の脚が好きすぎて顧問になってんだよ」

「え、怪我で引退とかじゃないんですか」

「違いますー、発達していく少年少女たちの脚やらケツが好きすぎて顧問になったんですぅ」

「ええ、、、、、気持ちわる、、、」

「人の趣味を笑うなよ、迷惑かけてるわけでもあるまいし」

「いや、若干迷惑な気が、、、、、」


衝撃の告白の末、散々部活への入部に誘われたが、結局断り切って教室を後にした。


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教室を出て、この後どうしようかと思い悩む。

夏休みにも関わらずせっかく学校くんだりまで来たのだから、本屋にでも寄って行こうか、それともどこかで軽く外食でも、、、なんてことを廊下の暑さにぼんやりとしながら考えていたときだった。


「あら、京太郎君の面談時間だったのね」


冷たい、感情のない声が背中からした。

人間から出る声を、こんなにも温度を奪って発せられるのは、京太郎の知る限り1人しかいない。

これは面倒くさいことになったな、と表情を強いて作りながら振り返る。


「、、、新城理事長、お久しぶりです。珍しいですね、学校に来るなんて」

「そうね、ただその口ぶりだとあまり会いたくないように聞こえるわね」


振り向けば、アシーナよりも深い黒の髪を団子にまとめた、すらりと背の高い女性がいた。

新城雪あらしろゆき理事長。正式な名前は、スミス・雪。アシーナの母だった。


「そんなことないですよ、やだな、疑り深くて、仕事柄ですか」

「そうね、人の仮面ばかり見て仕事しているからかしら、疑うことが常になってしまったわ」


アシーナの母は新エネルギー関連の会社を経営しており、この学園の理事長でもある。そんな彼女は多忙を極め、学校にはほとんど顔を出さないはずなのだが。


「あなた、うちの娘とは同じクラスなのよね」

「そりゃそうですが、何をいまさら」

「じゃぁ、もうは娘も知ったのかしら?」


京太郎は己の顔が険しくなるのを止めることができなかった。


「その話は立ち消えになったと母から聞いておりますが」

「そんなことないわ、保留になっただけよ、あなたの家が落ち着くまでって」

「そうですか、、、なら猶更アシーナに言う必要はないですね」

「言いたくないのね」

「ひけらかすようなことではないと考えていますし、それに、、、」

「それに、あの子はあなたを別人だと思っている」

「そうです」

「母としてはさっさと真実を知ってもらって、あの子には陸上を辞めて欲しいんだけど。あなたがあの金城だと知れば、娘も熱を失うでしょうし」

「理事長、その件に関してはすでに入学の際にお約束したはずです」

「そうね、忘れてないわ」


新城雪は、それだけ言ってもう興味を失ったのか、先ほどまで京太郎がいた教室の扉を開ける。中でせっちゃんが慌ててがたがたと立つ音が聞こえた。


「あ、、、新城理事長、違います!これは別にサボっているわけではなく、フェイスアップのエステ器具で、、、、、」


なにしてんだよせっちゃん。

おそらく持ち手に球体が2個ついているような器具で、いつものように顔をぐりぐりとやっていたのだろう。全く違くないし、普通にサボりだ。


「あ、そういえば京太郎君」

「はい、、、まだ何か?」


新城雪は半身が教室に入りかけた姿勢のまま、顔だけ出して、


「私、リソースを無駄にすることが一番嫌いなの」

「まぁ、経営者っぽい考えですね」

「そうね、だからあなたがあの憧れの人だと知って、それで娘が陸上を辞めてくれるならそれでよし。そうでないなら、あなたがこのままのんべんくらりと学生生活を謳歌することもまた、認めない」

「はぁ、、、、、」


論理構造がよく分からない。

ただ、その話しぶりに引き寄せられて、この人と入学前に会ったときのことを思い出した。

あれは確か、去年の秋頃だった。


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「京太郎君がこの学園に入学してくれれば、あなたのお父さん含め、何とかしてあげるわ」


それが母からの寄付金目当て、あるいはその権威が欲しくて出た言葉であることは明白だった。


「なんとかって、、、」

「金銭的にも福祉的にもサポートしてあげる」

「父のことは別に、、、自分でなんとかするんで、、、それに俺はもう母とは関係ないので、寄付金なんて出ないですよ」

「いいえ。すでにあなたのお母さまから、あなたが入学した暁には学園に協力いただけるとおっしゃっていただいているわ。それに自分でといっても限界があるでしょう」


なるほどね。結局、母とこの人はグルってわけだ。

母は離婚した父に対して自分で援助する気はない。だが子どもをないがしろにしているとは世間に思われたくない。

いかにも議員って感じの考えと、根回しだ。


「でも、俺はここに入学する気は、、、」

「他に気になることでもあるの?」

「、、、この学園には、アシーナも入学するんですよね」

「ああ、そのこと。そんなことなら全部内緒にしてあげてもいいわ。あなたが金城京太郎だということも、もう1つの件もね」

「いや、普通にバレるでしょ」

「そう?あの子ってほら、夢見がちなところあるし、今のあなたを見ても同一人物だとは思わないんじゃない?なんか、、、誤解を恐れず、言葉を選べば、陰気でしゃばい、清潔感のかけらもない感じだもの」

「言葉本当に選んでます?だとしたら学園の理事長として語彙力に不安を感じますが」

「失礼、素直な意見が出たわ」

「素直な方がひどいんですがっ!それと、、、じゃぁ、彼女に陸上を続けさせてあげることも約束してくれますか」


京太郎の知る限り、新城雪が笑ったのはその時が初めてだっただろう。

ふふっと柔和に笑って、


「この場において、ほとんど会ったこともないあの子のことを考えているの?それっておかしくない?」

「彼女は、走りたがっています、きっと誰よりも」

「、、、あなた、走るのが、走るような人間が、好きなのね」

「いえ、、、、、、もう好きじゃありません、どっちも」



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要するに、俺が金城京太郎だと知って、理想との乖離からアシーナが陸上への熱を失えば理事長は御の字。自ら辞めるのだから約束を破ったわけでない。

でも、そうならないなら。

俺が陸上を再開して、何かしら学校に貢献しろ、と。

その結果アシーナが陸上を続けたとしても、それはそれで差し引き利益になる、と。

ただし、そうなれば、、、。


「だから、あなたを陸上部に入部させられなければ、来道先生の給料は半分になるし、陸上部の顧問から外そうと考えているのよ」


あ、なるほどねぇ、そういうことねぇ。

先ほどのせっちゃんの豹変ぶりはこれが原因だったか。


「理事長!後生ですから、何卒それだけは勘弁を!!!給料なんてどうでもいいので顧問だけは、、、、高校生の生足だけは勘弁をっ、、、、!!!」

「おい、ぜったい顧問外した方がいいぞ、いつか不祥事起こすに決まってる」


盗撮とか、セクハラとか、エトセトラ、、、。


「そういうことだから、京太郎君、考えておいてくださいね」


そう言ってアシーナの母は冷たい顔のまま教室へと消えて行った。


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「ったく、くそがっ、、、」


京太郎は昇降口を出て、自分でも理由が分からないまま、フラストレーションを吐き出しつつ学校の陸上トラックへと足を運んでいた。


「俺は陸上なんて二度とやらねぇ、たとえせっちゃんの給料が半分になろうが」


まぁそれも冗談だとは思う。

ただあの母親、冗談なのか本気なのか表情から読めないからな、、、。せっちゃんがマジにしているのもしょうがない。


ただ、冷静に考えれば、だ。

俺が金城京太郎だとして、それがあの子にばれたとして、いったい何の問題があるだろうか。

最初はアシーナも憎い相手に自分の痴態を晒していたことに絶句するだろうが、それだけだ。そこから彼女が陸上を続けるかどうかは、彼女自身の問題だ。

それに、結果として1が露呈したとて、俺もアシーナも困るようなことではない。

ならば、俺が理事長とした約束にはなんの意味もないのだ。


夕立も上がって、ところどころ水たまりの出来たトラック。

雲の隙間から差し込む日差しが、まるで神様の通った足跡のように、水に反射してあちこちに光っている。


「アシーナ、、、、、」


彼女の姿はすぐに見つけられた。

黒い髪をなびかせて、まだまだ荒いフォームで駆けるその姿が、どうにも目について離れない。


「私、アシーナ・新城・スミスといいます。あの、走るのは楽しいですか?」


大会が終わるころには、その日も夕立があった。

室内に移動しての表彰式が終わって、協賛のお偉いさんたちに労われていたときだった。

京太郎の記録を褒めつつ、その真意は議員である母へ近づきたいという者たちばかりだ。そういう人間の声は、どこか水中で聞く音のようにぼやけていく。


ただ、その中で、1人の質問だけはよく耳に通った。

走るのは楽しいか、と。

その稚拙な質問だけが頭に心地よかった。

声の方向を見れば、1人、この世の人間とは思えないほど美しい瞳をした少女がいた。同い年ぐらいだとは思ったが、それでもどこか幼さがあった。ふわふわした服のせいもあっただろうし、怯えたように震える手を胸の前で握っていたからかもしれない。


「新城、、、僕と名前似てるね。うん、走るのは楽しいよ。自分の脚でどこまでも行ける気がするから」


 京太郎は記録が出て、ハイになっていた。言葉がつらつらと口から出る。


「どこまでも、、、?でも、途中で疲れるでしょう?」

「ああ、、、、体はね。でも心が、どこまでも行けるような気がするんだ」

「私も、あなたみたいに行けますか?」

「それは君次第だと思うよ。ほら丁度晴れたことだし」


雨を避けて表彰式をしていたウォーミングアップスペースは、地上から少し下った、半地下だった。少し見上げれば、トラックの方に続く階段が、陽の光で満ちている。

まるでそこを通るものを待ち構え、誘うように。


「走ってみる?えーっと、新城、、、」

「アシーナです!」

「アシーナさん、ほら、よーい」

「、、、、、、、、、、、、、、、、、、どんっ!」


誰か大人の制止する声が聞こえたが、その少女は京太郎よりも先に駆け出していた。

ローファーのような、厚底のよく磨かれた靴をかつかつと光らせて、空へと続く方に飛び出していった。

その背に向け、


「結構速いじゃん、アシーナ」


その声はもう彼女に届いていなかったかもしれない。

中学3年の、一番楽しかったときの思い出だ。


その少女が、今も空を反射した地上を駆けている。

トラックを一周する中で、ぼうっと立つ京太郎の姿が目に付いたのか、ふらっとこちらに向かってきた。律儀なやつである。あるいはそれほどに俺がうざったい存在なのか。おそらく後者だろう。


「あんた、なにやってんの?」


汗で顔に張り付いた髪の一束を外しながら、強い瞳で射貫いてくる。

京太郎が苦手となってしまった、まっすぐな目。こういう目を見ると、体中の血液が何の機能も持たない水に入れ替えられてしまったかのような虚脱感に襲われる。


「いや、三者面談だったから」

「はぁ?あんた国語力ってもんがないの?なんでここにいるのかって聞いてんの!」

「いやぁ、こんなに暑いし雨も降ったのによく走るなぁって小馬鹿にしてた」

「あんたみたいな向上心のないレイジーボーンには一生分からないわよ、努力する人の気持ちなんて」

「そのレイジ、、、ってなんだ?」

「怠け者って意味よ!」

「ああ、そういうこと」

「目障りだからさっさと帰って惰眠でも貪ってなさいよ」

「言われなくてもそうしまーす」


わざわざなんでそんなことを言いに来たのかは不明だが、なんとなくそのまま去って行く彼女の背中が寂しくて、


「まぁなんだ、結構速いじゃん、アシーナ」


その言葉に、きゅっと足を止めたアシーナはこちらを振り向かず、


「努力してんだから当たり前でしょ、あんたと一緒にするな!」


これまで以上に大きな、怒りを含んだ声で吐き捨てて、また明るい方へ駆けて行った。













 



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